表紙 目次 | 2014.8.26 極右勢力躍進の意味するところ…少々古いが、ル・モンド・ディプロマティーク日本語版[2014年3月号]に掲載された、"激変する欧州の極右勢力"に関する解説がようやく理解できるようになった。日本でも、初めて、「極右」の国会政治勢力が発足したから。 言うまでもないが、「次世代の党」である。 国際的に、Japan's most prominent "far right" politician といえば、必ず名前があがるのが、石原慎太郎議員。古くから、「極右」的主張を繰り広げ、朋友ともども国会に議席を持ってはいたものの、国会の政党要件を満たして活動するほどの力はなかったのである。そのため、一匹狼的存在として動くしかなく、リベラル勢力まで含む広範な保守勢力のなかで活動するしかなかった。それが、ついに、衆院議員19名、参議院議員3名の組織を立ち上げたるまでに。 コレ、欧州各国での、右翼勢力の躍進と同期した流れと見ることもできるのではなかろうか。 そう感じたのは、「次世代の党」の基本政策は以下のようなものと見たからである。要するに、小さい政府派なのである。(ママではなく、小生が勝手に編集したもの。) 自主憲法制定 安全保障基本法制定 国家財政改革と所得課税軽減+薄く広範な資産課税 社会保障制度の世代間格差是正と徹底的な少子化対策 既得権益打破(規制改革)による競争政策と自由貿易圏拡大 現実的な脱原発依存エネルギー政策とエネルギー・資源外交戦略の展開 公正と秩序、愛国心を育む教育とバウチャー制の施行 日本型州制度を導入し国の役割を絞り込む ル・モンド・ディプロマティークの解説における指摘はものの見事に日本でも図星。 そこら辺りを書いておこう。 ご存知のように、欧州では右翼政治勢力が各国で躍進している。マスコミ報道は、おしなべて、既存政党はそれに危機感を覚えているといったトーン一色。こうなると、EU議会は動きがとれなくなりかねないとの危惧の念だらけと言ってもよさそう。 しかし、そんな"単細胞"的見方をしていると、流れを見間違うゾということ。 つまり、現代の極右勢力を、《国家社会主義+ファシズム+権威主義的ナショナリズム》と決めつけたがる人だらけだが、それは実情を反映していないというもの。ネオナチ勢力が《極右ポピュリズム》で集票に成功しているとの見方は止めよということ。 現実を見れば、ネオナチ的な勢力が目立つ国は例外中の例外でしかないのだから、素直に現実を見るべしとの主張。 確かに、ネオナチ色彩を感じさせる古典的極右政党は駆逐されつつある。かつては、既存秩序に徹底反抗の姿勢を見せることが極右勢力の存在価値だったが、それにこだわり続けた勢力は没落し、一気に変身し、ソフトムードを打ち出した勢力が急速に伸長していることを直視せよという訳。 つまり、極右勢力は二極化しており、伸びている右翼とは、議会制度のなかで動くことをモットーとしている点を理解すべきということでもある。 このことは、極右勢力への支持が集まっているのは、思想信条的に「右翼」へ傾いているのではなく、その「政策」を支持しているからではないのか、という「問」が投げかけられていることに他なるまい。 フランスで右翼勢力の伸長が著しいのも、そうした観点で眺めれば当たり前と言えそう。 ル・モンド・ディプロマティークの解説では触れられていないが、社会主義的政党の支持者が雪崩をうって「極右」支持に回りつつあるということでは。 考えて見れば、この動きは驚くような変化ではない。 例えば、ブルーカラー層ととってみれば、もともとリベラルな信条に共鳴して社会主義的政党支持者となったとは考えにくいからだ。常識的には、リベラル的意識が植えつけられるのは、教育の場であり、そのような機会があったとは思えない人達が多いからでもある。 独裁政権でもかまわないという姿勢の人々も含まれていることは間違いない訳で、本質的にはリベラルとは縁遠い層と見てもよかろう。 と言うか、気質的には保守の可能性も高いということ。この辺りは、農民層も当てはまるだろう。 はっきり言えば、労働者だから、社会主義的政党支持勢力だろうとの単純発想は、根本的に間違っているということ。ブルーカラーが今迄支持して来た理由は、単に、「反支配者」という点のみ。・・・この認識が重要。 つまり、冷戦構造のお蔭で、この層が社会主義的政党を支持することになっただけと考える訳である。くどいが、信条で、社会主義側を支持したことを意味している訳ではない。繁栄を享受できる最適解が社会主義勢力支持だっただけにすぎない。・・・支配勢力にとっては、ソ連が後押しすることになる社会主義革命を防ぐためには、労働者の生活レベル抑制の方向に進む訳にはいかなかったのである。社会主義的政党の要求を呑んで、労働者の社会福祉レベルを常に高めていくしかないから、この政治構造が極めて収まりがよかったのである。 しかし、冷戦が終わり、グローバル経済の流れが本格化すれば、次第に、「リベラル」を旨とする社会主義的勢力にはなんの魅力もなくなる。 既存政党は、移民による治安悪化、失業率高止まり、福祉給付削減の流れになんの対応もできないことがわかってしまったからである。社会主義的勢力がやっていることといえば、コア支持層の既得権益を守るだけ。ところが、自分達がコア支持層と見なされていないことに気付いた訳である。