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2016.1.21

米国の政治的凋落(続)

来月冒頭には、ついに予備選挙。

このイベントだが、米国の政治的凋落を世界に示すものになりそう。
長期に渡る選挙戦で、世界秩序を率先して形成していくリーダーを選ぶという、民主主義国としての勢いが全く感じられなくなってしまったからだ。

それは、人種差別を広言し、合理性の欠片も感じさせない、非常識なトランプ発言を指しているのではない。それを見て絶望感を吐露するしかないビジネス界の問題把握力の欠如に呆れたから。
これでは、米国がリーダーシップを発揮できる訳がない。世界秩序を形成する戦略があるのは、今や、独裁者が采配する中華世界実現を夢想する国だけになってしまったということ。

問題点は3つある。

第一には、世界的にどのような政治潮流が始まっているかの理解が欠けている点。
先進国だろうが、発展途上国だろうが、どの国でもグローバリスト v.s. ナショナリストが熾烈な競争を繰り広げている。そして、どの国の政府もいかにしてナショナリストの動きを抑えるかに頭を悩ましている。世界経済停滞、テロ、移民に対するまともな処方がみつからないから、ナショナリスト勢力が伸長しているのだ。

第二には、中流意識を持つ労働者層の、オバマ政権に対する不快感蔓延を恣意的に無視している点。

第三には、二大政党の仕組みが機能しなくなってしまったのをわかっていながら、放置したままでいる点。

これらを踏まえていれば、選挙戦でなにがおこっているのかは、素人でもわかる。・・・

民主党の州、共和党の州、"Swing"州という枠組での選挙がほぼ固定化し、選挙制度が対立を和らげる方向には働かず、対立を煽るだけになってしまった。これで、まともな政策論争ができる訳がない。僅かな州での、戦術的駆け引きで勝敗が決まる状況なのだから。

このことは、長いスパンで考えれば、米国が制度疲労に見舞われているとも言えよう。
ソ連共産党や毛沢東の世界覇権構想が破綻した結果、そうしたイデオロギーによる侵略の危険は去った。その結果、今度は米国内部でのイデオロギー対立が深刻化してしまったのである。
民主党 v.s. 共和党はついに妥協不可能なレベルにまで達してしまったと見るべきだろう。どのような問題でも、文字通り水と油状態でどうにもならない。

2016選挙は、その対立を決定的なレベルに引き上げることになってしまうのでは。そうなれば、包括的な戦略方針提起など全くできかねる国に陥ることになろう。

そんな観点で選挙の実態を見てみよう。

先ずは、民主党。
ヒラリー・クリントンの勝利ムードが漂うが、その割には支持率はたいしてあがらない。そのため、民主社会主義者と自称するユダヤ系のバーニー・サンダース上院議員は意気軒高。
理由は単純。
発展途上国を含めた水準で、すでに中流下層であるにもかかわらず、自分達は、以前のような米国に於ける"ミドルクラス"であるべしと考え続けている労働者層からの支持を集めているから。
この層が抱える、金融と医療で大儲けしている企業に対する憎悪感情に乗っかっているということ。
これに対して、クリントン陣営はそんな流れにも秋波を送ることで対処するつもりのようだ。それは鵺的な動きそのもの。人気は伸びなくても、追いすがる候補の躍進の切欠を剪定し続けて、圧勝を狙う作戦なのだろう。
しかし、そのことは、これが奏功しても、リーダーシップを発揮しようがない状況に追い込まれる訳だ。

一方の共和党は今もって本命わからず状態。
小生のような素人だと、民主党に勝つため、福音主義者/バプテスト系信仰者等がまとまり、移民系の票を集めそうなブッシュを選ぶしか手がないと見ていたから驚き。
どうも、従来型の穏健派と呼ばれる政治家は避けよう的な雰囲気濃厚。
そう考えると、流れは3つか。

この選挙戦、<非政治家>の流れが強いことが一大特徴とされてきた。TVにちょくちょく登場していた有名人ドナルド・トランプ、黒人のベン・カーソン元神経外科医、女性のカーリー・フィオリーナHP元CEOが注目されたからだ。後2者は脱落状態らしいが、トランプはマクロな調査だと支持率トップ状況がずっと続いている。
しかし、こうした候補者群を一緒に考えるべきではなかろう。
トランプ旋風の鍵は、民主党用語だらけのマスメディアへの不信感に乗っているとも言えそうだから。要するに、マスコミ支援と心地よきレトリック演説だけのオバマ政治にズルズル引きずられるだけの政治にほとほと嫌気がさしている層に応えているからこその躍進。
その主張の核は、中東全域の不安定化をもたらした「オバマ的イデオロギー政治」を葬り去ろうというものでは。リーダーシップの方向が間違っており、こんなことを続ければ米国沈没しかないと指摘しているのだろう。おそらく、シリアのアサド政権容認、中国の軍事展開に対する軍事的対峙不可欠といった発想。つまり、強い米国でなくなった最大の原因は、民主党のイデオロギー偏向政治であり、それに単純なイデオロギー的対抗しかできないのが共和党既存政治家と説いているのだと思われる。
おそらく、中産階級維持のための福祉政策は不可欠との立場ではないか。従って、イデオロギー的な小さな政府派とは一線を画すことになろう。

従って、茶会系がトランプ支持に向かうことはえらく難しかろう。茶会は共和党州での多数派には至っていないものの、どこでも小さな政府主義がウケており力をつけている。この流れに乗っているのが、フラット税論者のテッド・クルーズ@テキサス州だろうから、この勢いが消えることは考えにくい。公務員給付削減を訴えるクリス・クリスティー@ニュージャージー州が残っているのも同様な根拠だろう。

要するに、既存エスタブリッシュメントを核とする穏健層が、共和党の主流的地位を滑り落ちようとしている訳だ。簡単に言えば、他国を潤すだけでしかない、グローバル化イデオロギーはもう結構との風潮が蔓延し始めたのである。

こうなると、穏健政治を望む層は新風を感じさせる候補一本化以外に動きようがない。それが奏功するとは限らないが。
その対象候補は一人しかいない。それなりの福祉も行うべしとのキューバ移民系のマルコ・ルビオ@テキサス州だ。反トランプキャンペーンを張っているジェブ・ブッシュ@フロリダ州は撤退しルビオ支持に回るとの期待感は強かろう。そして、ビジネス界も献金を集中せよとなる訳だ。古手民主党 v.s. 新風共和党で大統領選を戦えば勝算ありということもあるし。
しかし、それは見込み違いかも。

マ、どうあろうと、トランプ大統領実現は無理だと思う。人々は、なにかとイデオロギーを持ち出す共和党にも民主党にもあきあきしており、選挙にたいした関心がある訳ではないからだ。そして、誰が大統領になろうがなにもできまいと見ているということ。現時点ではトランプがタレント的で面白いから囃しているにすぎまい。最終的な投票になれば、さしさわりなさげな候補者の方に一票を入れることになろう。一旦、国家の凋落が始まってしまうと、そういう風土に染まっていくのである。

(WSJ記事)
「Why the 2016 Election Is Different Forget just about everything you thought you knew about presidential elections, because this one is different」By GERALD F. SEIB Dec. 29, 2015 1:07 p.m. ET
Who’s Running for President in 2016? Here’s a look at potential and current Republican and Democrat contenders in the 2016 presidential race. By WSJ News Graphics

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