→表紙 | 2013.7.10 | |
| 中国は儒教型富国強兵路線がお似合い…交流協会[日本の対台湾窓口]の2012年度台湾における対日世論調査報告が公表されたとのニュース。以下がその結果。 「最も好きな国(地域)」 1位[43%]・・・日本 (20代、30代は約5割) 2位[ 7%]・・・中国、米国 「最も親しくすべき国(地域)」 1位[36%]・・・中国 2位[29%]・・・日本 台湾のチャリティー番組で、「送愛到日本311震災募款晩會」が放映されすぐに多額の義捐金が集まったとの報道に驚いた覚えがあるが、結局のところ、台湾が日本に一番多額の義捐金を送ってくれた訳である。そして、軍隊を派遣して救助活動に力を入れてくれたのが米国。同盟国の米国はわかるが、冷たい扱いをしている台湾がここまで暖かい姿勢を見せてくれるとは思わなかった。外交的に表立った感謝表明もできなかった訳だから、申し訳ない感じがする。 数字の絶対値はともかく、「最も好きな国(地域)」の変化も気になる。2008年から2012年度までの4回の調査結果を眺めるとそれなりに微妙な時流を感じさせる数字。 日本: 38%→52%→41%→43% 中国: 2%→ 5%→ 8%→ 7% S.P.: 2%→ 4%→ 4%→ 7% 米国: 5%→ 8%→ 8%→ 7% 一方、「最も親しくすべき国(地域)」は、ほぼ予想通りの傾向と見てよさそう。 中国: 34%→33%→37%→36% 日本: 31%→31%→29%→29% 米国: 20%→16%→15%→15% 日本人ならフーンで終わるが、この辺りの数字を出すこと自体が、中国共産党にとっては面白くないだろう。それは周恩来以来の伝統。 面白いのは、Edgar Snowの「中国の赤い星」で、毛沢東がインタビューに答えて、朝鮮同様に、台湾の日本帝国主義からの独立を支持する旨の発言があったこと。台湾併合を悲願にする人民解放軍にとっては、独立容認はえらくこまる内容。史書の国だから、多分、証拠隠滅にやっきになったと思われるが、それにたいした意味はない。 もともと、台湾は中国正史とは無縁な存在だからだ。と言うか、有史は確か400年程度なのである。 それより重要なのは、台湾の地理的位置である。大陸とは一定の距離がある島嶼線上に存在しているため、ここを突破しないと大陸は壁に囲われていることになる。 大陸-//-サハリン[樺太]- -北海道-本州- (-九州-対馬-//-大陸[半島]) -九州-大隈-トカラ-奄美-沖縄-宮古-八重山- -台湾- -バタン-パブヤン-ルソン-ミンドロ-パラワン- -ボルネオ[カリマンタン]- -タンベラン-スマトラ-//-大陸[半島] 常に俯瞰的に世界情勢を眺めていた周恩来は、このラインがえらく気になってしかたがなかったようだ。大陸国家が、海洋上の島嶼に囲まれる事態をどう打開するか、考えに考え抜いていたということ。中華帝国実現には、島嶼線問題は避けて通れないのである。壁の存在そのものが、帝国の威信を傷つけるものだからだ。 従って、賢い周恩来としては珍しいことだが、キッシンジャーとの外交交渉で、対日政策で矛盾した主張をくり広げた。 おわかりになると思うが、周恩来は、遠まわしに、日本はこの島嶼線維持が生命線と考えていると指摘。米軍がここを守らないとなれば、台湾、マラッカ海峡(ベトナム)、朝鮮海峡(朝鮮半島)に進出を企てるのは自明と見ていた。キッシンジャーも日本の拡張主義姿勢については同意。従って、周恩来は、日本のそうした姿勢を容認するなと迫った訳である。 ところが、その一方で、米軍はこの地域から手を引けとも。日本の駐留米軍が日本再軍備の歯止めになっているのを止めろということにもなり自己矛盾。それを突かず曖昧にしたところが、キッシンジャー流。狸と狐。 要するに、当時の蒋介石政権も、もしも米国が手を引いたりすれば、即刻、日本に言い寄り、日本政府も喜んで同盟関係を結ぶことになると見ていることを明らかにした訳である。まあ、米国はそこそこ台湾支援ということでお茶を濁し、ゆくゆくは中国共産党下になるように手配せよということ。 ・・・台湾の徴兵制廃止も、この流れがついにここまで来たということ。 周恩来はフランクに立場を説明した訳だが、毛沢東と考え方が共有されていたという訳でもなさそうである。毛沢東は、なにはともあれ中華大帝国として振舞うことだけを追求するタイプだから、合う筈もないが。