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2010.9.27
 
 

中国共産党は新たな権力闘争時代に突入か…

 胡錦濤外交が活発化している。北朝鮮の軍事独裁金王朝支援姿勢の明確化に引き続き、9月7〜11日には久方ぶりのミャンマー軍事政権トップの招致。こちらの政権も権力移行期を迎えており、政権梃入れ策と見てよいだろう。
 ここらあたりは、素人でもなんとなく予想できた動きである。
 別に、胡政権の体質という話ではなく、2010年には中央委員会第5回全体会議が開催されるからである。予定はこの10月。(1)

 次期5ヵ年計画を決める節目にあたる会議とされているが、当然ながら焦点は人事である。2012年の次期主席決定の前哨戦。従って、中央軍事委員会の主席としては、会議でのリーダーシップ発揮のため、人民解放軍好みの中華帝国外交路線を打ち出さざるを得ない訳だ。特に、友好的な軍事政権への梃入れは不可欠。
 独裁軍事政権の政権移行はそう簡単なことではないと言うのは、北朝鮮やミャンマーだけでなく、中国にもあてはまる。このところの政権委譲がスムースにいったのは、解放軍と中央政治局の関係が悪くなかったからである。今回もそれが成り立っているのかは定かでない。摩擦があるとすれば、10月の会議に向けてそこをついた権力闘争が始まっていることになる。
 そんなことが気になるのは、最高権力機関の中国共産党中央軍事委員会に次期主席候補が未だに入っていないこと。中央政治局との対立か、国家主席引退後も胡錦濤体制を敷くつもりなのか、定かではないが、不安定な状態なのは間違いない。胡主席不在の際、代役を勤めるのは、東北と西部から選ばれた軍人(政治局員)なのだから。

 この状況を踏まえて、温家宝総理の2010年8月の深セン市視察での発言を読む必要があるのでは。・・・「経済体制改革のみならず、政治体制改革も推し進めなければならない。」(2)
 だいぶ前から、一部の太子党と目される人物が政治体制改革の声をあげていたが、ついに首相が対応したのである。

 問題は、この「政治体制改革」の意味。共産党独裁あっての人民解放軍であり、その構造を揺るがすような動きに対しては軍人が黙っている訳がない。厄介な問題が浮上しているのである。小生は、この背後には経済路線の深刻な対立があるのではないかと思う。軍のイケイケドンドン路線では、共産党の政治基盤が崩れかねないという危機感が生まれているのかも。

 そんなことを感じさせたのが、9月13日の温家宝天津演説である。(3)海外向けに開放改革路線堅持を表明しただけで、一見、たいした内容には映らないのだが、いわんとすることは伝わってくる。というか、中国政治家として生き延びるための一流の芸当として読むとよい。(1989年5月19日、突如、天安門に登場した涙を流す趙紫陽共産党総書記の傍らにボーと立っている写真を思いおこさせられる発言である。)

