表紙
目次

2014.12.29

米国覇権時代の終焉

オバマ大統領の任期はあと2年もある。実質的になにもできない状態と見る人もいるが、その逆では。選挙のプレッシャーが無いぶん、自由度が増したからだ。

その第一弾。・・・「キューバと国交正常化交渉、米大統領が開始発表」 [2014年12月 18日 06:55 JST ロイター]
政府筋のコメントは、「米国の外交政策で賞味期限が切れたものがあったとすれば、それは対キューバ政策だった」というもの。
確かに、運河のパナマは別だろうが、米州における反米政権樹立黙認姿勢への転換はとうに済んでいる。
そんなこともあるのか、日本での報道は、緊張緩和大歓迎といったトーンを感じさせるものが多い。しかし、ここは、是非とも識者による背景解説が欲しいところ。そう単純な話とは思えないからだ。

米国が受けた本土攻撃は、パールハーバーと9.11だけ。これに対し、対日本には一般市民大量殺傷。アルカイーダに対しては、支援者のタリバン殲滅と指導者殺害に踏み込んだ。
言うまでもなく、冷戦期には、敵国たるソ連邦と世界各地で代理戦争をくり広げて来た。
歴史的には戦争国家そのものである。
現時点では海外派兵回避ムードが蔓延しているものの、そんな体質が一気に霧消するとはとうてい思えない。
もちろん、キューバは実際に米国を攻撃した訳ではないが、喉元にミサイルという匕首をつきつけたのである。誰が考えても、「敵国」扱いするしかなかろう。
にもかかわらず、特段の理由なしに、その「敵国」と、過去を水に流して国交正常化できるものだろうか。

考えてみれば、かつて、似たような政策転換があった。

言うまでもないが、対中国政策。
反ソ姿勢を露わにしていた中国共産党との交流を突然開始したのである。その理由は自明では。・・・米ソ冷戦下、ベトナム戦争で疲弊一途の米国としては、なんとしても中国との連携を確保したかったに違いないのである。台湾防衛の法律があるにもかかわらず、そんなことを言っていられなくなった訳である。

その米国で、再び同じような疲弊が進んでいる。
アナロジー的に考えれば、キューバの敵国扱いを続ける力を失っている可能性も高かろう。
実際、そのような兆候は少しづつだが表にでてきている。モルジブで問題が発生すれば、従前なら、すぐにディエゴガルシアからの救援が行われたのではないか。ところが、支援したのは中国海軍である。それこそが、オバマ政権が考える新時代の体制では。

オバマ政権の「アジア回帰」とは、米国が世界から手を引いていく過程で、アジアでのスピードは緩めるという意味でしかなかろう。それは、中国に対抗するという姿勢表明ではなく、その逆では。米国の代替役を中国に期待すると言っているにすぎない。
つまり、中国共産党がオバマ政権に、中国を西太平洋を治める海洋覇権国家として認知せよと迫っているというよりは、オバマ政権が米中覇権時代へと動いているとみるべきだろう。その移行速度で、両者の考え方に多少の齟齬が生まれているに過ぎまい。

そうだとすれば、キューバ政策変更とは、米国は「無い袖は振れない」と宣言したに等しかろう。
換言すれば、米国覇権時代の終焉を示す象徴的な動き。

これで、TPPが2015年春にまとまらないと、米国没落は決定的なものとなろう。
発展途上国が、米国が敷いてきた枠組みに乗らないことを意味する訳で、グローバル自由貿易体制の霧消を意味するからだ。すでに、その方向で中国や国際機関の官僚は動いている訳で、ブロック経済体制への道へと進むこと必至。

ただ、今のところ、グローバルな金融だけは、アングロサクソン型の仕組みが通用している。そのため、米国覇権が崩れていないように見える。
しかし、ここでも、その基盤を掘り崩しかねない動きが始まっている。中国の資金がいよいよグローバルに動き始めるようだから。
海外投資のための組織整備が進んでいるし、中国企業の海外投資振興が本格稼働し始めるらしい。それこそが、金融と経済の構造改革を図るリコノミクスの狙い所だろう。
結果、米国債購入意欲は失せ去り、同時に元の国際化が進むことになる。中国は、米国債を大量に売る訳にはいかないから、それは急速に進むことになろう。まあ、簡単に進む訳はないが、始めた以上中途半端で止めることができないのが中国政治。
そうなると、グローバルな投資資金の流れは一変する訳だ。こうなると、米国覇権どころの話ではなくなる。それは杞憂ではないかも。

 政治への発言の目次へ>>>    表紙へ>>>
 (C) 2014 RandDManagement.com