表紙 目次 | 2014.5.2 観光産業振興策には要注意…ゴールデンウィークに入り、ついつい、思い出してしまったのが、以下の出だしで始まるコラム。the sun is shining, the sky is blue and the weather is balmy. Orange blossom fragrances mingle with wafts of jasmine. The food is good, the wine is inexpensive, the locals are friendly and beauty is all around. こんなことが書いてあると、たいていは、じつに素晴らしいところだから、一度は行ってみたらというお勧めの話になるもの。 日本の場合は、特に、提灯記事が多いから、そうなるのはまず間違いないところ。 それでは、このコラムはどうかと言えば、・・・。 where are the tourists? きつい一言。 コレは南イタリアの話。 さっぱり観光客が来ないというのである。 比較が面白い。 スペイン・カタロニア地方の地中海に浮かぶ島々、バレアレス諸島は昨夏に週223便だったが、こちらはなんと17便しかなかったという。もちろん、ドイツから。 と言えば、問題意識は想像がつくだろう。・・・ the lack of tourists in places like Sicily or Calabria is indicative of a larger, nationwide failure by the country to take advantage of its most precious resources −in this case, the region's natural and cultural beauty. その結果、南部の一人当たりGDPは北部や中部の半分以下。しかも若者の3分の2は失業状態。 惨憺たる有様だが、おそらく、どうにもなるまい。 要するに、これで良しの風土なのでは。 日本も同じような風土の地域は山ほどあろう。 ただ、違いは、イタリアよりはバラ撒く税金の額が巨大という位。選挙という観点での政治にはえらく熱心だが、こと経済活動に絡む政治の質は極めて低い。 と言うか、「投資」名目で、中央からいかにお金をせしめるかが関心の中心でそれ以上ではない。もらった税金を、ただただ浪費することが嬉しい土地柄。 もっとも、イタリアの場合は、名目上の投資もできない状態かも知れぬ。観光局の予算の98%は人件費だそうである。 だが、日本など、農家の話をきけば、もっと凄いことがわかるゾ。 前にも書いた覚えがあるが、現在の状況はさらに悪化していそう。なにせ、そろそろバラ撒き計画が出来上がってくるそうで、それにすかさず乗る準備を着々と進めているのだというから。・・・ わかり易い例をあげてみようか。 地元産品の売り場を見かけたことがあろう。いかにも新築らしい美麗な建屋。もちろん、周囲の道の整備も抜かりはないし、広大な駐車場やお庭まで設置したあったり。お店には専任の売り場担当者とくる。誰が見ても、施設の維持作業費用だけでも相当な額にのぼる。 言うまでもないが、お客さんの数と、購入額を考えれば、とんでもない赤字商売なのは明らか。しかし、そんな、盛大な浪費を行ってくれるお蔭で、地域は潤っているのである。 都会の人は間違うことが多いが、ここで売られている産品を作っている側が、これで稼いでいる訳ではない。無給のボランティア活動とほとんどかわらない状況と見た方がよい。 来訪者は、廉価で良質な商品を購入でき、楽しいひと時を過ごせる訳だが、それが観光客を呼びこむものになろう筈もない。どこでもやっていることなのだから。 ジャーナリズムは当然のこととして、この素晴らしさを伝える記事を工夫を凝らして書くことになる。なかには、現地産品を使うビジネスで繁盛している脱サラの方の姿も加えたりして、一度は訪れたくなる魅力的な地域であることを喧伝してれる訳だ。唖然とさせられるようなビジネスも美しく描かれることさえ。例えば、現地優良産品だけで作った手作りの本物のお握り店の繁盛ぶりを伝えたりする訳である。常識で考えれば、人件費を出したら即時倒産するような事業でしかなかろうに。 だが、そんなことはどうでもよいのである。なんだろうが、ネタさえあれば、マーケティング・キャンペーンに大々的に税金を投入できるからである。このお蔭で、何人かが食べていけるのだから。 おわかりになると思うが、そうした活動がなければ、税金を投入する訳にはいかない。従って、地域での赤字事業をお勧めすることこそが、地域の経済振興の核になっているのである。地方で、政治的リーダーシップが発揮できる政治家とは、このようなことができる人達のことを言う。 東京も、同じようにならねばよいが。 2020年のオリンピックとパラリンピックに向けてという言葉で、「投資」名目の「消費」的な浪費が進みかねないからだ。東京の政治だけが、例外的体質との根拠がないからである。 そんなことが気になったのは、「世界のMICEを東京に」(Meeting Insentive Convention Event)というスローガンが幅を利かせているから。 小生は、この分野の企画は、10中8、9は投資に値しない代物でしかないと見る。MICEの市場自体は成長基調なのは間違いないが、東京はどう見たところで競争力ゼロだからだ。そんなことは素人でもわかる筈。大規模なコンプレックスが一つもないから、お話にならないのである。 にもかかわらず、注力せよとの官民一体の掛け声が未だに続いている。 結局のところ、政治的にできることといえば、「大きな」単品ハコもの作りと、マーケティング費用の大盤振る舞いだけ。そんなものが通用した時代はとっくに終わっているのではなかろうか。立派なものを作れば、後あとまで、お荷物になるだけのことでは。そもそも、魅力が無いものを、大枚の宣伝費用をかけて売り込んでどうするつもりなのか、はなはだ疑問。 東京の持つ、貴重な資産は何かを考え、それを有効に活用できる観光産業を作るべきなのは当たり前では。ただ、それは、真似では対処できないから、熟考を重ねないと、アイデアの一つさえ浮かばないかも。しかし、だからこそイノベーションが期待できる。 しかしながら、東京の政治はそちらには舵を切らない模様。 イノベーション目指して、頭を使う位なら、税金を湯水のように使える大型プロジェクトを早く立ち上げヨという声が高まっているのが現実。 (記事) Why No One Goes to Naples by Beppe Severgnini APRIL 11, 2014 NYT 政治への発言の目次へ>>> 表紙へ>>> (C) 2014 RandDManagement.com | |