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2010.9.6 |
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金正日長春訪中の意味…〜 相変わらずの単純な後継話だらけでこまったものだ。 〜2010年8月末の、キム・ジョンイル朝鮮労働党総書記・国防委員会委員長の長春訪問は結節点的な意味あいがありそうだ。 なんといっても特徴的なのは、新華社の報道姿勢。(1)帰国後ただちに報道したところを見ても、準備万端整えた宣伝イベントとしての位置付け。 これに対して、日本の報道はあいかわらず後継者問題ばかりで、読む気が失せる。(記者の憶測だけ。しかも無署名。専門家等の意見をひとつも引用しないものも少なくない。) 例えば、“今回の訪問を通じて、後継問題では血筋が何よりも重要だと強調することで、朝鮮労働党の代表者会を前に、キム総書記の三男ジョンウン氏を後継者として擁立するための環境づくりを進めるねらい”といったようなもの。 こんな説明では、何がなんだかわかるまい。儒教国だから、長男以外が、キム・イルソン主席の“思い出の地”を訪問したところで、たいした意味はないからである。ところが、それ以外の話は何もない。どういうことか、書き手しかわからないのだ。こまった解説である。 〜 後継体制については、前回の訪問で“お知らせ”したようだ。 〜 まず、おさえておくべきは、この訪問では、後継者が明示的に存在していない点。陣容を見る限り、二人の国防委員会副委員長と外務省第一副相による集団指導体制に移行中としか思えまい。このメンバーだと、外縁のチャン・ソンテク[張成沢]副委員長が過渡期金王朝を代表する立場になる。 【陪席者】 国防委員会副委員長金永春、党中央書記金己男、党中央部長太宗秀、外務省第一副相姜錫柱、国防委員会副委員長張成沢,朝鮮党中央部長洪錫亨、金永日(1)、金養建(2),黄海北道党委責任書記崔竜海、平安北道党委責任書記金平海、慈江道党委責任書記樸道春 役職無記載の理由はわからないが、(1)は朝鮮労働党国際部長、(2)は統一戦線部長だった。 しかし、この訪問が後継問題と関係していないかといえば、逆である。それは、これが中国側のご招待で設定されているからだ。しかも、非公式行事。国家主席として歓待しているのではないということになる。それに前回の訪問を終えたばかりとくる。 常識的に考えれば、これは、ひとまず後継体制が決まり、混乱なく王朝体制維持が図れそうなので、中国共産党のトップとして、祝賀の意を示したということ。それ以外に考えようがない。(空軍エリートの戦闘機による国外脱出事件はあったが、ひとまず粛清も終えたようで、組織が落ち着き、一族分裂も防げたようである。) 【背景】 “ 応胡錦涛的邀請,金正日8月26日至30日対中国進行非正式訪問,併在吉林省、K竜江省参観考察。” 共産党組織はトップが絶大な権限を握るが、その後継者人事はすぐに公表されることはない。しかし、例外がある。友好党のトップには後継が内定し次第早目に知らせるのが礼儀である。(コミンテルン時代は別だが、人事は他党に“ご承認”頂く筋合いのものではない。江沢民も金正日に後継人事を知らせた筈である。それが独裁政治の習慣というもの。)それを考えると、前回の中国公式訪問での状況説明で、後継人事を知らせていたことになる。 そう考えると合点がいく。 なんといっても、この訪問のハイライトは中国国内の朝鮮族代表に首領様が声をかける場を設定した点。明らかに、朝鮮族に君臨する正統な王朝であることを示すためのもの。しかも、中国共産党のトップが北京からわざわざ足を運んでまで総書記会いに来たのである。そして、世代”を越えて友誼をとのお言葉まで。この地は、北朝鮮建国の父の抗日運動の史跡だらけであり、このご招待は、中国共産党総書記からの格別なお祝いと言ってよいだろう。 総書記の威光を印象づけるためのタネが目白押しなのは、この力で朝鮮労働党の代表者会を牛耳れるように、中国が全力でお膳立てしたということ。 【北朝鮮報道(2)】 “Hu said that the traditional Sino-DPRK friendship is a precious treasure of the two parties and the two peoples and it is the common historic responsibility of the two sides to advance the friendship along with the times and convey it down through generations to come, reiterating the steadfast policy of the Chinese party and government to boost the bilateral relations of friendship and cooperation.” まあ、そこまで助力しなければならないほど首領様の力量に陰りがでてきたといえるかも。 〜 この訪問は、中国が仕掛けた、金政権の路線転換を示すためのイベント。 〜 それはそれとして、北朝鮮の話ばかり盛り上がるのは、見方が偏りすぎではないか。もともと中国が仕掛けたものであるし、中国の観点からも、その意味を考えることが重要だろう。常識的には、弱小国が何をしているかは、その後で考えるべき話だと思う。 という観点で眺めると、なんといっても、驚きは、中国東北部だけなのに5日間も費やしたこと。現場視察による直接統治重視の政治手法の国で、これほどの時間をかけたこと自体、大きな意味があるといえよう。つまり、中国・東北3省の経済大発展政策に対し、北朝鮮が国をあげて全面的に協力するとの意思表明を行ったということ。これ以外には考えられまい。 【訪問先】 吉林省-吉林市,長春市 黒竜江省-哈爾浜市 [機械製造、軌道交通、化学工業、食品加工企業 農業] (前回: 遼寧省-大連) というか、これは視察というより、黄海北道、平安北道、慈江道の責任者に、これから具体的に動けと、キックオフ会合を現地の産業界と行ったと考えるのが自然である。 