表紙
目次

2014.3.12

米国の狙いは世界不安定化か…

ここのところのウクライナの報道は「事実」を伝えることで、間違った見方を助長しているきらいがある。

アフガニスタン、イラク、リビア、エジプト、シリアと、米国は一体なにをしたいのかさっぱり見えてこないが、ウクライナも同じこと。
ニュースをボゥッと眺めているとそれに気付かない可能性もあるので注意した方がよさそう。

素人が見ても、ウクライナでの、西欧的な民主主義政治体制樹立など無理なのは明白。
にもかかわらず、民衆主義への一歩としての政権転覆が発生したように映る。ついつい、そう読みたくなるが、そんなことは有り得ないことを肝に銘ずるべし。

もちろん、打倒された政権は、はなはだしく腐敗していたようだ。しかも無能な為政者が君臨とくるからトンデモない状況。しかしながら、そんな独裁が成り立っていたのは、この国の支配層の体質から来ているにすぎない。政権が変わったとて、この構造が変わることは有り得ないのだから、民主化する訳がないのである。
自分の期待感に合うように読み替えてはイカン。

いかに心地よさげな「民主主義」的な主張を繰り広げる勢力が存在していようが、それが成り立つ基盤が無い国だと、残念ながら、どう支援したところで何の効果も生まれない。と言うより、それは結局のとこと逆効果にしかならないのが経験則。
例えば、社会で力を持つ組織は、部族主義者、排他的な宗教政治信奉者、軍事独裁者、等々に牛耳られているのに、それらとは意向が反する組織に肩入れしたらどうなるか考えればわかる筈。反民主主義思想にどっぷり漬かっている人々が社会の隅々まで権力を握っている以上、まともな民主政治が実現できる訳がないのである。
従って、どうしようもない勢力の悪辣な政治が続いているからといって、代替勢力の政権の方がましとは言いかねるのが現実。

特に注意すべきは、米国の支援をうけたいがために、民主主義的な姿勢を見せる勢力。これなら政権をまかせたいとなるが、社会が変わる訳ではなく、米国援助に頼って生きようという政治が行われるに過ぎない。住民にとっては五十歩百歩の政権にもかかわらず、政権転覆コストは膨大とくるから、たまったものではなかろう。
上記の、米国が関与して、政権打倒が図られた国々では、政治は不安定化、治安は最悪化、生活の質は落ちる一方とくる。その上、地域不安定化に一役かうという、こりゃナンダカネ路線を歩まされているのだ。

もちろん、冷徹な国際政治の世界だから、大国がそういう政策を採用することもありえる。当該国はえらい迷惑を被るが、海外の関与国から見れば、利権や、安全保障で、大きなメリット生まれるなら、悪くない方針とされるからだ。・・・当該国では年がら年中内戦だが、武器を大量に購入してくれるし、安価で安定的に資源を輸出し続けてくれるなら、安定政権樹立よりましという発想は魅力的に映ることもある。

ところが、米国の場合、本音がこういうところにあるならわかり易いのだが、そうは思えないのである。関与することで、軍人の命も犠牲にし、膨大な費用を喪失していながら、その結果は一体ナンダカネ状態だからだ。・・・自身の利権的メリットはほとんど無く、地域の安定性が崩れる方向に進ませているし、国家の態を失わせる等、ひどいもの。

しかも、政権転覆に、超強硬な「反民主主義」無国籍的集団を活用しているのだから、理解に苦しむ。もちろん、独裁者に対抗するには、猫の手でも借りたいところ。敵の敵なら、敵であっても活用というのが、勝利の鍵であることが多いから有り得ないことではないが、それが無制限で歯止めが効かない状況のようだから唖然。
それでも、西欧世界に大きなインパクトを与えないなら、ありえる気もするが、どう考えても、それらの勢力はやがて自分達に向かってくるのは見えている。それも、西欧的には悪逆非道なやり方で。
従って、米国は、あえて危険極まりないやり方をしていることになる。

そもそも、常識人なら、「悪」の独裁政権だろうが、それが「最悪」と言えるか、先ず判別するもの。「悪」を打倒すれば、「最悪」の状況を作り出すことが見えているのに、それをあえて進めるようなことは避けるのが普通。

米国政府の動きはそうはならないのである。政治の仕組みに、どこか大きな欠陥があるるのかも知れぬ。

ウクライナ問題での米国の姿勢を見ていると、常識人の判断とは正反対という印象。あたかも、かつての冷戦時代の、ソ連との地域分捕り合戦を始めているかの如し。
繰り返すが、ウクライナには民主主義政権が樹立できる基盤は無い。普通選挙を実施したところで、国民を統合できる国ではない。そんななかで、民主主義勢力支援の風を装って国家分裂の引き金を引かせるのはどういうつもりなのか。

誰でも知っているように、クリミア半島は軍事拠点であり、軍港とその後背産業がある地。そしてウクライナ東部とはソ連邦屈指の重工業地域として育成されてきた地。言うまでもないが、そこは今でもロシア人主導の地域であり、顧客ももっぱらロシアの筈。反ロシアなど成り立つ訳がないのである。
他は穀倉地帯と呼ばれてはいるものの、相対的には極めて貧しい。特に、西部は産業が育っていない。それだけではなく、育てようとする気概も感じられない。反ロシア感情が極めて強い人々が多いからである。
それも当たり前で、スターリンの政策で、ソ連邦内の民族的勢力基盤は、住民の強制的移動で、完璧に壊されたからである。ウクライナも例外ではない。そのため、勃興する「民族主義」勢力とは、常識的な民族主義者とは性格が違う。ロシア人排斥のウルトラ人種差別集団に牛耳られている可能性は限りなく高い。
従って、このようなウルトラ勢力の政権が生まれれば、則、各地で自衛民兵化の動きが表面化する。もちろんその先は泥沼の内戦。

ウクライナで「悪」の政権を打倒したが、それは「最悪」の状況へと導く可能性が高いということ。
米国は、その旗振りを執拗に続けているかの如し。

米国は、中東に引き続いて、旧ソ連邦の火薬庫にも火をつけたがっているとしか思えない。

 政治への発言の目次へ>>>    表紙へ>>>
 (C) 2014 RandDManagement.com