 と言っても、なんだかわからないだろうから、この演説に含まれていない経済政策も含め、どんな議論が発生していそうか列挙してみた。

■不動産バブル対策(住宅市場での投資・投機的需要の抑制)■
  ・住宅産業は中国経済の柱。下手に抑制すると、個人消費が落ち込むゾ。
  ・普通分譲住宅/普通賃貸住宅建設は正論だが、資本コスト割れになりかねまい。
■労働力総量の供給過剰対策(雇用増加政策)■
  ・都市は出稼ぎ農民不足状態。海外労働力流入抑制策は経済発展を阻害しかねない。
  ・製造業の量的巨大化から質的強化に転換する政策と矛盾するが。
  ・雇用創出に繋がる自主創業奨励はグローバル優位な企業作りにプラスに働くまい。
■労働分配率向上による個人消費拡大路線■
  ・政府主導の経済発展路線推進の源資が減ることに繋がる。
  ・賃金上昇は企業収益に直接響き投資減退に繋がるし、競争力も低下する。
■インフレ抑制政策(3%)■
  ・高い経済成長率維持には、有る程度のインフレは是認すべきではないか。
  ・金融引き締めは資金繰りが苦しい地場産業の低迷を引き起こしかねない。
■社会保障・医療の平均水準引き上げ■
  ・財政赤字の埋め方を曖昧にしたままの大衆路線だ。(増税前提ではないか。)
■西部大開発/東北地方等旧工業基地の振興■
  ・自明とはいいかねる地域の優先順位
  ・グローバル優位な産業集積地建設につながる必然性は薄い。
■地方の基盤整備事業投資の続行■
  ・投資はすでに巨大化しているが大丈夫か。硬直化しているプロジェクトが多そうだし。
  ・長期貸出が放任状態。金融セクターのリスクが高まっており、危険では。
  ・貸出長期化と、預金の短期化が同時に進んでいる。流動性リスクを考えるべきだ。
■農村安定のためのインフラ整備と公共サービス改善■
  ・ミクロでは意味がありそうに見えるが、マクロでは過大かも。
  ・都市化推進にプラスになるのか。
  ・公共投資(運輸・交通、ユーティリティ、水利・環境)だけで産業が生まれる訳はなかろう。
■製造業の量的巨大化から質的強化路線への転換■
  ・現実の製造業投資の大半は量的拡大であるが、これを抑制するつもりか。
  ・総論的な“すべき”的産業政策にすぎまい。
■国際競争力がある企業の育成■
  ・産業構造改革との脈絡が不透明である。
  ・製造業の一部ですでに投資効率が悪化していることの方が重大では。
  ・多結晶シリコンのような過剰供給業種はどう考えるのだ。
  ・自動車のような企業乱立業種に大鉈をふるうつもりがあるのか。
■独自基準で気候変動に対応し、資源節約・環境保護を推進■
  ・生産能力過剰のエネルギー多消費型産業をどうするつもりなのか。

 まだまだあるが、ダラダラ書いてもしかたないか。
 早い話、構造改革が必要なのである。だが、今のままだと、優先順位は曖昧なまま。重要とされる課題を認識できてもどこから手をつけるか決めるのは難しいのでは。なにをするにしても、人民解放軍の利害がからんでくるからである。(各軍区毎の解放軍と結びついている、地方勢力の勝手し放題の動きを中央がコントロールしかねるということ。)

 しかし、そうも言ってはいられないのも確か。
 なにせ、長々期的には老人大国化が見えているからだ。今の経済成長スピードでは、日本のように、老人国家化する前に先進国の標準生活レベルに達するのは無理だろう。つまり、それを前提とした経済の仕組みを作りを進めるしかない。次期5ヵ年での経済政策の失敗は許されない。しかし、人民解放軍がその状況を理解しているとは限らない。
 だから、「政治改革」が必要ということでは。もっと簡単に言えば、胡錦涛路線とは解放軍とつるんだ既得権益層重視であり、それを続けると暴動が発生しかねないと示唆しているのだと思われる。

 まあ、これが政治家というものだろう。
 国家的な問題が発生しても、一言の発言もしない日本の首相とはあまりに対照的である。政治屋をトップにしたい国民だらけという国も今時珍しいのではないかと思い、ちょっと書いてみたくなっただけである。(要するに、政治屋としては超一流人材ということである。)

 --- 参照 ---
(1) “中共中央政治局、第17期中央委員会第5回全体会議の10月開催を決定” 人民網日本語版 [2010年7月23日]
   http://j.people.com.cn/94474/7078441.html
(2) “温家宝総理「改革開放を堅持してこそ国に明るい前途」” 人民網日本語版 [2010年8月23日]
   http://j.people.com.cn/94474/7113879.html
(3) “温家宝総理の重要演説(天津夏季ダボス会議)” Searchina [2010/09/24]
   http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2010&d=0924&f=column_0924_009.shtml


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