周恩来にとっては、事実上皇帝の地位にあった毛沢東が目の上のタンコブだったのは間違いない。外交巧者の周恩来は、どう見ても知識人を活用した日本型「富国強兵」路線を展開したかったのだと思われるが、それと真っ向から対立するのが、反知識人の毛路線。結局、毛沢東は中国人口の過半を占める貧農・兵士の反知識人・反科学感情を揺り動かすことでクーデター決行。それが、文化大革命。 その核心的スローガンは「批林批孔」だった。林彪と周恩来から実権を簒奪するためのものでしかないが、中国の伝統的価値観というか伝統文化を破壊すべきという運動でもあったのは事実。だがそれは、文革で突然持ち出された話ではなく、孫文や魯迅の頃からの話。近代社会を実現するには、「歴史主義」と「儒教」がかかえる家父型の宗族・姻族文化を捨てるべきというのが大方針なのである。おそらく、こんなことは自明とされていたのだと思われる。1914年の頃だが。 こんな流れで書くと、なにを言いたいかわかりにくいか。 中国共産党は社会主義思想を基盤と考えがちだが、それはお化粧。その発祥は日本留学組の発想であり、思想的基盤はどう見ても、中国も日本に倣った「富国強兵」的国粋主義を採用すべしというもの。だからこそ国共合作がスムースに進んだのである。その観点で「歴史主義」と「儒教」の撲滅は緊要な課題とされた訳である。 蒋介石は知らん顔だったが、毛沢東は原則に忠実だった。お陰で、人民公社や知識人不要のトンデモ大躍進政策へと繋がる。封建時代からの脱皮が、逆に、貧困と飢餓だらけの社会を生み出すというおよそ馬鹿げた政策が続いたのだから、先進国の生活を夢見ていた日本からみればおよそ理解し難いもの。しかし、毛沢東の総括では、それは十分すぎる成果を生み出したとなろう。何千万人死のうと、国家は厳然とし存続できる体制を確立たのだから。毛沢東が皇帝の地位を獲得したということでもある。封建時代の価値観を消滅させ、最優先すべきは常に"共産党主席が統括する"「国家」という価値観を植えつけることに成功したのだ。これが毛沢東主義の真髄。 ケ小平の「黒猫白猫」理論とは、この国家主義の延長にすぎない。「生活を良くする」ことが主眼目ではなく、「国家権力のさらなる巨大化」こそが目指すもの。富を生み出す「黒猫」なくしては、永久に中華帝国になれずじまいだというにすぎない。 当然ながら、毛沢東というタンコブが取れれば、儒教への復帰も。「歴史主義」と「儒教」こそ、中華帝国復活への王道なのだから。 そして、江沢民がそれをしゃにむに現実化させた訳である。(反日教育の徹底化でも知られるが、抗日こそが共産党支配の原点とわかっていただけの話。国共合作が成立したのは、中国が消滅させられてしまうとの危機感から。それこそ、何百万人の住民が死のうと、日本軍を少しでも阻止できるなら、なんだろうと決行との方針だった筈。) そして、仕上げは、胡錦濤のもとで習近平がとりおこなった北京オリンピック。「歴史主義」国家であることを全世界に表明したのである。それが国内、海外ともに快く受け入れられたのだから、ついに中華皇帝の時代到来と考えていておかしくない。 しかも、オバマ大統領は首脳会談で、米国が島嶼ラインで中国を囲う気はないと仄めかすことで、北朝鮮問題の早急な解決を求めた可能性もある。なにせ、矢鱈と開催を急いでいたのだから、このイシューにカタをつけたかったと見るのが自然。戦争は避けたいということだろう。オバマ路線とはプラグマティズムらしいが、長期的に米国ば東アジアでどのような役割を果たそうというのか、ビジョンも何も持ち合わせていないようである。これでは、交渉にならない。 もしそうなら、皇帝取り巻きと人民解放軍幹部は今や歓喜雀躍状態かも。コリャ、北朝鮮にご褒美だゼという感覚ではなかろうか。 (記事) 台湾、43%が「日本を最も好き」 2013/6/28 5:00 日経 (過去の調査データ) 第四回台湾における対日世論調査(2012年度) 2013年 6月 28日 お知らせ 交流協会台北事務所 (リリース) 台湾の徴兵制が停止、今後は志願兵制に移行 2012/1/6 中華民国外交部(台北中日経済文化代表部) 政治への発言の目次へ>>> 表紙へ>>> |
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