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2006.2.1
 
 


ライブドア問題は深刻か…

 「ライブドアショック」の話題で持ちきりだ。

 これでIT関連銘柄や、新興市場が低迷しかねず、株式市場全体が不調をきたすのではないかという話も聞かされた。日本でのM&Aが下火になるかもしれないと語る人もいた。起業抑制やIPO規制に進まなければよいが、との指摘もあった。
 かなり心配されている方々が多いが、杞憂ではなかろうか。

 もちろん、未だに、官による規制とカルテルを好む勢力は至るところに存在する。又、収益をあげる企業の存在そのものを悪徳視する人達も少なくない。従って、こうした人達が力を合わせれば、逆流もありえるかもしれないという気にもなろう。
 しかし、歴史の流れを変えることはできないと思う。

 おそらく、富めるものが突出してくる2極分化現象や、拝金主義が勃興してきた社会状況への反省を主張する人達が、ここぞとばかり、主張をくり返すことになろうが、混乱を招くだけで終わるしかない。
 と言うのは、この手の主張は、「やさしい」社会を作ろうとのスローガンだけで、具体的な内容が無いからである。いくら騒いだところで、政府の支出増や、非効率分野へお金を回すことはできまい。
 今の日本に、こんな余裕などないからである。こんな施策を始めたら、生産性低下一途だから、お金は海外に逃げていき、不景気におそわれるだけのことである。
 結局、一番被害を被るのは弱い者である。

 大きな流れを考えれば、ライブドア問題も、おこるべくしておきたものだと思う。

 日本と比べれば、格段に監査・監視の制度が完備していると言われていた米国でも、エンロンやワールドコムで大規模粉飾が発生した。
 それと比べれば、ライブドアショックは、社会全体からみれば、痛みは小さい。
 大きな損害を被ったのは、バブル的値上がりを求める株主と、ホリエモン支持株主である。値動きが激しい株はもともとハイリスクだから、致し方あるまい。それに、もともと胡散臭さは否定できない。M&Aを行っても、のれん代償却が重荷にならないのだから、摩訶不思議としか言いようがない。
 但し、この程度は珍しいことではない。よからぬ噂が飛び交ったり、理解に苦しむような会計基準変更があっても、放置するのが日本の市場の常識だからである。ライブドア事変がおきて驚くほうがどうかしていると思う。
 M&Aの分野のルールは、曖昧で不備であることは皆知っている。そして、ライブドアはそのグレーゾーンを歩む企業なのだから。

 とは言え、ライブドア本体は、多額のキャッシュを抱えているままのようだし、手中にしたビジネスはそれぞれ独立しているようだ。要するに、なんのシナジー効果も発揮できていないのに、それを信じて株価があがっただけのことである。それぞれの事業の現場で腐敗が発生した訳ではない。
 腐敗の元凶は経営者であり、それを許す周囲の風土である。そこにメスが入ったにすぎない。

 そもそも、この手の問題は新興企業だけではなかろう。

 既存勢力も同じようなものだろう。粉飾、総会屋、賄賂、等々、本当に減っている方向に進んでいるのかは大いなる疑問である。The World's Billionairesに登場した西武グループオーナーの不正事件、100年以上の歴史を誇る鐘紡の粉飾を見て、次は?、と聞きたくなるではないか。
 こうした不正を許さない仕組みができたとも思えないからである。

 要するに、経緯上、いたしかたない不正というものもある、と考える人が多いのだ。公平で透明なルールは避けたい人が多数派と見てよいだろう。

 問題は、それを腐敗とは思わない社会風土である。歪んだ倫理感が横行しているのである。
 常識で考えればわかる筈である。会社は誰のものかなど、どうでもよい議論である。重要なのは、なんのために企業があるのかである。

 食事処の名前や行きつけの飲み屋の話を、毎日、ブログに書いて盛り上がる経営者が、社会変革やIT革命に興味を持っているとは思えまい。嫌な予感がしたのは、筆者だけではなかろう。
  → 「言志四録で感じたこと 」 (2004年5月11日)

 資本主義の生命線でもある株式市場の健全性強化にも繋がるから、早目に摘発できてよかったと考えた方がよい。
 もっとも、日本特有の胡散臭い仕組みを温存したい人が多いから、メスが入って、改革が進むとは限らないが。
 (軽い罰則、隠れ蓑的組織、建前だけの監査機能、・・・)

 このように語ると、「ライブドアショック」をもっと深刻にとらえるべきと、お小言を頂戴するかも知れない。

 しかし、深刻に考えるべきと言うのなら、市場ではなく、東証の情報システムの方だろう。
 「ライブドアショック」で大量の注文が流れこんで対応できなかったと平然と答える姿勢には唖然とした。その一方、ネット証券の方は、一つのシステムも揺るがなかった。余りに象徴的である。

 ともあれ、10年スパンで考えれば、日本株の低迷は考えにくい。
 すでに、上場企業全体でみれば、過剰設備、過剰負債、過剰人員の状況を脱したからだ。歴史ある事業でも、将来の見込みがないものは売却を図れるようになった。非合理で、不明朗な経営から脱皮し始めているのは間違いあるまい。
 と言うことは、これからは、高収益企業とハイテク企業が日本の株価を支えていく構造に変わることを意味すると思う。
 そう考えると、「ライブドアショック」は、ここ数年、大量に参入した個人株主が損害を受けて、用心深くなる程度の影響しか与えないだろう。

 日本社会のこれからを考えると、寿命伸張と低出生率で労働人口減少が急速に進む。このことは、不動産市場が大きく膨らむことはなく、旺盛な消費も期待できないということだ。つまり、デフレ圧力は続く。
 しかし、団塊世代の退職でお金の方は溢れてくる。

 このお金がどこに流れるかだ。

 国債等はもう満杯である。不動産へも余り流れないだろう。と言って、商品や資源が投資対象になるとも思えない。
 お金は、海外か国内企業へと向かうしかあるまい。海外へ流れれば大幅な円安となりかねず、そのような事態を避ける動きは必ずおきるから、奔流になることはなかろう。
 すると、日本企業に流れるしかない。企業の方は、直接金融を好むから、国内株へとお金が集中することになる。
 但し、優良企業と、不調企業の差は大きくなると思われる。伸びそうな企業や優良企業の株価が高騰すると思う。

 但し、団塊世代の性分で、消費が大きく削られることはなかろう。
 従って、競争力のある企業は、これまでの投資を好調に回収できる。収益力は急速に高まる。そこから生まれたキャッシュはハイテク分野の研究開発・新事業開発投資に回ると思われる。
 そうなれば、価値ありそうな企業の買収も盛んになろう。
 このような状況が到来すれば、ハイテク企業の株価はバブル化するかもしれない。

 米国でも同じようなことがおきるかもしれない。

 バブルは資本主義では避けようがないのである。

 もっとも、これは団塊世代が健康であることが前提になっている。この前提条件が崩れる頃の話は恐ろしいから、よしておこう。


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