↑ トップ頁へ

2010.8.9
 
 

米中齟齬発生…

〜 米中蜜月はずいぶんと続いてきたのだが。 〜
 突然だが、米中蜜月と書いたのは何時のことだったか見返してみたら、2007年1月。(1)

 米国は日本を露払いにして、中国投資を進めた。Goldman Sachsが指導し、中国への円滑な資金の流れも実現させたため、グローバル経済化は一気に加速し、世界経済は上昇気流に乗った。この成功を踏まえて、政治的にも協調路線を進めることにしたのがこの頃だろう。当然ながら、その次の一歩は安全保障政策の一大転換となる。冷戦構造崩壊時代を終え、次の時代の基本枠組みに進む訳だ。
 要するに、台湾統合の容認、朝鮮半島からの撤兵、中国を仮想敵国とする日米安全保障条約の換骨奪胎ということ。
 もちろん、人民解放軍の体質が変わる兆はないから、紆余曲折はあるだろうが、長期的な方向は定まったかに見えた。

 そして、オバマ政権になっても、これは変わらないように思えた。
 なにせ、民主党政権にもかかわらず、チベット、ウイグルの中国主権を認め、人権外交的な主張をできる限り抑え、民主化要求の棚上げ姿勢をあからさまに見せるようになったからである。そして、朝鮮半島問題は基本的には中国側にまる投げ。

 その一方で、中国も“世界の”大国として、米国と分担して、世界の安全保障体制維持に貢献せよという誘い水を出し続けてきた。
 世界の安定のために米国が自腹ですべて取り仕切り、他国がそれを無料で活用する体制はそろそろご勘弁という国内世論の高まりもありそうだが、中国引き込みが可能と判断していたのだと思う。
 と言っても、過渡期だし、人民解放軍と中国共産党中央は一体という訳ではないから、太平洋における絶対的な軍事優位を保ち、台湾防衛の義務を果たすと共に、人民解放軍の対潜水艦戦力への対応は怠らずとはなっていた。時に摩擦は生じたが、なんとかなったのである。

〜 その流れが変わりつつあるかも。 〜
 ところが、どうも、この流れが変わったようである。そう思ったのは、政治の話ではない。
 “Last week at a private gathering in Rome, Mr. Immelt[General Electric CEO] blamed an increasingly protectionist government that seems intent on limiting the success of foreign businesses in China.”(2)(ターゲット数値を実現できなかったので責任転嫁したとの見方もあろう。)

 一例しかあげないが、多国籍企業の姿勢が変わり始めたのではないか。それは、中国政府が保護主義を強めているだけではなく、国内企業をグローバルな有力企業に育てるべく強力な支援を行っているせいもあろう。(韓国の国家的支援は有名だが、政府が貿易障壁を減らす姿勢だから皆知らん顔をしているだけのこと。両者を同時に行えば話は別。)
 初めは、一部からの不快感表明でしかないが、この認識が広まると、それだけで留まることは稀。もともと、共産党の独裁政権であるにもかかわらず、米中の政治的蜜月が実現できたのは多国籍企業の力が大きかったことは明らか。それが失われるとなると、状況は流動的になる。
 時あたかもGoogleも動いており、中国の国家社会主義体制に対する不信感が広まれば政治の姿勢も変えざるを得まい。

〜 発端は共産党トップの身勝手な動き。 〜
 しかし、ことの発端はおそらくここではない。
 コペンハーゲン COP 15/MOP 5が圧巻だった。中国はオバマ大統領の存在を完璧に無視し、スーダンを始めとする発展途上国と組むことに奔走したからである。当然ながら、欧米メディアの論調は、“中国が壊した”だった。石炭発電国の中国は“議定書”そのものを無くしたかったと見なされた訳である。ともかく、中国はCOPの検証を絶対に受け入れないということ。(3)そのために、なんだろうとやった訳だ。

 米国も含め、先進国は、中国を交えた国際会議の無意味さに今更ながら気付かされたということ。これで、オバマ政権からG2のコンセプトは霧消。中国v.s.先進国の従来構図に戻るしか手がなくなった。
 それでも、米国は国連安保理事会では我慢しながら、成果を出すべく動いているが、そのうち中国の対応に耐え切れなくなるかも。
 特に、中国のイランへの姿勢は、イラン核大国化支援としか思えないから、協調路線を続けられなくなる可能性はかなり高かろう。

〜 米国はすかさず安全保障問題で中国の面子をつついた。 〜
 これを踏まえた次の動きが、2010年初頭の台湾への武器輸出の話。実に絶妙なタイミング。
 中国では、“美政府宣布告台武器・・・危害中国国家安全”といった調子ばかりで、大騒ぎ。(4)一つの中国を認め、武器輸出を減らすとしたレーガン政権時代の「八一七公報」に反するということで、前時代的な切れかかった文言まで並んだ。米国から見れば、戦闘機を売却する訳でもないし、人民解放軍が海峡付近の軍区での能力増強を図っているのだから当然との対応。米国のいつもの調子の、商売になるなら結構路線。ただ、人民解放軍の反応だけはじっくり眺めていた筈である。

 中国にしても、ここで米国債を売るブラフをかけたところで、実際には替わりに買うものが無いから、窮するだけだ。と言って、かつての封じ込めを受けた時代のような対応に戻る訳にもかず、頭を抱えたというところでは。オバマ政権、なかなかの癖球を投げた訳だ。

