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2014.9.29

穏やかな不安感で驢馬不興…

米国の人種・宗教シェアからすると、自称驢馬派こと民主党の集票能力は、象を自認する共和党を越えている筈で、今後も、その流れは強まる一方だと思う。世界に冠たる巨象ではなく、家庭を護る暖かい騾馬こそが、米国政治に似つかわしいとの主張が通り易いということ。
もっとも、集票活動の実態からすると、カネの力が左右すると読めないこともないが。

ところが、不思議なことに、下院は共和党の世界と化した。
11月4日は中間選挙だが、勝敗は五分五分と言われている。民主党が上院で議席の過半を占めると決まっている訳ではなさそうなのである。
と言うのは、オバマ大統領の支持率は落ちたままで、上昇の気配ゼロだからだ。戦争推進者でもなかったというのに、類い稀なる不人気状態。国をまとめる力は無いと見なされてしまったのだろう。

市民運動家流政治のどうしようもなさはもう見たくないというところか。

しかしながら、特定の公約には忠実である。
死傷者を生むような戦争には米兵を送り出さないという方針は貫徹しているからだ。当然、世界の安定などどこふく風。それが、結果的に何を意味するかは考えない政治を志向しているといえよう。
戦争忌避だけとれば結構そのものでも、米国の安全保障にプラスになっていないと感じている人だらけになっているかも。
いわば、穏やかな不安感が漂い始めた訳だ。

そんな姿勢だから、外交は散々である。

中東は大混乱が始まった気配濃厚。
オバマ政権が画策してきた、地域の自主性にまかせる政策が全く機能していないのは明らか。イスラム国叩きの「広範な国際同盟」と言っても、参加国の意図はバラバラだし、宣伝とは異なり、参加者が広がっている訳でもない。それは当たり前の話で、空爆でこの手の組織撲滅など無理なのはわかりきったことだからだ。サウジ、イラン、トルコ、エジプトは、オバマ政権がこの地域のパワーバランスをどう変えようと動いているのかさっぱりわからぬのでは。結局のところ、適当に調子を合わせるか、離れて傍観姿勢を貫いて、様子見といったところだろう。それはおそらく無意味。何も無いからだ。
それがよくわかるのは、地上戦なき戦争と語っているから。軍隊にしてみれば、全くのお笑い草では。・・・目標は曖昧模糊。しかも、計画も無さそう。軍隊だから最高司令官の指示に従うしかないが、これではたまらぬのでは。
それに、誰でもが、原理主義者勃興はオバマ政権の所業の結果にすぎないと見ている訳だし。

ロシアの動きに対しても、口先での効果をあげつらう対応しかとれず、現実的にはなんの歯止めにもなっていないと見る人だらけ。しかも、NATOをどうするのかについても、リーダーシップを発揮するつもりもないとくる。

そんなこともあり、ヒラリー・クリントン元国務長官が打ち出した「アジアへの軸足変更」もスローガン以上ではない。アジアでは、それこそ、あれは一体ナンダカネ状態である。外交上、誰も表立って口に出さないだけで、信頼できぬ国との評価が定着しつつあるのでは。

TPPについても、すでに交渉実態のリークが始まっているところからみて、ほとんど頓挫状況と考えてよかろう。世界の貿易量をいかに増大させるかという発想で動く政治家ではないことがよくわかる。なるようにしかならないという姿勢そのもの。それが「市民流」プラグマティズムということかも。

一方、選挙対策として肝要な、クリントン元大統領流の、「経済だぜ」だけは、しっかりと守ってきた。
言うまでもなく、従前通り、ウォールストリートで通用する人材にまかせっきりというに過ぎないが。従って、その成績は悪い訳ではない。と言うより、合格点だろう。大統領が余計な口出しをしないというか、できないことが奏功しているのだろう。
ともあれ、どのエコノミストも、ほとんどの経済指標が良好と指摘。世論構築で一番の決め手と言われる雇用数字も、常識的には優等生的な水準に達しつつある。第2四半期のGDP確報値も季節調整後年率換算で前期比4.6%増だ。
こうなれば、米国のセンチメントを大きく左右する株価も当然ながらの高値水準。

ところが、マスコミの論調を眺める限り、先行き楽観論どころか悲観論トーンが幅を利かせている。
主力メディアは民主党系と言われるのに。・・・
これは、マスコミ対策が上手くいっていないというより、なんとなしの不安感が生まれていることを意味していると考えるしかあるまい。
その主張の多くは、格差社会の歪みが極限化しつつある点をつくもの。貧富の差が固定化して社会の流動性が失われつつあることを肌で感じとっているからだろう。こうなると、米国流のドリーム実現社会から遠ざかることになるから、この先、持続的な経済成長は難しかろうとなる訳だ。それに、この先、ベビーブーマーが老人化していくこともあるし。

ただ、一番の不興の源は、どうも「オバマケア」のようだ。
コア支持者たる、ベビーブーマーを含む高齢者と非白人層の人気を一手に集めるため無理をしたのだが、これがさっぱり上手くいっていない。人気取り政策が大不評の憂き目。コア支持層も、この大統領ではやっぱり駄目かという見方のようだ。
選択肢は民主党しかないが、こんな政治では全く期待できないということで、コア支持者層が支援する気力を失ってしまったらしい。
これから政治はどうなるのか、考えあぐねているとも言えそう。つまり、穏やかな不安感が醸成されつつある訳。

そもそも、議会は「ねじれ」ており、方向感に乏しいから、この先、内政はどうにもならない状態に陥ることになろう。
経済一流、政治は三流の国に陥ってしまうことになる。
それを肯定的にとらえる人は、「ねじれ」で結構となる訳である。市民運動家流の政治を続けるなら、政治は経済に口を出すなという流れが生まれることを意味していそう。
中間選挙結果によっては、この辺りをめぐって乱気流孕みになるかも。

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