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2007.1.24
 
 


言霊の国…

 「水の事故」と聞けば、溺れたと考えてしまうが、水の飲みすぎによる「水中毒」もある。
 「一酸化二水素」といった聞きなれない用語を使われると、危害を及ぼしそうな化学物質と勘違いしかねないが、H2Oのことだ。単なる「水」である。
 ちょっとした言葉の表現の違いで印象は大きく変わる。
   → 「『水の事故』報道を眺めて」 (2007年1月23日)

 言葉はかくも重要、と言われても、さっぱりピンとこないだろうが、日本では、古来から、言葉を発すると、それが絶大な影響を与えると信じられてきた。いわゆる、言霊信仰である。
 ・・・そんな話は、現代には通用しまいと考えてしまうかも知れぬが、そんなことはない。
 実例で示そう。

   言霊の八十の街に夕占問ふ占まさに告る妹は相寄らむ(1)

 辻占いで、好きな人が靡いてくると言われる。その言葉が現実になるという万葉集の歌である。
 今もこんな風景は珍しいものではなかろう。占いとは、予言者による透視と考えがちだが、その本質は万葉の時代から続いている言霊信仰である。

   「柿本朝臣人麻呂歌集歌曰」(2)
葦原の 瑞穂の国は 神ながら 言挙げせぬ国 しかれども 言挙げぞ我がする 言幸く ま幸くませと 障みなく 幸くいまさば 荒礒波 ありても見むと 百重波 千重波しきに 言挙げす我れは <[言挙げす我れは]>
   「反歌」(3)
磯城島の 大和の国は 助くる国ぞま ま福くありこそ

 「言挙げ」とは、真摯に言葉を声に出すということ。言葉を発することが、「どうか、お幸せに。そして、何事もなくお過ごしになって下さい。」に繋がるのだ。
 言葉として声に出せば、それが素晴らしい結果を生むことになる。
 これとは逆に、いい加減なことを言ったり、不吉な言葉を発すると災難を呼ぶと考えられている。
 忌み言葉として、この習慣は、脈々と受け継がれており、誰でも知っている筈。
 それに、慢心した発言を繰り返せば、必ずや悪いことを招くとの感覚もあろう。これこそ、言霊信仰そのものではないか。

 こんな経験を持つ人もいるのでは・・・。
 いい加減な輩と見なしていた同僚と、年月を経て出会うと、予想に反して大活躍していることがある。なんでアイツが、と驚く。
 なにか大きな話をしていた覚えがあるのだが、腑に落ちないのである。
 こんな時は、どういうことか考えてみるとよい。
 最初は、当人も、冗談半分で大きなことを言ったかも知れない。しかし、語っているうちに、本気になってくる。そうこうするうちに、願い通りに進みそうな気になる。そうなると、それこそ全身全霊で打ち込み始めるから、人が変わってしまうものである。
 こうなれば、周囲の受け止め方も自然に変わってくる。
 すると、言葉が現実化し始めるのだ。すると、その流れは止まらなくなる。
 何度も言葉に出していると、叶えられるということである。まさしく、現代の言霊だ。

 実は、古事記をひもとけば、このような言霊信仰が続く理由も見えてくる。

 大国主の息子、八重事代主が国譲りを承諾する話を思い出して欲しい。事代主は言代主とも記載されていることでわかるように、「コトシロ」とは言柄を知るの意味だが、神の言葉を伝えることと同義なのである。
 これを踏まえて、どういう状況で事代主が言葉を発したか考えるとよい。
 そもそも、国譲りが必要になったのは、主権者を決めることができなかったからだ。はっきりと主権者の名前を言える神がいなかったのである。
 既存勢力の代表たる大国主もその役割を果そうとはしない。事代主に下駄を預けたのだ。
 その結果、事代主が言葉に出す。これで、ようやく、国としての意思決定ができたのである。
 そして、権力移行時のゴタゴタを避けるべく、事代主は即座に退場する。
 この事代主を祀っているのは、出雲ではなく大和の河俣神社だ。(4)既得権益を手広く握っていた、大和の土着勢力である可能性は高い。

 ビジネスマンのなかには、こんな事代主の姿勢に感じ入る人も多い筈である。

 言霊信仰は生きている。

 --- 参照 ---
(1) 万葉集巻十一 2506  http://etext.lib.virginia.edu/japanese/manyoshu/AnoMany.html
(2) 万葉集巻十三 3253 同上
(3) 万葉集巻十三 3254 同上
(4) http://www.genbu.net/data/yamato/kawamata_title.htm
(国譲り以前の古事記について)  → 「古事記を読み解く [大国主の国づくり]」 (2005年12月28日)

 --- カットの説明 ---
吾只叶知 (われ, ただ かなうを しる.)


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