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2014.4.29

日米首脳会談にはがっかり…

日米首脳会談については、米国で「全体的」にどのようなトーンで報道されているのか、ご自分で確認される必要があると思う。

小生は、日米関係はついにここまで来てしまったという感慨を覚えた。

日本の報道だけ見ていると、日米同盟強化にしか目が向かない。それはそれで、まあ結構なことではといった調子。しかし、それは幻想でしかないのでは。
換言すれば、同盟強化と言うよりは、日本が独自路線で進み始める切欠作りに映る。ハイリスク路線だが、「もうこれしかない」と考える人達が多いということか。

その象徴が到着直後の、「すきやばし 次郎」での両首脳の会食かも知れぬ。今までとは全く違う企画だからだ。
マスコミ調だと、一献傾けるシーンの撮影に大きな意義があったとされている。はたしてそうかナ。

よく知られるように、お一人様ご予算として、¥30,000〜のお店。ワインやシャンパンの代金を別にすれば、LA TOUR D'ARGENTと同じようなもの。従って、接待用途ならどうという出費ではない。
しかし、通常、カジュアルな個人的な交際の場面で、このような席は設けないもの。高級店での会食シーンを好意的に取り上げるむきは少ないからだ。
ただ、日本の場合、SUSHIは別扱いである。誰でもが、それは、職人仕事の粋であり、日本文化の華と考えるからだ。しかし、それが海外で通用する訳ではない。つまり、このイベントは日本国内用に絞ったということ。

外交を利用して国内政治力向上を図ったとしたら。・・・
今の世界情勢で、そんなことをしていてよいのか、はなはだ疑問。

しかし、日本のマスコミや、なんと吉崎達彦氏までがこれに喝采を送る。

ちなみに、過去を思い出して見るとよいだろう。
クリントン大統領来日の際は、六本木の焼き鳥屋さん「串八」。予算¥8,000〜¥9,999とされるお店である。小生も米国からの仕事仲間と飲みに行ったりしたもの。
一方、小泉首相が用いたお店は西麻布の「権八」。在日ビジネスマン/ウーマンやそのご家族が好む、蔵作りの広い飲み屋的なお蕎麦屋さん。もっとも、上の階に寿司屋を併設はしているが。確か、モンスーンカフェを流行らした企業のお店。お洒落なカジュアル性がウリの筈だ。(もっとも、モンスーンカフェは、墓地下も、南青山7丁目も、今は消えてしまったが。)ブッシュ大統領は酒を避けたろうから、おそらく、支払はせいぜいのところ1万円程度ではなかったか。小生だと、長居しないから、ずっと低額ですむが。

それはともかく、今回は今迄とは随分と違うことにお気付きになると思う。繰り返すが、それは、この会食は、もっぱら日本の国内政治のために行われたからである。
それにオバマ大統領がつき合わされたのである。そりゃ、ビジネスライクな話にもなろう。格段のお土産なしに、利用されたように見えるという点で、今までになかった外交と言えよう。

言うまでもないが、わざわざ「日本の施政下にある領土、尖閣諸島を含め、日米保条約第5条の適用対象になる」と明言したことをさす。
今まで、執拗に避けてきたのに、何故にそこまでとなるが、3つありそう。・・・
(1) 米国のかねてからのご要望の集団自衛権に応えると共に、米軍再編がスムースに進むように沖縄の懸案事項を全力で解決するとの約束が得られる。
(2) G7での、オバマ大統領のリーダーシップでロシア制裁へ動くことへの全面的支援をとりつけたい。
(3) 右翼バネは、日本の構造改革に進む可能性もあるかも知れぬので、暫く様子見もよかろう。

ただ、大統領の発言では、一歩踏み込んだ訳ではないと強調した点を見逃すべきではなかろう。相変わらず、「主権問題で特定の立場を取らない」と明瞭に言い切っているし、閣僚発言を踏襲しただけとも。このことは、日米両政府の思惑には相当な違いがあると見て間違いない。
おそらく、オバマ政権は、この発言のご説明のために習政権に特使派遣になるだろう。

もともと、こんな約束が守られると考えること自体が現実離れしている。
米国は、中国のご機嫌を損なわないようにして、実利を漁ることこそが、最重要課題な筈。誰が見ても、尖閣問題に巻き込まれてはたまらぬというのが本音。台湾防衛ラインを考えれば、"当座"、軍事的に必要ではあるが、すでに、台湾防衛放棄路線に突入しているのだから、尖閣防衛に動く訳がないのである。
書類にしようが、しまいが、そんなものは理屈をつけて反故にされるだけでは。

そうそう、オバマ大統領は米比軍事協定に署名したが、それは「オバマ政権が(アジア太平洋地域を重視する)リバランス(再均衡)政策を様々な形で実行」していると言えるのかは、はなはだ疑問。旧宗主国として、要請に応える姿勢を見せる必要があるだけかも。撤退した旧基地にもアクセス権を持つというだけの、口先だけで済むようなレベルの「リバランス」の可能性もあろう。なにせ、オバマ政権は、実効性ある軍事展開を避け続けてきたのだから。

そして、案の定、TPPは頓挫。
オバマ大統領帰国後急遽妥協成立ということも考えにくいし。
だいたい、米国政府は2014年に入り、重要課題と考えない兆しが見えていた。従って、麻生財務相の見方は的確と言えよう。もともと、これは、関税問題ではなく、各国の政治的都合で通商に手をつっこむことを止めさせ、構造改革の歩を進みやすくすることに意味があった。ゆくゆくは、これに中国を引き込むためのものでもある。しかし、米国政府は、今やそんなことに興味を失ったということ。日本政府が譲歩しないなら、進展なしでも致し方なしと早くから決めていた可能性もありそう。
一方、自民党とは、もともと反構造改革勢力の集まりなのだから、まあ致し方なしである。両者ともに、失敗は相手のせいにして幕引きかも。
それで、同盟国の紐帯が強まったと言えるものかネ。

要するに、両者ともに、国内政治のご都合上、見せかけの同盟強化を演じた訳である。この手の外交は、後で、必ず厄介な問題を引き起こすもの。

このような時代、日本は強国の対立を緩和する微妙な役割を引き受けるのが安全保障上べストだろう。もっとも、それは理屈だけで、難しすぎるから実践的ではないが。
と言って、パワーバランスが崩れつつある時、以前の力関係に戻そうとする動きは危険である。それは、当座の「見せかけ」にすぎないからである。
覇権国を追って大国化中の国家は強硬姿勢を見せたがるもので、好戦的になるのは世の常。これを止めることはできない。もともと、そのための大国化なのだから。中国共産党はソ連のスターリン型文化にどっぷり染まっているにもかかわらず、たまたま、今迄はそうならなかったにすぎない。スターリンとは違って、独裁者に軍閥的風土の軍を操れる力が不足していたからである。換言すれば、内部闘争が激しくてそれどころではなかったということ。
その恐れがなくなれば、事態は一変すると見て間違いなかろう。


(日経記事)
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(かんべえの不規則発言 2014年)
<4月23日>(水)・・・題して「次郎物語」
<4月27日>(日)・・・海外のメディアは「オバマ大統領と究極の寿司」をどのように取り上げたのか


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