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2013.12.14
 
 

北朝鮮の政治状況推測…

朝鮮労働党機関紙、労働新聞が13日付けで、張成沢前国防委員会副委員長に関して、国家安全保衛部特別軍事裁判で「死刑判決が下され、即時執行された」と写真付きで報じたとのこと。
政治局拡大会議で解任されたのが9日のことであり、相当以前からシナリオができあがっていたと見てよさそう。

中国では、日本利権のボス的な地位にあった薄煕来元重慶市党委書記を粛清したばかりだが、これに習うかの如く、北朝鮮は中国利権の親玉を粛清した訳である。極刑か否かの違いはあるものの同じ穴の狢の振る舞い。
この事態、習近平中国共産党中央軍事委員会主席の大失策と見てよかろう。もちろん、その責任を誰かに押し付けるのだろうが。

見方を変えれば、停戦協定破棄、核実験、弾道ミサイル発射に対する、米国の、「知らん顔、対応中国丸投げ政策」がもたらした結果でもある。意図的な政策ではなく、無策に過ぎないと思われるが。
ともあれ、経済制裁が金王朝内の対立を招いたのは間違いなさそう。それが東アジア安定にプラスに働くか、マイナスになるかは、その先のシナリオの内容次第だが、米国にはそんな準備はなさそう。

ただ、直接的原因は、中国の首脳外交の稚拙さと見てもよいのでは。
2013年初頭からの軍部の跳ね上がりを招き、それを強引に抑制させ、米朝外交会話へと導いたツケなのは明らかだからだ。
しかも、核兵器保有認めずと、朝鮮解放軍の実質的リーダーに宗主国然として言い渡したのだ。3代目首領の正当性を侮辱するようなものであり、遅かれ早かれ到来する、当然の反撥と言えよう。

そんなことが予想つかないなら大笑いである。金王朝の姿勢とは、かつての中国共産党の主張そのものでもあり、それが中国と北朝鮮の紐帯でもあったからだ。外務省の文章から引用しておこうか。・・・
○(敵は)核独占の地位を保持し,
  各国人民の革命闘争を抑圧しようとたくらんでいる。
○平和共存は便宜上の戦術であり,
  (それを)基本戦略とすることは誤り。
言うまでもないが、それはレーニンの言葉から来ているとも言える。「戦争反対(平和演説)は、労働者階級をだます手段の1つだ。」
毛沢東率いる人民解放軍幹部の倅として育てられた習主席が、それを知らぬ訳がないのだが。

表面的には、首領様への権限集中で、交渉は単純化することになるが、それはかつての独裁政権のようには運ぶまい。
なかでも一番の問題は、蓄積されてきた国内の人脈的支配力を一気に失うこと。金王朝が上手く組織を操っていけた根拠を捨ててしまえば、若手軍部強硬派グループと組んで国家を取り仕切る以外に手はなかろう。

粛清を進めている間は、首領様とこのグループには一体感が漲るが、それが一段落ついた瞬間、瓦解のリスクに晒されることになろう。
いかんせん、資源で食べていける国ではないし、宗主国認めず姿勢を見せてしまえば、中国という金蔓も失うことになるからだ。そんな状態での方針一致は極めて難しいし、たとえ一致できても成功はおぼつかない。失敗が露見すれば、誰かにその責任のお鉢が回されるだけである。従って、不安的政権化は避けられまい。

ついでだから、どのような内容の罪状で、それぞれにそんな意味があるか考えておくと頭の整理になるのでは。尚、罪状はクーデター計画とされているようだが、肩書きだけの軍人であり、軍部を統括できる力がある訳でもなく、人脈だけが頼りの文民にそんなことができる筈がなかろう。中国との密約があったともされていない以上、あり得ない話ではないか。全方位的な逆賊というトーンで血祭りに上げるのではインパクト不足なので、クーデター首謀者とされたのだろう。

○国家転覆陰謀行為
韓国筋との秘密折衝があったということだろう。ガセが多かった韓国が粛清話を早くから指摘していたのも、行政の対外オープン接触がかなり広がっていたことを意味していそう。その辺りが、敵側への秘密漏洩とされる危険性を常に抱えていた人物である。
それに加えて、中国の核兵器保有認めず主張に乗りながら事態打開を考えていた可能性もあり、反国家的陰謀を企てたと見なされておかしくなかろう。

○党の分派行為
独自の治安秘密警察部門構築を進めていた筈である。これなくしては、独裁政権下では生き残れないから当然である。
しかし、手の届く範囲は労働党内であり、組織指導部を掌握しそこなったのだろう。軍での人脈がいかにも薄そうだから、軍部内人事に手を突っ込めば、逆に急所を狙われるのは当たり前。おそらく、国粋的な軍部若手強硬勢力に敗れたということだろう。

○首領様への不服従
金正日首領時代の海外資金を管理し続けたのではなかろうか。海外資産を凍結され、実際のところ資金源が細ってしまったにもかかわらず、外交貴族が相も変わらずの生活をしているため、首領様の取り巻きの国粋グループはその辺りがさっぱり理解できなかった可能性も高かろう。
もう一点は、中国からの核・ミサイル開発中断の「指示」をそのまま受け入れたがる体質が、首領様のご威光と正面衝突してしまったこともあげられよう。

○経済事業に与えた支障
中国共産党との実質的な窓口役を続けていたのは明らか。従って、中国流の開放政策に習いながら、行政全体をコントロールしていたに違いあるまい。個々の施策で、従前の組織路線と方針上の対立に及んで当たり前であり、「先軍」方針で確保していた軍の利権を次々よ奪う輩と見なされていたと思われる。

○外貨無駄遣い
外交官人脈を実質支配していた筈である。外貨獲得行動ではかなりの影響力を有していたのは間違いあるまい。

○売国行為
これは、金正日時代から、中国に資源を安価売却してきたことを指すと思われる。多分、実態は、エネルギー支援とのバーターだろう。

○女性関係
金王朝ファミリーと疎遠になってしまった可能性も。そうなれば、即刻、王朝外の一般人物と見なされてしまう。金正日総書記実妹の正妻の不健康説も根強いものがあるし、不仲に陥っていてもおかしくない。

○腐敗
中国東北地区の人民解放軍とつるんだ不正となるのだろうが、要は、北朝鮮の軍部利権に手をつっこみ、それをピンハネしたにすぎまい。

ちなみに、マスコミは、改革派粛清とのニュアンスで伝えているようだが、見方として拙いのでは。
北朝鮮随一の国際派であるから、早くに、中国的な「開放-改革」は金王朝を崩壊しかねないから無理と見ていた筈だ。いかに、中国の流れを上手く利用するか、常に画策していただけの話。

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