表紙
目次

2014.8.17

アベノミクス云々の無意味さ…

「アベノミクス頓挫か?」ということで、大騒ぎを始めたい方々が多いようだ。

2014年第二四半期のGDPが年率換算で6.8%縮小したことが衝撃を与えたのだろう。東北大震災以来の最低の値ということで。
統計は見ていないが、半世紀で初めてという印象を与える数値だ。消費税増税後なのでマイナスは予想されてはいたが、大概の人は、ここまで悪くなるとは考えていなかったということでもあろう。
それに、翌月冒頭と言われる内閣改造を巡る政治抗争が勃発しているに違いなく、官邸主導政治が面白くない党内大物政治家達から見れば、絶好のタネなのは間違いない訳で。

こうした大騒ぎで美味しい商売をしている人達は別だが、素人からしてみれば、なるべくしてなっただけ。今更政策を批判したところで、全く無意味。

2014年第二四半期のGDPは、対前年度比では、単に0%だったというだけ。

常識で考えればおわかりだと思うが、日本経済の実力は、四半期毎の数字をならせば0〜1%成長でしかない。税金で作った需要で、どうやらこの数字を保っているというのが実情。すでに、それに対応した経済体制が固定化されていると見て間違いない。にもかかわらず、こうした経済構造を温存したままで、バラマキ額だけ増やそうというのがアベノミクス。
対前年比成長率0%というのは至極当然の値ではなかろうか。

もしも、このラインから逸脱の兆候ありというのなら、それこそ一大事。生活苦の時代に入ることを意味するからだ。まだそこまでは行っていないというだけ。

どうアベノミクスを喧伝しようと、産業の新陳代謝を図る施策を打ち出すつもりはなく、バラ撒き続行で集票を目論む政権である。それを前提におつきあいすべきでは。
言うまでもなく、バラ撒きで労働生産性が向上する道理がない。その一方で、労働人口は毎年確実に減っていく。成長に転ずる根拠など、作り話以外のなにものでもなかろう。

しかし、世の中、そう思いたくない人も多いようだから、グラフを作っておいた。

見ればおわかりのように、「アベノミクス」以前から数字は上昇していたのである。でも、流石に、それは前政権の経済政策のお蔭と考える御仁はいまい。従って、そこら辺りだけお示しするのが一番面白いのだが、流石にそれは憚れるから、その前の落ち込みも入れておいた。
素人が普通に見れば、単に戻っただけ。
もっと長期で描けば、しつこいが、0〜1%成長のライン。単に、アップ・ダウンで一喜一憂というにすぎない。

そうそう、グラフではわかりにくいが、2012年の第三四半期から翌年の第一四半期までは、対前年度比マイナスである。これは政策変更のコストとも言えよう。通常のラインにもどれば、その分が上乗せされることとなる。消費税増税の影響も似たようなものだろう。グラフでも、ものの見事に前倒し消費に起因していそうな小さく尖った山が生まれている。

ただ、間違ってはこまるが、「アベノミクス」が、当座、経済成長率を高めるのは当たり前のこと。「前」日銀総裁こそ、その効果を一番よく知っていた筈。
言うまでもないが、それが引き金となって、経済の流れが変わることも、理屈上はあり得る。しかし、バラ撒き政策が続く限り、どう考えたところで、その可能性はほとんど無い。そのかわり、財政破綻が、突如として表面化するリスクが急激に高まることになる。
かつての日銀総裁なら、そんな冒険的政策を嫌って当たり前。

昔からそうだが、政治に期待はできないのである。企業が勝手に頑張るしかない。政治を当てにし始めたらアウト。

こんなことをついつい書いてしまったのは、温泉場で世間話をしたら、「アベノミクス」頑張れという人も結構いるからだ。

ついでだから、気になった点をあげておこうか。

マクロでは、給与所得上昇は期待できない。
首相みずからの、「給与を上げよ」の言葉が気にいっている人が多いらしい。海外の人達ならいざ知らず、日本社会を知っていれば、それが無理筋なのはすぐにわかるのでは。
と言っても、首相のご指示に応えて、給与が上がる人達が存在するのは間違いないから誤解されないように。その対象は公務員や大企業の正規従業員。もちろん、そんなご指導とは無縁な都会の業種でも、収入が大幅に増える人は少なくない。
しかし、それ以外の給与所得者にとっては実質所得は下がる一方。従って、マクロで家計がどうなるかは自明。
なにせ、非正規従業員だらけの世の中だからだ。
公務員を見れば、それが何を意味するかわかる筈。もちろんここにも膨大な非正規職員が存在する。仕事は正規と全くかわらない。というより、労働の質は正規より高いかも。しかし、実質賃金は3分の1以下と見てよいだろう。正規の給与を上げたところで、たいした効果はないのである。雇用の構造を変えない限り、どうにもならない。

これは民間企業でも似たようなもの。
と言っても、正規従業員は実は労働力不足だったりする。但し、それは必要な仕事の領域での話。しかし、それよりは、不必要な領域で人員を抱えている方が問題としては大きい。両者を合わせると、正規従業員は未だに過剰と見て間違いない。
この状態で正規労働者の給与を増やせば、どうなるかはいわずもがな。

これがわかっていれば、金融緩和による円安で輸出で利益が生まれるようになったからといって、企業の生産活動急拡大に簡単につながる訳ではないことなど自明。コア人材は不足している上に、労働力人口は「順調に」減少し続けているため、スキルを持つ非正規労働者を集めるのも簡単ではないからである。
そもそも、価格競争で負けているような企業が、為替という補助金をつけてもらえば、競争優位に立ち、繁栄が謳歌できるものだろうか。せいざいが、もともと競争力ある企業が、円安で大幅利益増を実現するだけのことでは。言うまでもないが、そのような企業は全体のほんの一部。
そんな企業に皆でブル下がれる時代はもうとっくに終わっているのだが、まだその可能性に賭けたい人は少ないないのかも。

地方は、株価経済とは無縁である。
金融緩和で経済を刺激する方策は日本では通用しない。
と言うと正確ではない。金融システムに組み込まれている首都圏は、先ず間違いなく繁栄につながる。ミニバブル化してもおかしくない。ただ、首都圏以外で通用するのは、せいぜいが2都市圏くらいではなかろうか。それだけで日本経済を牽引できるならなんとかなるが、残念ながらそこまでの力は無い。

ほとんどの地域では、金融状況に一喜一憂する人々は少数派で、その人達が地域経済に与える影響は微々たるもの。しかも、資本コスト無視の事業だらけ。起業の動きも弱い。金融緩和したところで、個人消費・事業投資のどちらにもほとんど刺激を与えることがないのが実情。
好調な消費と投資が散見されるのは、税金がバラ撒かれている領域と、規制業種だけ。

土木建築業はフル回転を越えている。
すでに、スキル労働力不足で土木建築業は青息吐息状態。東京では、完成間近の大型マンションが施工ミスで取り壊される例まで発生。こればかりは手の打ちようがない。
そういう状況にもかかわらず、さらなるバラ撒き政策が打ち出されるのだ。


 政治への発言の目次へ>>>    表紙へ>>>
 (C) 2014 RandDManagement.com