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2013.10.26
 
 

サウジアラビアの恫喝は効くか…

米国は、ご都合主義的なアルカイダ活用方針を続けてきたが、ついにそのツケが回ってきたようだ。
どうも、サウジアラビアとの同盟関係にほころびが生じ始めた模様。
コリャえらいこと。原発が止まっており、原油という急所を握られている日本など、どう扱われるかわかったものではない。

と言っても、僅か一報のニュースにすぎぬ。ガセだという話もありそう。
とにかく、サウジアラビアの情報機関トップで総合情報庁長官のバンダル王子が米国との関係を見直すとの発言が報道されたのである。(言うまでもないが、バンダル王子とは、20年以上米国駐在大使を勤めた人物。)
サウジアラビアは米国による安全保障の見返りとして、全面支持姿勢を続けてきたがそうはいかなくなったと表明したも同然。ブラフの可能性もあるが、厄介至極。

国連での安保理事会メンバーの席を射止めたにもかかわらず、それを拒否したりと、米国の姿勢に対して不快の念を強烈にアピールしている訳だ。アサド政権打倒に動いたにもかかわらず、米国に梯子を外されて右往左往の図とも言えるが、流石に必死の外交攻勢。
おそらく、プーチン大統領に対しても恫喝で臨んだと思われる。と言っても、シリアを下手に終結させると、アルカイダがロシアを席巻することになり、オリンピックどころではなくなるゾと示唆するだけのこと。
これで、シリア国際会議はご破算かも。

この手の話を表立って語る識者は、多分、いない。
タブーに触れかねず、自らの立場を危うくしかねないから。

それはなにかは、ご想像がつくだろう。
そう、このバンダル王子こそ、見方によっては、アルカイダの総帥に映るということ。別に、インチキ情報から語っている訳ではなく、誰だろうが常識を働かせば、そうなる。
考えればすぐにわかる筈である。アルカイダ勢力が侮り難いのは、その驚くべき豊富な資金力。しかも、国際的にテロリストが自由に移動できるのである。そんなことが、中東の「単なる」原理主義者の集団にできる訳がなかろう。それを支える裕福なパトロン達と、その支援の動きをコントロールしている組織が存在しているのは自明と言えよう。
それは、米ソ代理戦争のような局面を呈していたアフガニスタンの時からのこと。サウジアラビアがムジャヒディン(原理主義者のボランティア的傭兵)を大量に送り込んだからこそのソ連軍敗北である。結果は原理主義政権樹立になり、米軍の直接投入にあいなったわけである。ただ、その経緯については先進国は不問にしてきた訳である。要するに、毒をもって毒を制するという、いわば必要悪ということで知らん顔をしてきただけのこと。
それに懲りず、シリアで同じことを繰り返そうとするのだから、米国は何を考えているのやら。
反政府軍事部隊とは、民主化勢力とはほど遠く、もっぱら外から送り込まれたアルカイダ勢力なのは知られた話。反政府派勝利なら、行く末はタリバン的な原理主義国家樹立しかあるまい。さもなくば、イラクのようなテロが日常茶飯事という地域と化すだけのこと。
米国のご都合主義は迷惑極まる。

それはともかく、このシリアのアルカイダ組織を支えている勢力の盟主がサウジアラビアなのは明らか。そのリーダーはといえば、バンダル王子以外に考えられまい。
それをあからさまに言わないのは、米国の面子を傷つけかねないからである。
それに、中東情報に疎い米国にとっては、この筋以外に頼るべき先はない訳だし。まあ、根本的には、中東原油が経済の命綱でもあり、この問題に触れてもらっては皆大いにこまるというだけと言えなくもないが。

ところがついに米国とサウジアラビア間でゴタゴタ発生。

ことの発端は、ケリー国務長官のシリア攻撃の戦費に関する不用意な発言からかも。心配ご無用と余計なことを言ったりするのだから、こまったもの。しかも、シリアの反政府勢力にアルカイダはいないというトンデモ発言まで繰り出すのだから。
ここまで言ってしまえば、米国政府はサウジアラビアにカネで踊らされていると見なされかねまい。いくら米国国内報道を、国際版と違うトーンにしたところで、そのイメージを隠し続けるのは無理というもの。

そうなると、問題はこの両国の摩擦が拡大せずに済むかである。こればなかなか難しそう。
下手をすると、対立の局面を迎えることになりかねまい。そうなると、原油とオイルマネーで世界は脅かされることになる可能性が出てくる。これが杞憂であればよいが。
どうも外交感覚が鈍そうな国務長官なので、心配である。
すでに誰もが、米国は、いずれは湾岸地域から手を引くつもりと見ているとはいえ、不用意な発言を繰り返せば、湾岸小国での民主化騒動勃発を引き起こすことになりかねまい。それは、米国との抜き差しならない対立を生み出すことになり、世界経済は大混乱に落ち込むだろう。
換言すれば、サウジアラビアを盟主とする宗教独裁国家が臍を曲げればどうなるかわかっているならやってみよという、米国に対する恫喝そのもの。
オバマ政権はこれにどう応えるつもりなのだろうか。シナリオ無しの泥縄式対応で臨むようなことは無いと信じたいところだが。

