地震説「間違い」報道の背景(20060427)

2006.4.27

地震説「間違い」報道の背景…

　よく知られているように、東海地震説(駿河湾地震説)は、約30年前に、石橋克彦東大理学部助手(当時)が地震予知連絡会で発表した考えにもとづく。

　ところが、2006年3月27日、『東海地震説に「間違い」提唱から30年石橋教授見解』⁽¹⁾との見出しが静岡新聞躍った。もっとも、読んでみれば、1944/46年に発生した南海/東南海地震には「割れ残り」があり、東海地震が切迫しているとの説は、間違いというだけの話。そんなつまらぬ話なら、学会ででも議論すればよいと思ってしまうような代物。(付記参照)

　・・・と感じるのは、静岡県に住んでいない人だけかもしれない。

　“「明日起きてもおかしくない」―。静岡県民は既にこの言葉を聞き飽きた。”⁽²⁾ということのようだ。

　よく考えれば、「割れ残り」モデルに基づいて、日本では、唯一、予測できそうなトラフだといくことで、世界に類例なき大観測網を作りあげた。しかし、その役割に意味があるかという問題提起でもある。
　静岡県民は、一生懸命に防災体制をつくってきた。これは素晴らしい財産といえよう。
　だが、それに比べ、観測網は一体なにを提供しているのか、ということだ。

　これでは、何を問題視しているかわかりにくいから、直裁的に言おう。

　駿河湾トラフに観測を集中するということは、他の地域では手を抜くということに他ならない。投入できる資源は有限である。
　素人の直感(直観の方ではない)では、駿河湾トラフより、南海トラフの方が大いに気になる。駿河湾トラフ重視は、極めて疑問な方策と言わざるを得まい。

　1995年1月17日の阪神・淡路大地震は内陸地震だが、これは南海トラフで発生する大地震の露払い現象と感じるからでもある。

　そして、東海地震に引き続いて、東南海と東海地震と、三連発の可能性も高そうだ。溜まった歪が地震で解放されるという理屈なら、東海での歪が解放されていないのだから、その規模はただならないものになるかもしれぬ。
　とはいえ、最大の被害は関西を襲う津波ではないかと思う。
　　→　「地震対策とは」 (2005年7月27日)

　おそらく、このような発言をする人もいると思うが、言ったところで、そんなことは前からわかっており、政府も“真面目に”動いている、との声が返ってくるだけだろう。
　実は、ここが一番の問題なのである。

　“真面目に”動いていれば、プラスに働くと考える人が多いのだ。
　ところが、ビジネスマンはそうは考えない。マネジメントの仕組みがいい加減だと、皆が、いくら真面目に頑張っても、下手をすると、総体としてはマイナス効果しか得られないことを体験から学んでいるからだ。

　「駿河湾トラフ観測を集中路線」とは、どう見ても、マネジメント仕組みが弱体なままで“真面目に”動く組織を彷彿させる。

　法律にしても、東海地震は「大規模地震対策特別措置法」、東南海・南海地震は「東南海・南海地震に関わる防災対策特別措置法」と別である。わざわざ分ける意味を聞きたいものである。
　この奇怪な法律のお蔭で、各自治体は、まず前者用の対策を作り、それとは又別途に、後者用の対策もつくらされることになる。当事者にとってはたまったものでなかろう。

　政府の方針もよくわからぬ。
　地震予知ができるとの前提があるのか、ないのか、曖昧なのである。このような方針なきマネジメントほど怖いものはない。

　ビジネスマンなら、意味ある予知はできない状態と判断するが、そうは考えない人が多いようだ。と言うより、予測の仕組み作りに反対したとのレッテルを貼られるのが怖い政治家が多いのだろう。
　予測システムに膨大な費用を投入する位なら、地震被害を少なくするための、地震発生直後の迅速対応システムの研究開発投資に回した方が実践的だと思うが、日本の組織は全く逆の方へ進んでいる。
　わざわざ、迅速な意思決定ができない組織を作ろうとしているのではないかと思ったりする位だ。

　それはともかく、プレートがぶつかり歪みが集中している箇所⁽³⁾では、周期的に大地震が発生する。これは避けられない。
　こうした危険箇所のなかでも、日本は3つのプレートがぶつかる場所(Median Tectonic Line)だから、最悪である。
　しかも、世界経済に大きなインパクトを与える可能性が高い。

　そのような場所は、実は、もう1箇所ある。大断層(San Andreas Fault⁽⁴⁾)を抱えるサンフランシスコ付近である。
　前回の地震は1906年4月18日朝だった。ちょうど100年前のことである。
　と言う事は、こちらも、そろそろ危ない時期に入ったということかも知れぬ。
　発生すれば、その被害は、超大型ハリケーン「カトリーナ」に襲われたミシシッピー州の比ではなかろう。

　日米同時の悪夢だけは、おことわりしたいものだ。

　--- 参照 ---
(1) http://www.shizushin.com/feature/jisin/jisin_kiji/20060327000000000016.htm
(2) http://www.shizushin.com/feature/jisin/jisin_kikaku_2/kikaku16/20060331000000000019.htm
(3) http://www.pbs.org/newshour/science/earthquake/interactive.html
(4) http://pubs.usgs.gov/gip/earthq3/
　--- 付記 ---
石橋克彦（神戸大学都市安全研究センター） “2006年3月27日付静岡新聞1面記事＜東海地震説に「間違い」＞は「誤報」” [2006年4月2日]
http://historical.seismology.jp/ishibashi/opinion/onShizushin060327.html

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