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2014.7.10

習政権は中華帝国路線まっしぐら…

7月9日米中戦略経済対話第6ラウンド(第4回戦略安全対話でもある。)が北京で開幕。「新たな形の大国関係」についてさらなる具体的構想が議論されていると言われている。
と言っても、ケリー国務長官のこと、中国に経済改革を急がせるかわりに、中国の対等大国化を認めることでお茶を濁すだけだろう。
もっとも、中国は夏の合宿会議を控えているし、オバマ政権は中間選挙が気になってしかたがないから、米国からの投資をスムースにする方向で両者合意したとの発表で終わるしかなかろう。

中国共産党の内情は、玄人でも、未だにさっぱりわからないようだが、習政権が今までとは違う路線を目指していることが、素人の目にもなんとなく見えてきた。
その辺りに触れておこう。

なんといっても、解放軍の扱いが大きく変わったことが大きかろう。
習政権への交代時期に徹底工作を重ねただけのことはある。
ご存知のように、中国はかつてのソ連邦とは大きく違い、国軍は存在しない。あくまでも共産党の軍隊。ソ連の共産党支配が崩壊した原因は赤軍の分裂と見ているに違いなかろうから、この仕組みは今後とも堅持されるだろう。ただ、歴史的経緯から、軍閥的雰囲気を残しているのは明らかで、一枚岩とは言い難いが、統帥権は党中央軍事委主席が握っている。これが最高権力者としてのお墨付きそのもの。習主席は6代目である。
  毛沢東→華国鋒→ケ小平→江沢民→胡錦濤→習近平
党、軍、国家のポストを分けていた時代もあったが、統帥権を持たない胡耀邦や趙紫陽がどうなったかはご存知の通りである。

解放軍の特殊性はそれだけではない。軍隊でありながら、歴史的には、独自に経済活動を行ってきた訳で、それが軍の資金源でもあったからである。その後、廃止となり、人員の大幅削減を進めたとはいえ、未だににその名残として、軍が産業の一角を担っているのは公然の秘密。
これは、日本型の天下りとか、資本主義国の産軍複合体的軍需産業とは違い、企業の経営者はダミーで、実質的に軍関係者が経営していると考えた方が当たっていよう。当然、そこからあがる利益が軍の高官に流れることになる。
江沢民は、軍のそうした利権を黙認し、ポストのばら撒きを行うことで、軍を掌握してきたようだ。従って、軍区毎に争うようにして、利権拡大に励んだ筈。当然ながら、トンデモ事業も多かろう。

特に、問題は、資源・エネルギー関係。海外案件の多くは、資源漁りをしたが、次々と政変を仕掛けられたから、ペイしていないものだらけでは。
その上、北朝鮮についても、東北軍区は大失敗をやらかした訳である。
こうなると、誰が考えても、路線変更は不可避。

従って、習主席は、ここに手を突っ込まざるを得なかったのだと思われる。
そのきっかけは、薄熙来問題だろう。(薄 v.s. 習の権力抗争に巻き込まれ、両者のスケープゴートにされそうになった薄の部下が米国領事館に亡命申請した件)

以前、クリントンが国務長官在任中に、中国要人の海外蓄財を徹底批判したことがあるが、米国政府は中国要人の海外資産をすべて洗い出したということを示唆していそう。その一部情報を意図的にリークしたところを見ると、習政権にもそうした情報が流されていておかしくない。これが、習政権統治の強力な武器になっているのではなかろうか。

その結果が、前政治局常務委員の周永康残余勢力一掃方針と見ることもできそう。
共産党上層部は婚姻・血族関係で地位保全の保険をかけてはいるが、流石にそれも効かない事態に追い込まれたのだと思われる。
その結果、歴代秘書、石油産業幹部、四川省政界、公安・武装警察関連、そして、最大の眼目たる解放軍のドン、徐才厚前中央軍事委員会副主席にまで行き着いた訳である。
おそらく、国防・軍隊改革小組を通じて、軍内部での徹底した粛清が行われていよう。

毛沢東以外はなかなかできなかった訳で、たいしたもの。海外蓄財リストの威力は凄まじいものがあるということなのだろう。

しかし、これは、尋常な方針ではない。

共産党独裁が上首尾に進んでいる場合、首脳部の「汚職」は通常は発表されないもの。汚職摘発をアピールしたところで、汚職がなくなる訳もなく、共産党体制を強固にする上では何の意味もないからだ。と言うか、一般論でいうなら、汚職蔓延で政権が潰れることは考えにくいということ。民主制度の国ではないのだから。
そう考えると、この動きは共産党の構造を一変させることに繋がる可能性が高いと見るべき、となろう。

なんといっても、一番の問題は、熾烈な権力闘争を防止するために始まった、集団指導体制を捨てたこと。引退幹部を罪人とする姿勢を示したのだから、長老政治をも否定したことになる。
つまり、党内の不文律が崩れさった訳だ。

と言って、新たなルールが見えてもいない。このままだと、党内無秩序化が始まりかねまい。実にハイリスクな動きと言えよう。
民主政治の国ではないから、汚職摘発をいくらアピールしたところで、せいぜいのところ、汚職摘発が可能なほど、習政権は堅い権力地盤を持っていることを、党内外に知らしめる以上の効果は考えられないからである。

