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2014.3.27

中国共産党の汚染防止策の話…

この25日、WHOが、2012年の大気汚染関連が原因の死者数は推定700万と発表。死因の8分の1を占めるそうだ。今迄の数字とはえらく違う。
癌中心の計算だったのを、脳卒中や心循環系疾患を含めて推定した結果ということ。特段の新知見がある訳ではなく、モデル計算したに過ぎない。
ともあれ、最重要問題との指摘。各国政府は対策を急げとなる訳だ。もちろん、中国や東南アジア地域での話だが。

中国政府にとっては、実にタイムリーだった。
と言うことで、素人が見る中国政治の流れ。

もちろん、先ず見るべきは、先に閉幕した中国の全国人民代表大会の状況。
これを外して、大気汚染対策だけ眺めても全体像はわからないからである。

特筆すべきは、大気汚染問題が重要課題として登場したこと。李克強首相報告のトーンは、貧困と汚染への「宣戦布告」とのこと。もちろん、当局の喧伝での話。
この取り上げようには、小生も、正直ビックリ。
「官僚腐敗徹底摘発」と「貧困撲滅」でお茶を濁し、軍事費大幅増強で中華意識を昂揚させ、万々歳調でまとめると予想していたからだ。もちろん、こんなことで内輪での政策論争を治めることは不可能。しかし、経済成長鈍化で利権争奪戦が熾烈化するので、軍部さえ握っておけば、腐敗撲滅運動に名を借りた賄賂摘発型粛清政治で独裁政治体制維持は可能。従って、それ以外の道を採用する筈が無いと踏んだだけ。
(ケ小平は「白猫黒猫論」で党内対立を和らげたとはいえ、意思決定の仕組み上、政策上の路線転換には権力闘争が不可欠。誰が見ても、資源と治安分野は上手くいっていないから、最初の汚職摘発はここら辺り。次のエリアも予想がつく。)

ふーむ。
習近平国家主席はなかなかの切れ者。もちろん、権力闘争上での。

要するに、全人代で、実質的にリコノミクスを取り止め、人民解放軍や国有大企業へのバラ撒きを続行すると宣言させたようなもの。汚染対策を持ち出し、それを、間接的に示したのである。失敗すること自明の分野での政策立案を、自称改革派に押し付けたのも同然。なかなかのやり手。
前回の全人代では李首相が、壮語的表現まで駆使し、経済改革推進に賭ける決意を披瀝したが、結局のところ失敗に終わったと吐露したとも言えよう。このことは、溜りに溜まった不良債権も、国家支援でダラダラと先延しする方針を採用したと見て間違いなさそう。
長期的には、これで中国経済は没落していく。そんなことはわかっていても、抜本的な改革の道を選べば政権が持たないと判断したのだろう。だが、そんな方針を公言できる訳もなく、政府の主要課題を大気汚染問題に代えただけ。

そうそう、中国は大気汚染問題が解決できないのは自明と書くと、怒る人がいるので、そう見る理由を簡単に書いておこう。

なんといっても拙いのは、中央独裁である上に情報操作を強化している点。この環境下では何をやっても裏目に出る。毛沢東の人民公社や大躍進政策と同じで、上への報告は好ましき加工データのみ。不都合な真実を表沙汰にする動きを抑圧するのだから、同じことが発生することになろう。死者の数も同レベルか。
おそらく、資本主義国にも気に入られそうな政策である、改善インセンティブと懲罰的な課税導入を打ち出すと思われるが、「嘘」が大手をふってまかり通る社会では、これらは効果無しどころが逆効果になりかねない。しかし、それで地域安定が図れるなら、まあよしとすべきかも。
ついでながら、大気汚染防止に巨額な国費を投入しても、なんの効果も生み出さない可能性が高い。国営企業と民営企業が共存している上に、官僚層の腐敗が進んでおり、末端でどのように使われるかわかったものではないからだ。

分かっていても、こればかりはどうにもならない。それが、発展途上国型政治の宿命。
従って、政府は、こうした政治的に厄介な点には頬かむりを決め込み、「大衆に見える」汚染対策に注力するに違いない。
一番目立つのは、都市での自動車規制だから、ここら辺りから始めると思われる。だが、精神論好きな日本社会ならまだしも、中国では、この効果はほとんど無かろう。それに、本格的な規制でも始めれば経済に暗雲が漂うので、そこまではできかねるのだ。なにせ、中国はトラック社会。巨大経済の抹消血管が詰まれば、たちどころに影響が出て、頓死しかねない。中国政府が、そんな政策を進める筈がなかろう。

中国の大気汚染を本気で抑えたいなら、エネルギー源の石炭依存を減らすこと。これしかない。
一言余計かも知れぬが、先進国にはバイオマス推進主義者が大勢いるが、農業だけの貧国でもない中国で炭素発生源を増やす方策など言語道断。
一番簡単な方策は自明である。原発依存化と高電圧送電網構築による都市部の脱石炭エネルギー化。
そうそう、公害防止投資で石炭利用持続ということを言い出す人も少なく無いが、すでに述べたように、日本と違ってそれが奏功する仕組みの社会ではない。公害防止技術を用いた輸出産業が生まれるのが関の山。

そもそも、中国の健康問題の筆頭にくる課題は大気汚染ではないことを知りながら放置し続けている国であることを忘れるべきではなかろう。
言うまでもないが、それは水質汚染。(大陸は、日本のような急峻な山国でもないし、モンスーン気候とは全く違うから、どう考えても深刻そのもの。)
軍人の基盤でもある地方の第一次産業に手をつけるのは、共産党政権には無理難題でしかないということ。

(ロイターの記事)
大気汚染による死者、2012年は世界で約700万人=WHO 2014年 03月 25日 10:56 JST
中国の大気汚染対策、基準満たす都市を20年までに60%に拡大 2014年 03月 17日 17:52 JST
(WHO-News release)
7 million premature deaths annually linked to air pollution 25 March 2014



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