表紙 目次 | 2014.9.24 急激な円安の影響をどう見るか…黒田東彦日銀総裁は16日、ドル高・円安の進行に問題なしと発言。輸入物価上昇でインフレ率公約に近づくということで大賛成ということなのだろう。「今の時点で円高が是正されていく、 あるいは米国の経済、金融情勢を反映して 自然な形でドル高が進んでいくことが、 日本経済にとって 特にマイナスになるということはないと思う。」 20日にも、G20を前にして、その姿勢を明確に打ち出した。 「今の動き自体について 何か大きな問題があるように思っていない。」 まあ、安倍政権は"円安に歯止めをかけるな派"であり、日銀ファイナンスの財政バラ撒き至上主義でもあるから、当然といえば当然ではあるが。 流石に、財政バラ撒き支援派たる岩田規久男日銀副総裁でも、放置という訳にはいかぬと考えたようだが。 「円・ドルレートが安くなれば、 輸入材の価格が高くなることで、 短期的には物価を上げる要因になるが、 消費者のいろいろな行動を考えると、 それはむしろ物価を引き下げる方向に働く。 金融政策がそれにきちんと対応しないと、 結局、下押し圧力が強くなっていく。」 まあ、1ドル105円を越す円安世界は支障をきたすというのが、現実にビジネスを見ている、おおかたの方々の実感だが。・・・ 【19日】 岩田一政日本経済研究センター理事長(元日本銀行副総裁) 「円安方向にやや行き過ぎになっているのではないか。 経済全体に与える影響もプラスとばかりは言えず、 むしろネットでマイナスということもあり得る。」 【18日】 加藤隆俊国際金融情報センター理事長(元財務官) 「あまりにも動きが急だ。 その間にファンダメンタルズが変わったのか という疑問もある。 為替は一方向に動き始めると 行き過ぎる恐れがある。」 【17日】 三村明夫日本商工会議所会頭 「今より円高に進む方が心地いいことは間違いない。」 寺門一義全国地方銀行協会会長(常陽銀行頭取) 「エネルギー価格上昇や資材高が 中小企業の業績に影響を与えることが考えられる。」 【3日】 渡辺博史国際協力銀行総裁(元財務官) 「これ以上円安になること自体が どちらかというと マイナスになる産業が増えてきている感じがする。」 全体像を見るのは容易ではないから、エコノミストの予想は滅多に当たらない訳だが、上記の主張は一般常識の範囲内でしかない。 要するに、企業の仕入れ価格上昇が大きすぎるということ。 国内で薄い利益で稼いでいる企業は不調に至るのは間違いないだろう。特に、地方では資本コストを割り込んで事業を続けている企業は珍しくないから、急激な悪化もありえよう。存続の意味がない企業のスクラップアンドビルドに繋がる風土ではないから、「窮乏化」と呼ぶにふさわしい事態につながりかねないのは確か。 税金で食べるだけの経済構造がさらに強化されていくことだろう。それこそが自民党の政策だから致し方あるまい。 実は、過度の円安はグローバル企業のセクターでもマイナス効果を生みかねない。競争力を失っている企業が少なくないが、円安という補助金でどうやら生き延びることができるようになる。言うまでもないが、それで競争力が強化される訳ではない。それを原資として、たまった膿を切開することも考えにくいからだ。競争力喪失は相当前からわかっていたこと。にもかかわらず、手を打たなかった結果でしかない訳で、突然にして姿勢が変わるとは思えない。 但し、力がある企業にとっては、この時期の円安は決して悪くない。収益性上昇に伴い、さらなるグローバル基盤の強化に邁進できるからだ。言うまでもないが、輸出ドライブのために国内投資などするような経営方針を打ち出す企業は例外中の例外。余裕を利用して、縮小する国内市場に合わせた利益体質にするための徹底的な合理化を進めるのが筋。もともと、こうした企業では、必要な人材は不足しており、国内生産能力の単純増強はできる限り避けるのがまともな経営。 もちろん第一義的な課題は、M&Aを含めた海外の業容拡大やグローバル市場での新規事業である。 そんな動きにともなって、様々な専門人材を抱える首都圏は繁栄すること間違いなし。だが、地方への波及効果は期待できまい。税金で支えられる産業での安穏な生活を嫌う若者は、そんな動きに魅力を感じ、移住しかねないから、沈滞の可能性の方が高かろう。 これは厄介な問題である。言うまでもないが、日本経済の大部分は地方であり、首都圏がそれを支えるのは無理だからだ。 さしさわりがあるのか、上記の発言では取り上げられていないが、2014年に入り、安倍政権の大盤振る舞いが効かなくなっている点にも注意した方がよかろう。東京では、建築土木セクターは労働力不足に直面しており、ハコモノ予算政治は機能不全に陥ってくるのは時間の問題。 と言うことは、すでに、地方経済は手の打ちようもないということかも。 そう思うのは、地方創生相がなんと、「出生率を上げることが一番に取り組むむべきこと」と発言する状況だからだ。・・・石垣島、徳之島、久米島、宮古島、対馬、壱岐といった離島の高い出生率を目指し、同様な社会をつくろうと呼びかけているようなもの。つまり、子供が生まれることが元気の源という精神論を打ち出した訳だ。 しかも、東京の一極集中を防ぐというオマケ付きとくる。 日本は連邦制ではない。従って、経済成長を一手に支えている東京に機能が集中するのは当たり前の話。 機能を集中させたから、東京が繁栄している訳ではない。結果的に集中化が進んだだけのこと。 機能を地方に移転すれば、東京が不便になり生産性が落ちる。一方、移転先が繁栄する理由はなにもない。税金で食べる人口が地方に益々増えることにはなるから、そういう観点での一部の繁栄は可能だが。 確かに、今更、何度もやってきた、「観光」立国運動が受ける訳もなかろう。 企画機能やマネジメント業態の産業が突然勃興するとも思えないし、未だにカードさえ満足に使えない地域で、物品販売や食のサービス業が国際化できる訳もなかろう。 結局のところ、大幅円安で、首都圏は観光業でも大いに潤うことになろう。 そういうことを考えると、さらなる円安路線とは、閉鎖的な風土を維持しながら、「美しく」困窮して行く路線と見ることもできそう。 それは、ニッチでしぶとく生き残っている地域は益々輝きを増すことを意味するし、首都圏は新陳代謝がさらに活発化し、人材の国際化も進むことになる。 但し、あくまでも、財政破綻が早まらないという大前提のもとでの話だが。 (ブルームバーグ記事) 岩田元日銀副総裁:円安は「自国窮乏化」−08年と類似 2014/09/22 11:55 JST 加藤元財務官:円安の加速は日本にとってかなりマイナス 2014/09/19 12:56 JST JBIC総裁:一段の円安はマイナス、増税先送りなら悪影響 2014/09/03 17:14 JST 政治への発言の目次へ>>> 表紙へ>>> (C) 2014 RandDManagement.com | |