にもかかわらず、しゃにむに粛清を進めるのは、思想的に一枚岩の党を作ろうということ以外に考えにくい。「和諧社会」や「社会主義栄辱観」を切り捨て、新たな基盤を構築する強固な意志があるということでは。
そうなると、それは「中華思想」以外に考えられまい。中原の皇帝こそが、中国を統治するという感覚を蘇らせようという訳である。
党中央軍事委主席のイメージを眺めてみるとよかろう。
 毛沢東(湖南+湖北)
 華国鋒(山西+山東)
 ケ小平(四川-客家)
 江沢民(江蘇-上海)
 胡錦濤(安徽 or 江蘇出身,内陸部遍歴)
 習近平(延安@陝西)
従って、以下の要人がこれを支えていると思われる。
  【党】
 「隠身詭異(怪物)」王岐山共産党中紀檢委書記
   (規律検査委書記)・・・延安下放
 趙楽際組織部長・・・陝西省党委員会書記
  【政治協商会議全国委員会】
 兪正声協商主席・・・陝西省延安出生
  【国務院】
 馬凱副総理・・・西安市育英小学
  【中央軍事委員会委員@第十八届】
 常万全国防部長・・・陝西渭南師範專科學校
 房峰輝解放軍総参謀・・・陝西省彬県出生
 張又侠解放軍総装備部長・・・祖籍陝西渭南

特に、汚職摘発ということで紀檢委の動きが急である。
そして、その話が報道される点にも注目しておくべきだろう。
その典型が、張英偉 駐中國社會科學院紀檢組組長講話[2014年6月10日]の流布。この政権が目指している柱の一つを喧伝しているのである。指摘されている主要問題は4つ。(人民網発表)・・・
   穿上學術的隱身衣,製造煙幕
 1 学術的オブラートに包んだ煙幕的主張
   利用互聯網炮製跨國界的歪理
 2 海外インターネット利用の歪曲論展開
   毎逢敏感時期,進行不法的勾連活動
 3 敏感な時期の、不法な扇動活動
   接受境外勢力點對點的滲透
 4 海外勢力のピアツーピア型浸透の受容

蒲摧ノ 駐人民日報社紀檢組組長や王鐵駐 文化部紀檢組組長も同様な活動を進めていると見てよいだろう。劉雲山常務委員(宣伝工作担当、中央党校校長、中央精神文明建設指導委員会主任)も完璧に波長が合っていそう。

要するに、海外からの学術・文化・マスコミといった分野への影響力を削ぎ落すことを、政権の大きな柱にしている訳である。テクノクラートも例外ではなく、欧米留学組は指導層から排除されていく可能性が高かろう。

特に、神経を使っているのが、インターネットを通じた海外からの影響。ネット安全・情報化小組はことのほか重要な組織ということになろう。
海外華僑、香港/澳門、孔子学院は、そのようなセンスでの統治が進む筈。中華文明賛美を第一義にした活動拠点に衣替えさせられると見てよかろう。
ケ小平登場後は、中国は思想的にはなんらの影響力もない、労働人口が多いだけの国家と見なされてきた訳だが、それを一変させる動きが始まることになる。極めて国粋主義的な思想で、一枚岩の国家を目指すことになるから、反日姿勢は最優先事項とならざるを得まい。

と言えばおわかりだと思うが、もう一つ重要な柱がある。所管するのは、中央国家安全委員会。中華思想を土台にして、テロ撲滅作戦を敢行できる体制作りが進んで行くと見て間違いなかろう。解放軍と武装警察を再編し、徹底的に反中華勢力を叩くことになる。その核は、北方非漢民族の「漢化」邁進策。これに消極的な常務委員は駆逐される可能性もあろう。それが狙いと言えなくもない。
何故なら、「漢化」には、イスラム教徒にとって信仰を捨てざるを得ない内容が含まれてしまうからだ。テロ防止を強化すればするほど、テロは小規模無秩序化し、多発することになる。そんなことはわかっていても、中華帝国路線を進む以上は、避ける訳にはいかないのである。
つまり、テロ撲滅に賛同するか否かが、一種の踏絵。中華思想に100%同意しないと、紀檢組にあげられる仕組みと見てよかろう。すでに、その線で、中央政法委員会【公安・司法-検察】の再編が進んでいるのは間違いないところ。

紀檢組による整風、海外思想かぶれの撲滅、漢化の3本柱で中華思想の国家を作り上げようということ。

換言すれば、習政権にとって、経済政策は最重要ではないことを意味しよう。となれば、構造改革を狙うリコノミクス自体に期待している訳ではなく、それは米国との調整の道具程度の位置づけだと思われる。
金融改革、土地制度導入、国有企業再編、は中華国家へと歩を進めるのにプラスならGOというに過ぎまい。マイナスなら即刻中止となるだけ。

それに、欧米のエコノミストが騒ぐバブル破裂をそれほど気にしてはいまい。経済一辺倒の政権運営から、思想重視に振ったのだから。

おそらく、習政権から見て、経済における最大の課題は生産過剰の克服。従って、海外の捌け口先を広げることにしゃにむに邁進となろう。手っ取り早いのは、伸び代がありそうな地域に重点をおいた貿易拡大。BRICS全体重視より、EU、韓国、個別国対応へと進むことになるし、その可能性が薄そうな国の切り捨ても始まろう。そして、中華思想を受け入れる国々をまとめた、「元」ブロック構築へと歩を進めることになる。オバマ政権はそれを承認するしかない。

マスコミでよく騒がれるのは、不動産バブルについてだが、習政権はそれほど恐れていないように映る。高額投資物件の暴落は進むのは間違いないが、一般住宅は不足状態なのだから、、理屈から言えば、価格低下が急激に発生しないようにコントロールすればどうという問題ではなかろう。
シャドーバンキングによる危機話も飛び交うが、オフバランスシート上の問題とも言え、独裁政権であるから、サブプライム問題のような様相を呈することはないのでは。問題が発生しても先送りは可能だろう。
ただ、地方政府による放漫投資は中央にも実態が見えないだけに、間違った判断を下すと大事になる可能性は否定はできないが。
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