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2014.10.18

大統領の指導力霧散か…

ここのところ、米国での報道は、ダラス一色に染まりつつあるかの感あり。
Dallas Parents Worried Over Ebola Exposure at Schools By Kelly Gilblom, Caroline Chen and Greg Lacour Oct 2, 2014 10:32 AM GMT+0900 @Bloomberg
どこまで本当かわからぬが、報道ヘリコプターまで投入されているとか。
まあ、そりゃそうだろう。エボラ出血熱の危険性を無視したかのような、余りに杜撰な防疫体制だったことが明らかになってしまったのだから。
Second Ebola Worker’s Trip Raises Concerns on U.S. Spread By Caroline Chen, Shannon Pettypiece and Zain Shauk Oct 16, 2014 1:01 PM GMT+0900 @Bloomberg
リベリア人のコミュニティが存在する都市で、素人でも感染の疑いを抱くような帰国患者を隔離しなかっただけでなく、病院の入院体制もいい加減だったことが知れ渡ってしまった。(セネガルでは防疫対策が奏功するが、米国ではさっぱり上手くいかないということ。)
"Ebola Health Worker Flew Hours Before Reporting Symptoms By Caroline Chen and Mary Schlangenstein Oct 16, 2014 8:26 AM GMT+0900 @Bloomberg

こうしたニュースを見ていない人はいないだろうから、この先、どこまで広がるかわかったものではないとの印象が定着してしまったのは間違いなさそう。なにせ、ヒトの国内移動が激しい国だし。
結果、大流行の懸念を抱いている人は過半を越えたそうだ。(ジャーナリストも重大問題との認識。米国は、日本とは違い、プライベート情報を記事にしないのが原則だが、罹患者名を公開しているからだ。言うまでもないが、公益を考えれば、正しい姿勢である。)
Ebola-Wary U.S. Seeks Solace in Sanitizer, Prayer By Esme E. Deprez, Allyson Versprille and James Nash Oct 17, 2014 4:42 AM GMT+0900 @Bloomberg
厄介なのは、この疾病は潜伏期間が2日〜3週間と結構長期である点。しかも、初期症状がインフルエンザ等とかわらない。これから寒くなり感冒が増えるから、罹患者が次々と発生でもすれば、パニック発生も有りえよう。

当然ながら、一大政治問題化し始めた訳である。
Obama Says Response Team Will Be Dispatched for Any Ebola Case Oct 16, 2014 7:41 AM TLT @Bloomberg
Boehner Urges Obama to Consider Travel Ban to Fight Ebola By Kathleen Hunter Oct 16, 2014 11:44 AM GMT+0900 @Bloomberg


もともと、エボラの流行は政治問題。それを大統領が全く理解していなかったということ。後手に回っている訳ではない。
The Toxic Politics of Ebola In Guinea, the epidemic isn’t just killing people. It’s threatening to tear the country apart. BY Peter Tinti OCTOBER 6, 2014 FP

ご存知のように、リベリアと米国は強い紐帯で結ばれており、米国がこの問題でどう動くか皆見ていた訳である。7月時点で、一般の人々の間で、西アフリカは手の打ちようがないとの話が広がっていたにもかかわらず、オバマ大統領はそれまで何の指示も出していなかったということ。政治的出動が必要なのに、WHOまかせ。そして、騒ぎになってから、ご要請に応えて、いよいよ「リーダーシップ」発揮を図るのだ。それがオバマ流の「正義」なのだろう。
その辺りの状況はわかりにくいかも。・・・
「国境なき医師団(MSF)」で7月まで現地活動を行ってきたイタリアの疫学専門家は、帰国後に匙を投げたかのような話をしている。リベリアと深い関係がある米国に、そんな情報が届いていない筈がない。この段階で、現地を知る専門家は、遠からず首府での爆発的な蔓延が始まることを想定していたと見てよかろう。防疫に必要な最低限の物資さえ無い状態の国であり、如何ともし難いことははっきりしていた。そこは、病院での介護補助や、遺体処理を家族がせざる得ない社会。国家もなにもできない状況であり、感染を止めるどころの話ではない。
West Africa: Ebola - Voices On the Ground 15 August 2014 SciDev.Net@allAfrica

おわかりになると思うが、こうした状況を知ると、WHOの担当官の予想は低目に映る。
WHO Sees Ebola Cases as High as 10,000 a Week in West Africa by Dec. 1 By Makiko Kitamura Oct 15, 2014 1:36 AM GMT+0900 & Oct. 14 (Bloomberg) -- CSIS Global Health Policy Center Director Stephen Morrison discusses U.S. readiness to deal with Ebola. He speaks on “In The Loop.”

