→表紙 | 2013.8.4 | |
| 教皇と米国のソフトパワーを眺めて…アルゼンチン出身のローマ法王が、世界最大の信徒数の国、ブラジル訪問。ブラジルとアルゼンチンの大統領も出席する、World Youth Dayのミサということで、コパカバーナは大歓迎の若者で砂浜が完全に埋め尽くされた状況。ブラジルは平均年齢が30歳で若い人が多いが、平均寿命は73才。人口増加率が0.8%に抑えられており、人口動態的には比較的安定した国と言えよう。 先進国にはまだ道のりが遠そうなのに、この数字でカソリック国というのがなんとなく不思議な感じがするが、案の定と言ってはなんだが、信徒数は減る一方のようだ。1970年には9割以上とほとんどがカトリックだった国だったのに、2010年にはその数字がついに65%にまで落ち込んでしまった。 福音派プロテスタントへの改宗が進んだ結果なのは間違いなかろうが、無宗教の人も増えておりその数なんと8%。 そんなこともあり、教皇としては、なんとしても生のメッセージを伝えねばというところ。長時間インタビューまで受けたという。異例。 以前の教皇スラム訪問では、それをきっかけとして立ち退きを逃れたとの話はよく知られているが、それが信徒減少の流れを止めることには繋がらなかった。従って、この訪問で、中南米12億人の関心をひきつけることができるか勝負だろう。それは同時に、米国でのカソリック信徒への強いメッセージになっていなければならないから、極めて重要なものといえよう。 と言うことで、「迷える者や貧者のための教会」路線へと大きく舵を切るつもりか、えらく気になった。・・・ "At times we lose people because they don't understand what we are saying, because we have forgotten the language of simplicity and import an intellectualism foreign to our people," "Without the grammar of simplicity, the church loses the very conditions which make it possible to fish for God in the deep waters of his mystery." うーむ。わかるような、わからぬような。 日本にいると、同性愛や妊娠中絶問題はあってなきがごとき状態だが、普通は社会が分断されかねない大問題である。これにどう折り合いをつけていくかは極めて難しい。この取り扱い如何で、どこからどんな変化があるかわかったものはないからだ。 間違ったメッセージを送るとえらいことになるし、言葉ひとつで対立感情を和らげることになる。 ついこの間も、オバマ大統領は演説一本の影響力を見せつけた。無防備黒人殺人犯への無罪判決が出たから、下手をすると黒人大暴動間違いなしだったが、ものの見事に穏やかに収めたのである。 しかし、それはあくまでもドメスティックなものでしかない。グローバルでは、流石レトリック上手と褒めるどころではない。 カイロ演説は、北アフリカの都市生活者の心を揺り動かしたが、マスコミのアルジャジーラの変質も大きく、結局のところ悲惨な社会への道を歩ませただけで終わるのは間違いあるまい。数字を見れば明らかだが、北東アフリカ地域は国家の態をなさなくなっただけ。全域イラク化の態。 その上、シリアは慢性内乱化とくる。反政府派支援がもたらしたものは、民主化などとは無縁。 ・スンニ派武装集団の飛躍的増強 -国家否定宗教原理主義者勢力の強大化 -非妥協的国粋型宗教独裁勢力の強硬化 ・シーア派の宗教独裁強化と地域覇権の動き 全域に混乱を広げる種をバラ撒いただけ。人権重視とはほど遠い思想の持ち主が闊歩する社会へと歩んでいる訳だ。 そんななかで、この地域の指導者は、遅かれ早かれ、米国は中東から撤退していくと見ている。米国は実に、余計なことをしてくれたものである。 それでも、クリントン前国務長官のように、あくまでも人権重視という姿勢はわからぬでもない。それが米国のレゾンデートルとかかわるのだから。それに、先進国なら、誰もその正当性を否定はできないし。しかし、それだけに不快な点も生まれる訳だ。常に、外交の前に米国の国内政治情勢を勘案するからだ。まあ致しかたあるまいとはなるが。 ともあれ、それなりのわかり易いメッセージ性があったのは間違いない。 しかし、引き継いだケリー長官にはこまったもの。いかにもピントがずれた感じ。未だに、なんのメッセージ性もない動きしかできない。圧巻は、なんの思想性も打ち出せない状態でのパレスチナ和平への直接的関与。外交仲間でなんとか落としどころをみつけようという話でしかなく、人々に時代ズレ感を与えただけ。 アジアからは、懲りずに、また中東回帰かと解釈されるのがオチ。ソリャ、中東では揃って大歓迎姿勢を見せるのは当たり前。交渉結果がどうなろうとかまわないのであり、米国撤退後を睨んた動きが画策し易くなり、実に嬉しい話だろう。皆、手をつっこみ始めるから、状況は悪化するだけだと思われる。 このお方は、ソフトパワーを間違って理解しているとしか思えない。 それだけではない。現状認識そのものがズレている可能性もありそう。 エジプトへの米国の影響力など、すでに軍事援助以上ではなかろう。イスラエルも、実態としては米国の援助など不要。高生活水準を実現しているだけでなく、この地域での絶対的軍事優位はすでに揺るぎなき状況なのだから。かつてのように、両者の和平を米国が保っている訳ではないのだ。 今の問題は、シナイ半島や、シリアが、反国家的な宗教原理主義者の巣窟化しつつあること。こうした勢力には、そもそも人権概念は無いし、ジュネーブ条約的な戦争観はゼロ。宗教対立を煽るためなら、なんでもする。従って、こうした勢力を野放しておいて、形だけの和平を実現しようというのはどうかしている。クリントン前長官は和平交渉にいたって冷淡な感じだったが、現実を踏まえれば、それは当たり前だろう。 さて、そのクリントン女史を大統領候補から引きずりおろして、オバマ大統領を実現した方が日本大使に就任することになる。はたしてどのようなメッセージを日本に向けて発信してくれるのだろうか。 【Pew Research のデータ】 Brazil’s Changing Religious Landscape July 18, 2013 【FP Failed States Index】 [ 2013 ← 2010 ] ---アフリカ北東部--- Egypt 90.6 ← 87.6 Libya 84.5 ← 69.1 Tunisia 76.5 ← 67.5 Mali 89.3 ← 79.3 ---アフリカの角近辺--- Dijbouti 85.5 ← 81.9 Ethiopia 98.9 ← 98.8 Eritrea 95.0 ← 93.3 Somalia 113.9 ← 114.3 U Yemen 107.0 ← 100.0 ---シリア--- Syria 97.4 ← 87.9 ---"その後"--- Afghanistan 106.7 ← 109.3 Iraq 103.9 ← 107.3 【記事】 In Mass on Brazilian beach, Pope calls on faithful to reject selfishness and intolerance By Juan Forero, July 29 WP Millions at Brazil Mass hear pope ask youth to change world By Philip Pullella and Anthony Boadle Jul 28, 2013 7:40pm EDT Reuters Pope Draws Followers to Brazil From World Over Visitors Reflect Catholic Church's Continued Demographic Shift By NICHOLAS CASEY, LORETTA CHAO and STACY MEICHTRY July 28, 2013, 3:59 p.m. ET WSJ Pope tells Brazilian church to keep it simple and reach out to the poorFrancis implicitly criticises his predecessor and tells bishops the church looks like 'a prisoner of its own rigid formulas' AP-the Guardian 28 July 2013 03.05 BST 政治への発言の目次へ>>> 表紙へ>>> |
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