要するに、金政権が、中国に対して全面開放政策を採用すると確約したのだと思う。これは路線の大転換だ。 朝鮮労働党の代表者会では、この体制作りのための組織再編が行われると予想される。新指導体制が発足し政策転換を行うことになるのだろう。 〜 だが、中国は、朝鮮半島の政治状況を変える気はない。 〜 ただ、開放政策採用といっても対象は中国限定だし、朝鮮半島の安全保障問題は棚上げである。中国が采配を振るう六ヶ国会議は、この先延々と続くことになるが、現状維持で何もかわらないということ。 このため、中国は韓国の反応をえらく気にかけている様子。何の成果もない外交に苛立ち、半島の不安的化を引き起こされるのだけは要注意という訳。と言っても、北朝鮮お得意の軍部の跳ね上がり・ガス抜き行為は謹んで欲しいという“お願い”以上のことはするつもりはなさそうである。 集団指導体制になったとしたら、軍の暴発を防げるかはなんともいえないのである。 【主張】 “金正日説,中国東北地区是朝中友誼的発源地。・・・両国老一輩革命家親手締造的朝中伝統友誼足珍貴。” “胡錦涛強調,堅定不移堅持以経済建設為中心,推動社会主義現代化各項事業全面発展,不断保障和改善民生,這是中国改革開放30多年来的一条基本経験。発展経済既要靠自力更生,也離不開対外合作。這是順応時代潮流、加快国家発展的必由之路。中方尊重和支持朝方為維護穏定、発展経済、改善民生採取的積極舉措。” 【半島情勢の核心】 “胡錦涛指出,聯合国安理会就“天安号”事件発表主席声明後,朝鮮半島形勢出現一些新動向。維護朝鮮半島和平穏定是人心所向。” “金正日高度賛賞中国為六方会談和維護朝鮮半島和平穏定作出的積極努力和貢献。” 〜 いよいよ大中華圏構想が本格化する。 〜 このことは、米国は北朝鮮に対する実効ある制裁措置が無くなってしまったことになる。この訪問にあわせ、米国政府も対北朝鮮制裁を強化したが、(3)おそらくなんの意味もなかろう。中国東北部と北朝鮮の経済一体化がより早く進むだけ。 軍事的圧力にしても、中国との対立を目論むなら別だが、そうでなければほとんど無意味になってしまった。首脳会談を連続的に行ったということは、中国が金王朝の安全保障を確約したようなものだからだ。 ご存知のように、2010年4月から、GoogleMapから北朝鮮が消滅したが、政府による制裁よりこちらの方が余程影響力があるといった状況なのである。 要するに、北朝鮮経済を中華経済圏と統合することに、金政権はついに同意したということ。君臣関係ではないが、経済力ゼロだから、実態的には冊封国になるようなもの。金王朝存続を保証してもらう代償として、同意せざるを得なくなったというのが冷徹な現実。 胡錦涛政権万々歳の構図。オバマ政権もこの流れを望んでいたのかはよくわからないが。 中国共産党としては、東北部の経済発展は重要課題。その視点で見れば、朝鮮半島不安定は癌。ここを上手く切り抜けることなくしては、共産党も安泰とはいえないのだから、まさに大成功なのである。 なにせ、この地域には、朝鮮族が集まっているし、清王朝の出自でもある満州族の自治区もある。経済発展が頓挫すれば、即、漢族政治への不満が噴出し、反中央の動きが勃興しておかしくないのだ。チベット反乱のような動きはなんとしても避けたい訳で、その注力のほどは並ではなかろう。 と言っても、それは、あくまでも大中華圏構築の一部にすぎない。ここが肝要。 〜 中国政府は、交通網整備で経済発展の加速を図ることになる。 〜 その構想の核となるのは、青蔵鉄路(青海チベット鉄道)開通でわかるように、交通基盤の確立。 その点ではすでに着々と歩を進めており、この投資が北朝鮮域内にも拡大されるということになる。今回の訪中ルートが意味するところは大きいのである。中国訪問で通常使うのは整備されている遼寧省ルートだが、今回は吉林省へ直接繋がる鉄路を使ったのである。つまり、こちらの路線の本格運用の意思を示したということ。 すでに、北方の日本海側の港も中国に開放する契約が締結されており、そこへ繋がる鉄路も中国の投資で整備されることになる。北朝鮮内の鉄道は、中国鉄道網に組み込まれていくことになる。 従って、今回の行事を朝鮮半島話で眺めるべきではない。東アジアを中華経済圏にするとの宣言そのものと見るべきである。その第一歩が東北3省と北朝鮮の経済統合化なのである。 時あたかも、岡田外相の一大経済使節団が中国を訪問した訳だが、胡錦涛-温家宝路線とはすれ違いに終始したのではないか。中国政府の基本姿勢は、中華経済圏構築に加わらない限り何の恩恵も与えないというものに変わった可能性が極めて高いからだ。中国とどう向きあうのかはっきりさせない限り、今後、経済交渉は空振りかも。 中国の意に沿うのは、鳩山前首相の「脱欧入亜」的発想と、大勢の民主党議員を表敬訪問させた小沢前幹事長的な親中路線ではないか。ただ、同床異夢的関係だとは思うが。 ちなみに、中国東北部3省の交通基盤をまとめると、その構図がよくわかる。 日本はこれにどう係わるつもりか姿勢をはっきりさせろとつきつけられるのではないか。
--- 参照 --- (1) “胡錦涛同金正日在長春挙行会談” 新華網 [2010年08月30日] http://news.xinhuanet.com/politics/2010-08/30/c_12500145.htm (2) “Kim Jong Il Pays Unofficial Visit to China” KOREA NEWS SERVICE(KNS) [2010年08月30日] http://www.kcna.co.jp/item/2010/201008/news30/20100830-21ee.html (3) “米政府が対北朝鮮制裁を強化、8団体などの米国資産凍結” ロイター [2010年08月31日] http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-17013120100831 政治への発言の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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