先進国の感染防止体制の下での医療関係者が罹患する位だから、気付かないような僅かな汗の付着や、唾液の飛沫で感染すると考えるしかなかろう。そんな疾病が、ここまで感染が広がっているのだ。これから先、罹患者は増える一方で、行くところまで行かないと減少が始まらないかも。西アフリカは、マヤ文明の末期のようにならないとも限らない。
簡単に言えば、大規模派兵による武力統制下で、強制的な患者発見/隔離を行い、超法規的に強引な遺体焼却を進めない限り、ネズミ算的に罹患者が増える可能性があるということ。単純な算数なら、年末に累計死者50万人に達してもおかしくなかろう。

ここまで来てしまったのは、一重に、米国大統領の責任と言ってよいだろう。
蔓延を防げなかったとしたら、大統領への風当たりはただならないものになろう。民主国家なら当たり前のこと。

こうなったのは、オバマ路線の必然でもある。繰り返すが、たまたま後手に回った訳ではない。
リベリアへの大規模派兵を7月に始めていなければ、手遅れになるのは素人でもわかる話であるにもかかわらず、「皆で議論しましょう政治」の信奉者は、それを先延ばしにしたのである。

歴史/文化的な幅広い視野を持たないから、洞察力不足なのである。WASPではないので、そこの自覚が無いのかも。常識的には不案内な領域には、有能なサポートスタッフを揃え、その頭脳を十二分に駆使するものだが、オバマ流はどうもそれをしないことに重きを置いているようだ。
関係者を集めて「皆で議論しましょう政治」を進めたいのである。そして、協力して対処しましょうとなる。常識で考えればわかるが、それが機能するのは、課題が一致している時だけ。生活スタイルも違い、相反する課題を抱える人達を集めていくら時間をかけて議論したところで、良い方向に進む必然性などどこにもないのは自明。結局のところ、曖昧な目標に向かって「皆で進みましょう」となるだけ。レトリック的お飾りを施すことで、いかにも上首尾に進んでいる風情を醸し出すのである。その点では、政治巧者。
ローカルなコミュニティの市民運動なら、それで大いに結構だが、国際政治に持ち込まれたらたまったものではない。世界の安定を根底から覆すことになるからだ。

前大統領の大失敗の後片付け役として、期待の人として登場した訳だが、世界の無秩序化を牽引しているようなもの。今の調子だと、史上最悪の大統領として名を残すことになりかねまい。

と言っても、その感覚がわからない人も多いだろう。ノーベル平和賞に値するなら、素晴らしい人物と考えがちだし。

しかし、それは、単純な善悪論での評価でしかない点をおさえておくべきだろう。つまり、世界を一国で取り仕切る姿勢を見せた前大統領の政治は「悪」。それを覆す方向を打ち出した大統領は「善」というだけにすぎない。
だが、世界の現実を考えればわかるとおり、一国主義とは、裏を返せば、米国が世界の警察官の役割を担ってきたということ。オバマ路線とは、この仕組みを無くすことでもある。米国は一切責任をとらぬから、各地域毎に勝手に安定化を図ってくれというのだ。
まさに、夢物語である。早晩、どの地域も大混乱に陥るのは必定。それは、米国に返っていくことになる。

圧巻は、シリア・イラクへの空爆。なんと、"Inherent Resolve"作戦だそうである。言うまでもなく、統治への打撃は軽微であり、現地での兵士調達力を向上させるマイナス効果の方が大きかろう。つまり、格好付け以上ではなく、のせられたのである。本気で原理主義国家を打倒するつもりなら、結局、再度の米軍の派兵を決断するしかない。言うまでもないが、撤兵のつけが早速回ってきただけの話。
エコノミストが、米軍パイロット姿の大統領モンタージュ写真で表紙を飾るという、実に辛辣な皮肉を浴びせているが、それで済む話ではない。
"Mission relaunched" @The Economist September 27th 2014 表紙

これからアラブ一帯の不安定化が進んでいくのは間違いなかろう。
マスコミはオバマ政権を後押ししているから、リビアに関してのニュースをさっぱり流さないが、すでに暴力のカオスに陥っていると見てよいのでは。
残忍な為政者であったカダフィを抹殺しようとの単純発想でいけば、イスラム原理主義武装勢力が勃興し、手がつけられなくと予想されているにもかかわらず、オバマ大統領はあえてその道を選んだのである。3年にして、明らかに、それが現実化しつつある。トリポリはすでに政府統治下とは言い難い状況では。多分、手遅れである。従って、ここでも、原理主義国家樹立は、時間の問題。

世界が不安定化すれば、米国の安全保障も揺らぐことになるというのに、なにを考えているのか、さっぱりわからぬ。
チュニジアだ、リビアだ、エジプトだ、シリアだ、イラクだ、というだけでなく、クリミアにも火がつき、東アジアもきな臭くなり、さらには西アフリカ。
一方で、国内では、さっぱり上手く進まぬオバマケアを抱え、経済復調も実現しなければならない。しかも世界経済は減速中とくる。
そこに、中間選挙がのしかかってくる。
やらねばならないこと山積で、キャパシティを越えてしまい、今やどうにもならない状態かも。

今の調子で執務を続けていれば、早晩、駄目だしをくらうのではなかろうか。

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