表紙 目次 | 2014.12.16 アベノミクスが海外にどう映るか…日本では与党圧勝との報道が世界に流れ、一時ではあるが、耳目が日本に向けられたようだ。ついつい、12月3日のWSJ日本版に掲載されたコラムを思い出してしまった。 "日本の衰退期のイメージとして心に残っているのが、2011年3月11日の衝撃的な地震、津波、原発事故の三重災害である。そこには自然の脅威と無能なリーダーシップになすすべがない日本があった。" その通り。しかも、そんなトンデモ宰相をかかえるような政治屋集団が、今回の選挙で、議員数を増やしたのである。それは、その組織の特性という訳ではなく、新陳代謝を嫌う体質が表れただけ。 つまり、与党圧勝といっても、それは「構造改革へGO」という体制が整った訳ではなく、逆なのだ。当選者とは、地元の新たなバラマキ期待を背負い、新陳代謝せずに成長できるようにということで支援を受けているのだから。 まあ、それは選挙前からわかっている話。 この記者が書いているように、アベノミクス下というのに、「ビジネスのしやすさ」国別ランキングでの低い順位をさらに落としたことでもわかろう。 "日本を新鮮で身が引き締まるような市場の圧力にさらすことになる貿易、労働、移民の大規模な自由化についてもまだ強力に推進していない"が、それは自民党の議員にとっては、進める訳にはいかない課題だから当然のこと。もちろん、規制大好き勢力だらけの民主党はさらに難しい訳である。 その辺りはエコノミクスの指摘通りである。 "安倍氏はこれまで幾度となく、厳しい対策を巡って闘うことを拒んできた。安倍氏に譲歩を迫るのに、国民の抗議活動や労働者のストは要らなかった。ただ官僚や既得権者と衝突する恐れがあるだけで十分だった。" 自民党国会議員の言葉が引用されているが、まさにその通りだろう。・・・"同党の伝統主義勢力は「第1の矢(金融緩和)を理解せず、第2の矢(政府支出)が大好きで、第3の矢(改革)が大嫌いだ」" 言うまでもなく、伝統主義者とは、各小選挙区の土着勢力そのもの。年末衆議院選挙の圧勝を実現させた原動力である。 どちらのコラムにも、首相が構造改革のリーダーシップを発揮するのではないかとの期待感が滲んでいそう。 その気分はわかる。それ以外にどうにもならないのは、90年代からわかっていたことなのだから。 しかし、それは金輪際無理では。日本はそういう社会であり、それを変革しようという勢力も現れてこないのだから。 JA「改革」にしても、その議論に手をつけたからご立派というのは考えもの。この手の話はどう転ぶかわかったものではないからだ。 表面上進展させた形にして、その変化の緩衝剤的なバーター策が組み込まれるというのが常套手段。当該組織がますます太るように工夫するだけのこと。ほとんどの議員が改革阻止に動かざるを得なくなるだけの影響力がある組織であれば、官僚は知恵を絞ってそのように画策せざるを得ない。もちろん、当の議員達は官僚が規制好きで抵抗されたとのたまうだけ。 まあ、もともと、農林水産省の第一義的な課題は、大票田たる地方のコミュニティの安定。産業政策ではない。昔から、企業家精神あふれる農家は存在するが、それを潰すような政策を打たざるを得ないのである。趣味的次元の農業化でも一向にかまわない。 WSJや、エコノミストのコラムを書く人達が、それをどこまで知っているのかは気にかかるところ。 しかし、「改革」に期待を持っていることを匂わす意見を書いてもらえることは有り難いことと言わねばなるまい。その点では、安倍政権は実によくやっている。 と言うのは、海外から見れば、日本の政策とは単に円安で経済を持ち上げようとしただけに映ってもおかしくない訳だから。まあ、それはほとんど当たっている訳で、誤解と切り捨てることはできない。 日銀のトンデモ型金融緩和だけでなく、この期をとらえて、年金基金も出動させるのだから、本格的である。すでに、貿易収支も、従来の黒字額を反転させたような巨大な赤字。原発分のエネルギー輸入だけでなく、全体的に赤字基調の産業に移行しつつあり(海外生産と競争力喪失が原因)、実需でも円安圧力がかかる。 おまけに、実質金利マイナスであるから、円買の資金が流れ込むことも無い。 もう止めようにも止まらない状況である。消費者の購買力平価まで円安が進むのは当然の流れ。 実質レートを見ると、その異常さがわかる。海外から見れば、日本の極端な「円安誘導政策」が走り始めたように映ることになろう。 Roubini教授はこれが燎原に火を放つことになるとご託宣。日銀の動きは、まさに「a beggar-thy-neighbor approach」だと看破。 その結果、・・・ "another round of currency wars may be under way." あがっている国は、中国、韓国、台湾、シンガポール、タイ。ECB、スイス、スェーデン、ノルウェー、等も同様な緩和の動きに向かうだろうという。経済低迷期のこのような流れは悪い方向にしか進まない。 言うまでもなく、それは、・・・ "the resulting currency wars are partly a zero-sum game." 金融緩和がゼロサムゲームを意味している訳ではないが、流動性を高めても、日本のように投資は全く期待できない国では成長に繋がる訳がない。教科書的に言えば、一時的な資産市場価格の上昇が生まれるにすぎない。それが需要を喚起するというのは日本ではあてはまらない。 しかし、同じようなことが、世界で始まる訳だ。 米国も円安に黙っていられなくなるだろう。 〆の言葉に、ドキッとさせられる訳で、・・・。 "No wonder global growth keeps on disappointing. In a sense, we are all Japanese now." (source) 【特別企画】アベノミクスのジレンマ―破壊的再生か安楽な衰退か By Jacob M. Schlesinger WSJ日本版 2014年12月3日 11:08 JST 日本とアベノミクス:審判の時[The Economist 2014年12月6日] 翻訳 2014.12.11 @JBプレス Nouriel Roubini:"The Return of Currency Wars" DEC 1, 2014 Project Syndicate 政治への発言の目次へ>>> 表紙へ>>> (C) 2014 RandDManagement.com | |