表紙 目次 | 2016.7.7 Brexitの見方ようやくにして英国の"EU離脱"騒動も沈静化したようなので、国民投票結果について一言。若年層の7割以上が残留支持だったが、高齢者の6割ほどがEU離脱に動いた結果との報道と、労働党が離脱阻止と言いながら消極的だったとの見方だらけ。 そして、言外に、"一般大衆"は、「離脱が、経済・金融危機の引き金になりかねず、英国経済も低落する」との現実を理解していないと臭わせる解説が多い。 それはその通りだろうし、状況認識の一致は決して悪くはないが、このことで洞察力を殺すような流れが生まれていないか。 その辺りには、十分、注意を払う必要があろう。 例えば、労働党支持者の6割以上が残留に投票したのである。自由党でさえ7割でしかないのだから、たいした違いはない。指摘するなら、保守党支持者の6割弱が離脱に投票した点の方。 素人が考えても、ソリャそうなるだろう。この結果は驚きでもなんでもない。 世論調査では、直前の数字は別として、離脱支持が上昇し、ついに残留を上回る状況に向かっていたのだから。 その理由を、もっぱら移民問題のセンセーショナルな訴求にしているようだが、それはオバマ政権型の価値観での戦いとして位置付けたかったからとも言えよう。 移民排斥のウルトラ国粋主義者はもちろん存在するものの、もともと一部の少数勢力の話でしかなかろう。保守党支持者がそんな土俵で考えているとは思えない。ここを恣意的にまぜこぜにする意見が多いのはこまったもの。 と言うのは、EUが嫌われた理由など自明だからだ。 (但し、日本の新聞の見出しだけを読んでいると、全くわからぬが。) EU官僚の腐敗は目に余るし、ウクライナやシリアに関する曖昧な態度を見れば、誰だって、この先どうなるのかと思ってしまう。 しかも、ラテン系の出鱈目経済運営を容認するとなれば、保守層はついに"切れた"というのが実態では。つまり、残存に一票を投じていても、心情的には離脱すべしの人だらけということ。 若年層は知らぬだろうが、EC時代はフランスから加盟を拒否され続けていた訳だし、ポンド危機の際もドイツが知らん顔を決め込んだのである。そんな輩が牛耳る組織は危険きわまりないと考えるのは当たり前。 英国は、世界大戦で占領されたことなど無く、大陸内のゴタゴタのような馬鹿げた話につきあいたくない訳だし。 つまり、英国優遇の飴玉では解決のしようがない状況に至っているということ。 もう一つ見ておくべきことがあろう。 金融業や大陸への輸出が支える外資の製造業は、EU離脱で多大な影響を受けるのは間違いない。しかし、残留していれば経済好調を持続できるかといえば、それは疑問である。EUの成長余力は僅少であり、欧州内部問題で発生する経済・金融危機勃発の可能性は高い、と見る人も少なくないのだから。 そんなこともあって、すでに、英国政府は、この先の経済の覇権国として米国ではなく、中国を措定している。 (日本でさえ貿易の3割が中国で、2割が米国といった状態なのだから、そう考えるのはおかしな話ではない。) それに、オバマ政権誕生以来、その小市民的体質が禍して、世界の貿易量の伸びは止まっているに等しいのだ。先進国は、言葉上でイノベーション創出を連発するだけで、その潜在成長率は底這い化というのが「事実」。 EU市場への期待感などある筈がないのである。 これは、時代の転換点に差し掛かったことを意味する。先進国は早晩日本のように潜在成長率ゼロに近づいていくことを前提とした経済運営を迫られることになる。どの国も、今のままでは、福祉国家を続けるのが難しくなるということ。世界経済が一気に縮小するので、保護主義化が進むとは限らないが、少なくとも自由貿易を推進する時代は終わりを告げることになろう。 これに加え、更なる厄介な問題に遭遇していることを忘れてはならないだろう。 オバマ政権が米国覇権主義を否定したことによる副作用である。 軍事力による安定を図ることをせず、屁理屈民主主義に振ったのである。実情を無視して、リベラル原理主義的な政治を志向したのだからたまらぬ。 覇権国的振舞いを抑えるかわりに、世界の安定には責任持たぬと宣言したようなものなのだから結果は見えたようなもの。様々な強権独裁勢力が世界中で跋扈するようになってしまった。今のところテロで済んでいるが、国家間の戦争勃発も有りえよう。 このことは、米国を盟主とした集団安全保障体制は、早晩意義を失うのと同義である。米国の覇権主義反対というカウンターパートを国内政治勢力に擁しながら、米国の軍事力を利用する方針が機能しない時代に突入したのである。 こうなると、英国としても、どのようなポジションをとるかは考え時。英米枢軸を確固たるものにして、指導的立場に立って、EUの方向を決めていくとの、今迄のやり方が通用しなくなってしまうのだから。 (安保条約+自衛隊と憲法九条をペアにすることで、戦乱に巻き込まれず、安穏としていられた日本も、この問題に直面している訳だ。) 軍事と経済はコインの表裏なのは、世界大戦勃発の基本認識。それを考えると、EUの鵺的な統治体質からみて、平和維持に寄与できる組織か、疑問が湧くのは避けがたかろう。NATOの機能不全を引き起こす可能性も否定できない訳で。 つまり、"長期的に見てEU離脱は必然"という考え方が生まれておかしくない情勢。 いずれしなければならぬなら、たとえ混乱があろうが、それも一案と考える人達もいるに違いない。 そのような意見にも、耳を傾けておく必要があろう。それこそが、洞察力を高める鍵である。 大衆が持つ反移民感情と権力闘争好きの"政治屋"がこんな流れを作り出したとの表層的な見方と、全く迷惑千万な動きと声をあげるだけで終わってしまうのでは、余りになさけなかろう。 色々な考え方を知って、初めて、まともな状況認識ができるという大原則を忘れないようにしたいものである。 政治への発言の目次へ>>> 表紙へ>>> (C) 2016 RandDManagement.com | |