 さらに引き続いたのが、韓国海軍艇沈没にともなう黄海での原子力空母の軍事演習計画騒ぎ。
 結局、それは避けたが。原子力空母George Washington、原子力潜水艦Tusconなど艦艇約20隻、ステルスのF-22やF-16と空中給油機KC-135を含めた航空機約200機、米韓の兵士8000人、と今迄とは比べ物にならない超大規模で本格的な演習を挙行。(5)ここまでくると、圧力をかけるというより、金政権崩壊後に発生すると予想される混乱を一気に収めるための予行演習と見た方がよさそうである。

 米国から見れば、北朝鮮問題の重要性は相対的に低かったと思われるが、そうでなくなることを示唆しているのかも。
 米国にとってみれば、一番はイランと核保有国イスラエル問題だろう。下手をすれば、中東大戦争勃発に繋がりかねないのだから。統合参謀本部議長がイラン攻撃計画の存在に言及したのも、それが杞憂でないことを示していよう。(6)ともかく、ここ1〜2年しか時間的余裕がないのだから、大変である。
 次がアフガニスタン・パキスタンか。アフガニスタンは敗退以外に手がないが、その後のパキスタンの核管理状況への不安は大きかろう。さらに、中・印の軍事競争でも始まれば、印・パキスタンの火種も復活しかねないし。
 これに比べれば、北朝鮮のリスクは低い。ただ、それは、北朝鮮による核拡散は中国が容認しないとの前提があるからだ。しかし、本当にそうなのかはっきりしている訳ではない。
 世界を見れば、核均衡の枠組みが崩れつつある訳で、新しい枠組みが必要なのは明らか。ところが、北朝鮮への対応を見る限り、それを中国と共に考えるのは無理なのは歴然としてしまったからだ。しかも、この先、中国の新設原発から、核兵器原料が量産されてくるのである。それをどうするかもよくわからない。
 核戦争を防ぐためには、イランか北朝鮮の政権を倒すことしかないのは明らかで、中国が逡巡どころか、核拡散を後押しすると見た瞬間に米中関係は壊れざるを得まい。

〜 ARFで米国が存在感を示したことを中国がどう受け止めるかだ。 〜
 そんな状況で、ハノイで開催されたASEANのARFでは、Paracel/Spratly Islands問題が議題に上った。結論は単純明快。(7)
・“Declaration on the Conduct of Parties in the South China Sea of 2002”をマイルストーンとして確認。
・完全履行のための努力を推奨。
・中国でのワーキンググループ会合を年内開催を歓迎。

 二国間交渉と、領土支配の黙認状況は一瞬にして反故にされた訳である。中国外交部の面子丸潰れ。
 人民解放軍のフラストレーションはさらに高まったに違いない。そのためか、外交部もすぐに対応できなかったようである。(8)

 オリンピックと万博までは我慢してきたが、勝手な動きを始めるなら、軍事的封じ込め型に逆戻りさせ、ベトナムへの核技術移転も行うことになるが、それでよいかと球を投げたに等しかろう。
 イランと北朝鮮問題で、中国政府が態度を変えないつもりなら、この手の動きがこの先も続くという最後通告だと思われる。米国の動きは機敏。8月5日には、原子力空母を黄海での演習に派遣すると表明したからだ。(9)アフガニスタン敗退は時間の問題であり、イランも2年しか待てない。米国も忍耐という訳にはいかないのである。

 中国共産党ははたしてどんな姿勢で臨むだろうか。(10)
 人民解放軍の影響力が強まっているようだから、中国の出方によっては、対立の構図に進む可能性もなきにしもあらずでは。

 --- 参照 ---
(1) 「米中蜜月時代突入か+リンク集[中国]」(20070118)    http://www.randdmanagement.com/c_seiji/se_177.htm
(2) “China's Frustrated 'Old Friends' Beijing's domestic protectionism is alienating allies” Wall Street Journal [JULY 8, 2010]
(3) “国連気候変動交渉 中国「COPの検証は受け入れられない」” 人民網日本語版 [Jun 22 2010]
   http://j.peopledaily.com.cn/94474/7033268.html
(4) (中国語)人民網(中国共産党新聞) [2010年01月07日]
   http://military.people.com.cn/BIG5/52935/10722956.html
(5) “原潜からF22まで、米韓合同軍事演習終わる” AFP [2010年07月29日](写真28枚)
   http://www.afpbb.com/article/politics/2744034/6020524
(6) [video] “U.S. has Iran strike plan, says Mullen” NBC Meet the Press [2010.8.1]
  http://www.msnbc.msn.com/id/3032608/vp/38510041#38510041
(7) “Chairman’s Statement” 17th ASEAN-ARF [23 July 2010]
   http://www.mofa.go.jp/region/asia-paci/asean/conference/arf/state1007.pdf
(8) “楊潔チ外長駁斥南海問題上的歪論” 中華人民共和国外交部 [2010/07/25]
   http://www.mfa.gov.cn/chn/gxh/tyb/zyxw/t719371.htm
(9) Jon Rabiroff: “Pentagon says U.S. carrier to exercise in Yellow Sea” Stars and Stripes [August 6, 2010]
   http://www.stripes.com/news/pentagon-says-u-s-carrier-to-exercise-in-yellow-sea-1.113610
(10) [環球網の記事]
   “中方堅決反対越南就西沙海域発表侵犯主権言論” 環球網-中国新聞網 [2010-08-07]
   http://china.huanqiu.com/roll/2010-08/993771.html
   “美媒担憂在中国家門口軍演或已引発東亜戦争” 環球網 [2010-08-06]
   http://mil.huanqiu.com/Exclusive/2010-08/991374.html


 政治への発言の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2010 RandDManagement.com