そうなれば、離反が始まらない方がおかしかろう。 しかし、支配層の勢力を支持する訳もなく、その変化に合致したのが極右勢力と言う訳。 ・・・と書くと、誤解を生じるかも。 反移民で極右に票が集まるのは、移民と仕事を直接奪い合う社会の底辺層の怒りからと解釈してしまいかねないからだ。 ル・モンド・ディプロマティークの解説は、そこを間違えるなと指摘しているのである。そういう要求に応える政治勢力なら、一番先鋭的な、古典的な極右でもよいことになる。既存政党への不満というか、フツフツとわきあがる怒りを吸収するのなら、"毅然として"既存秩序破壊姿勢を見せ続けてきた勢力が一番向いている筈なのだ。 ところが、人気が集まっているのは、そのような勢力ではなく、議会政治の枠内で動く「極右」なのである。 言い換えれば、既存政党への怒りから、「極右」に投票していると見てはいけないということ。 想像でしかないが、"移民、失業率、福祉"で、爆発寸前の不満が溜まっているのは間違いないが、それが沸騰している層が「極右」支持に回ったという見方では、この変化を間違ってとらえてしまうのでは、との警告でもあろう。 と言えば、おわかりになるのでは。 そもそも暴発寸前の人達は投票行為自体に関与するとは思えまい、ということ。 つまり、急増した「極右」支持層は、「極右」的心情から投票したのではないし、既存政党への不満からアンチ勢力に投票したということでもなく、現況で最重要な課題に応える政策を提起しているのが「極右」しかないと判断したにすぎないということになろう。 換言すれば、《極右ポピュリズム》政策が票を集めているのではなく、政策の大転換が求められ始めたということ。 小生が見た、欧州の極右勢力が切り拓いた流れとは、こういうこと。・・・ グローバル化に立ち向かう自信がない層への、解決策提起政党が登場したということ。当然、反EU。 心情的な紐帯は、当然ながら、グローバル化以前の姿の賛美(人種・宗教的見地での排外主義)。ただ、あくまでも「輝かしい」伝統を守ろうとのスローガンで飾ることになるから、反対者はすべからく反民族勢力と見なされる。 その紐帯強化の鍵を握るのが、偽善的福祉(税金バラ撒き)への強烈な敵視。 そして、問題を解決するには、国権最優先化(法と秩序重視の軍事国家)しかないという理屈で支持の拡大を図る訳である。 そして、現在のところ、それは大成功を収めている。 ─・─・─ 欧州の極右的政党 ─・─・─ <3大国> 【英】 「連合王国独立党(UKIP)」反EU 「イギリス国民党(BNP)」反移民 「イングランド防衛同盟(EDL)」過激派 反イスラム親ユダヤ 【仏】 「国民戦線(FN)」反移民(非宗教) 「共和国運動(MNR)」FNの分派 「立ち上がれ!共和国(DLR)」ド・ゴール主義 「狩猟、釣り、自然、伝統(CPNT)」地方価値観重視のみ 「フランスのための運動(MPF)」単なる右派 【独】 「国民民主党(NPD)」移民停止(白人至上主義) 「ドイツのための選択肢(AfD)」CDU系保守 移民停止 <ベネルクス> 【蘭】 「自由党(PVV)」反イスラム移民 【ベルギー】 「Vlaams Belang」オランダ語圏分離独立 「国民戦線(FN)」ワロン地域の民族主義 <南> 【伊】複雑で不明 「イタリアの同胞・国民右翼(FdI-CN)」ファシスト党後継 「北部同盟党(LN)」地域主義 【西】地域政党多数 (「旧ファランフェ党」3分派) 「カタルーニャのためのプラットフォーム(PxC)」 「声(VOX)」国民党(PP)分派 反議会制民主主義・自治州国家終結 【葡】 「国民再生党(PNR)」 【ギリシャ】 「黄金の夜明け」ネオナチ 「国民戦線」国粋主義 「国民正統派再生(LAOS)」 <旧ソ連圏> 【ポーランド】 「ポーランド家族連盟(LPR)」国民カトリック 【ルーマニア】 「大ルーマニア党(PRM)」古典的ナショナリズム 反ハンガリー 【ハンガリー】 「ヨッビク-より良いハンガリーのための運動(Jobbik)」ネオナチ 【ブルガリア】 「アタカ国民連合(Ataka)」反少数民族特権 外国人嫌悪 【リトアニア】 「秩序と正義党(TT)[旧称:自由民主党]」ポピュリズム的 <北欧> 【デンマーク】 「デンマーク国民党(DF or O)」[閣外政策協力]反移民 反イスラム 【スウェーデン】 スウェーデン民主党(SD)ジャーナリズムではファシスト扱い 【フィンランド】 「真のフィンランド人(PS)」国粋主義と左翼的経済政策 【ノルウェー】 「進歩党(FrP)」リバタリアン 反イスラム移民 <中立国> 【スイス】 「スイス国民党(SVP)」右派与党 人種差別/親ナチ 「スイス愛国民族主義党(PNOS)」 【オーストリア】 「オーストリア自由党(FPÖ)」ドイツ民族至上主義 「オーストリアのためのストロナッハ・チーム」反EU (記事) 「旧来の党派の挫折を機に脱皮する右翼諸派 激変するヨーロッパの極右」 ジャン=イヴ・カミュ ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2014年3月号 政治への発言の目次へ>>> 表紙へ>>> (C) 2014 RandDManagement.com | |