ついでながら、サウジアラビアだが、小生は以下のような国だと見ている。

もともと、米国とはなんの文化的紐帯もない。本心では、関係したくない国家だろう。理念上、水と油だからだ。ただ、米国内ではそうは受け取られていまい。留学生を大量に受け入れたからだ。あたかも、交流が進んでいると誤解している筈。
小生は、サウジアラビアで、民主化のうねりなどあり得ないと見る。留学帰国者の極く一部が目立とうと動いたにすぎず、なんのインパクトもなかろう。・・・

○王朝体制は崩れようがない。
そもそも、王朝ファミリー名が国名であることでわかるように、全ての富は国王家が保有している。そこから生まれるカネを分け与えるのが国家の仕組みにすぎない。王家内紛はあり得るが、この仕組みは変えようがない。
しかも、イスラム国家でありながら、政教分離なのである。王家が宗教指導者を選ぶ訳ではないし、宗教指導者に国王任命権がある訳でもない。これが長期安定の鍵であろう。宗教指導者は、宗教コミュニティで長期間活動しながら、組織を纏めてきた人しかいない。名目上は王家とは無縁だが、宗教活動の資金は王家から出る訳で、両者の関係をスムースに動かせない指導者が登場することなどあり得まい。
考えられる、両者の唯一の紐帯としては、王家が地盤とする地域文化のみではなかろうか。そして蜜月状態を続けることができる理由は、対外的に布教を進めるために惜しげもなくカネと労力を投入する姿勢が一致しているからだろう。

○米国との同盟関係を重視するしか手がない。
王家のもともとのテリトリーは狭いものだったに違いなく、領土を広げて覇者になった訳だから、安全保障は最優先事項。しかしながら、基本姿勢は、あくまでも、「神聖な国土に米軍を入れない」である。しかし、それでは侵略されて国家崩壊に繋がるから、原油とカネの力で米国を傭兵化しているとの意識だろう。必要悪であって、同盟関係と呼べるようなものではなかろう。
本来なら、近代的な国軍を持つ方向に進みそうなものだが、合理主義や世俗主義の洗礼を受けたことのない兵士の集まりになってしまうのだから、軍隊として機能するかははなはだ疑問。捨て身の兵士だらけの強靭なテロ組織とは訳が違うからだ。従って、米軍との関係を絶ち切ることはできまい。

○土着否定の排他的宗教原理主義一色。
サウジアラビアの強さは、一重に宗教独裁制度。米国型自由とか人権思想の逆を行く国家である。その観点で見れば、度を越した宗教的抑圧国家ということになる。ただ、同盟国なので、米国が実態の表面化を避けているだけのこと。
王家のカネがふんだんに宗教勢力に流れ込むから、常識的に考えれば、国内の宗教施設密度は世界一だと思われる。それを運営している組織が、狭いコミュニティをなにからなにまで管理している筈。信仰告白できない住民はコミュニティから弾き飛ばされる状態だろう。どのような国内問題が発生しても、こうした組織化が完成しているのだから、混乱が発生したといっても、たいしたことではない。
しかも、この仕組みが精力的に輸出されている筈。このお陰で、宗教的対立が国内で先鋭化することがない。
つまり、この国の場合、王家も含めて、汎アラブ主義ではないということ。汎イスラム主義。もちろん、自派のイスラムという意味であり、スンニだろうが、シーアだろうが、すべて改宗の対象。アルカイダ勢力を見れば、その体質がよくわかる。土着文化否定論者なのだ。
アルカイダだけが目立つから、そこに注目しがちだが、おそらく、カネの力で、他国のイスラム組織にもかなり喰いこんでいよう。そのうち、文化的摩擦が表面化するかも知れないし、なし崩し的に宗教勢力がサウジアラビア勢力の指導下に置かれることもありえよう。

(記事)
Spy Chief Distances Saudis From U.S. Prince Bandar's Move Raises Tensions Over Policies in Syria, Iran and Egypt By Ellen Knickmeyer Updated Oct. 21, 2013 10:56 p.m. ET WSJ
サウジ情報機関トップのバンダル王子「対米関係見直す」  2013/10/23 9:29 日経
Saudi Arabia warns of shift away from U.S. over Syria, Iran By Amena Bakr and Warren Strobel DOHA/WASHINGTON | Tue Oct 22, 2013 8:27pm EDT Reuters
Focus on Arab states to fill Saudi Security Council seat, Kuwait a front-runner By Michelle Nichols UNITED NATIONS | Tue Oct 22, 2013 8:18pm EDT Reuters
米国務省報道官、サウジが対米関係見直しとの報道を否定 2013年10月24日 11:21 発信地:ワシントンD.C./米国 AFP

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