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2016.1.20

米国の政治的凋落

1月中旬に行われた、オバマ大統領の任期最後の一般教書演説には失礼ながら大笑い。
一口で言えば、Changeの真最中だからどうか寛容に、というもの。しかも世界情勢を楽観視。理由もなく、米国はすべてが好調であり、この先すべてが上手く行き薔薇色の未来が待っていると言わんばかり。

当選した切欠となった"Change"へのノスタルジーに火をつけようとの目論見だろうが、逆効果では。

オバマ大統領が、米国の姿勢を大きく変化させたのは、誰でも納得。問題はその方向。共和党でなくても、ほとんどの人がそこを問題視している訳で。
 "Republicans agree with Obama
  that his presidency has been transformational
  -- but in a bad way."

マ、有権者の大多数の感覚は自明。
共和党による反対表明演説は素直なもの。最年少の知事 Nikki Haleyの言葉通り。(サウスカロライナ州,移民/マイノリティ,メソジスト)・・・
 "Many Americans are still feeling
   the squeeze of an economy too weak to raise income levels.
  We're feeling
   a crushing national debt,
   a health care plan
    that has made insurance less affordable
    and doctors less available,
   and chaotic unrest in many of our cities.
  Even worse, we are facing
   the most dangerous terrorist threat
   our nation has seen since September 11th,
  and this president appears
   either unwilling or unable to deal with it."


米国の力が落ちているのは事実。無能な大統領のお蔭でそうなったとされてはたまらないから、米国はあいも変わらず世界のナンバーワンですゼと叫び続けるしかないのである。

しかし、米国の力は最強といくら力んだところで、大統領の威信が高まるとは思えない。
なにせ、「世界の警察官役を降り」、「直接戦争には係らない」方針に転換した大統領なのだから。なにをするにも他国との役割分担で臨むことになり、かつての覇権国的態度を示すことなど無理である。従来型"同盟"の終焉ということ。
TPP妥結にしても、それは成熟化してきたASEAN政治のお蔭でしかない。COP21も、内容は最低で、ともあれ合意に漕ぎ付けたというに過ぎないが、大成果なのは間違いない。しかし、それは、オバマ大統領のリーダーシップで生まれたものではない。米国国内事情を知る他国が花を持たせているにすぎまい。
アフガンやイランからの撤兵、動揺が始まった中東、核問題を抱える東アジア、極右勢力とロシア系を抱えるウクライナと、どれも戦争勃発の引き金になりかねない問題だらけだが、どの一つとってもオバマ政権にはなんの戦略も無い。ただただ自らの市民主義的視点で、正当化し易いその場しのぎの動きをしているだけ。最悪の7年間と言ってよいだろう。

どれをとっても、包括的な方針は提起できす、とりあえず申し訳程度の施策でお茶を濁して様子見。それしかできかねる国へと転落したのである。No.1からOne of themへの移行を余儀なくされたとも言えよう。
しかし、オバマ大統領は、そんな現実を直視できないのである。世界のNo.1であるとの自負心で成り立っている国だから、どうしようもないということか。

従って、今もってオバマ支持を続けている人達とは、イデオロギー的に反共和党というだけに過ぎまい。この大統領は、そうしたイデオロギー的対決路線を推進してきたから、そうなるのは当然でもある。
 "It's one of the few regrets of my presidency
  that the rancor and suspicion between the parties
   has gotten worse instead of better."


思想性が欠落している市民運動的政権が生まれるとどうなるか、いみじくも、オバマ政権が示してくれたと言えよう。

おそらく、国内的には、この大統領には飽き飽きとの感情が蔓延しているに違いない。

しかしながら、だからといって、新大統領が誕生すればそんなムードが払拭できるとも、言いかねる。オバマ時代が長すぎたため、その余波が至る所に残っており、たいしたことはできないからだ。大統領のリーダーシップで国内政治が動くことは考えにくい時代に突入してしまったのである。

しかも、グローバルに大変動が始まる時期なのだからたまらぬ。

欧州では、メルケル政権続行は無理だろうし、フランスは国粋主義者がさらに力を持つ。そうなれば、EUは機能不全に陥らざるを得まい。東欧圏は独自色を強めるし、米欧関係を軸とした世界は崩れていくことになろう。
このことは、西欧的民主主義がもたらした多様性尊重の価値観が葬り去られていくことを意味しよう。

そう言えば、おわかりだと思うが、その象徴がISISの拡がりということ。
今や、その協調者はイスラム教徒が存在するほとんどの地域に存在するまでに。つまり、ある一線を越えてしまったということ。要するに、西欧的倫理感からくる多様性を全面否定する宗教原理主義が拡がりつつある訳で、聖戦主義者を定常的に生み出す温床ができあがってしまったということ。

もともと、フセインやカダフィのような暴君的な軍事独裁者がいたから、聖戦主義者が闊歩する事態を避けることができたのである。それを除去すれば、謀略一つで宗派部族間の武力衝突が始まる訳で、沈静化させるといってもモグラ叩き以上ではない。
オバマ政権のお蔭で、アラブ全域が西欧的倫理感を否定する方向に進むことが決定づけられたと言ってよかろう。ISIS問題自体は些細なことだが、それは象徴的重要性を持つのである。

エルドガン大統領@トルコやサルマン副皇太子@サウジアラビアが、その方向に旗を振っているのは、必然的結果である。オバマ大統領が誇る政策のお蔭で、この地は宗教原理主義一色と化すことになったのだ。クリスマスもラマダンも祝う世俗国家トルコは今や完全に過去形だし、アラビア半島全域で反サウジ的宗教分派の武力撲滅が始まっているのが実情。
アフガニスタンではついにHelmandが宗教独裁のタリバンの支配下に。これでこの地の流れも決まったも同然。アヘン収入急増の上、聖戦兵士が大量に生まれることになるからだ。

この先、米国の影響力は急速に萎んでいくことになろう。

(CNN January 13, 2016)
"State of the Union 2016: Full text"[→]
"State of the Union fact check" By Jake Tapper[Anchor and Chief Washington Correspondent]
"State of the Union: Barack Obama sells optimism to nervous nation" By Stephen Collinson


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