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2007.6.19
 
 


人の起源が見えてきた…

 不思議なことに哺乳類で直立二足歩行するのはヒトだけ。
 似た挙動は、せいぜいがカンガルーの闘争時の姿勢と、某動物園のレッサーパンダがお遊びで立つ時位のもの。ただ、鳥では、脊椎を垂直して立つペンギンの例があるが、どれも歩くための姿勢ではない。

 そんなこともあるため、“直立二足歩行が人類と類人猿を区別する根本的な特徴であることは,この50年間の人類学のセントラルドグマ”(1)になっている。
 確かに、道具を作成し利用する能力や、言語をコミュニケーションに利用するのは人だけではないから、そうなのだろう。
 ただ、学者は「森からサバンナへの進出」に伴うものとしているが、そこだけは納得感が薄い。
 そのため、森が無くなり、草原を長距離移動するための適応と言われているが、体毛が無いから、水辺を歩くための適応ではないかという、水棲陸上説の支持者も少なくない。もっとも、それは素人がほとんどだが。
  → 「カモノハシに想う 」 (2006年5月18日)

 学者が余りに冷淡なところを見ると、状況証拠ではあるが、化石等から、水棲陸上説への反証が揃っているのかも知れぬ。発言ができないだけということ。
 もし、そうなら、おそらく体毛喪失と二足歩行は無関係である。毛が生えた直立二足歩行と思えそうな化石があるのかも知れぬ。

 それはそれとし、2007年6月、ついにこのサバンナ説を葬りさりかねない仮説が登場した。
 木から下りたのではなく、樹上で直立二足歩行の能力を獲得したというもの。

 素人でも、そういわれれば、そうかも知れないと頷かされる論理だ。
 しかし、すっきりと頭に入ってはいかない。
 どう考えても、危険な肉食獣がいるところで、逃げ足がのろく、隠れるすべもない大きさの草食動物が生きていけるという説に脆さを感じるからだ。

 類人猿は人と同じく、手が体躯の側面に付いており、二足歩行にならざるを得ない。しかし、類人猿は、地表で歩こうとすると、どうしても手がついてしまう。ナックル歩行と名づけられる歩き方になり、ヒトの直立歩行とは大きく違う。 逆に、ヒトの方は木に登れば、類人猿のようには四肢を上手く使えないから往生する。せいぜいが、四つん這い。しがみつきながら移動するしかない。
 そのため、ヒトは木から降りたとの説はごく自然に感じていた。

 しかし、ちょっと考えれば、樹上での移動もいろいろある。我々は、そんな生活を知らないから、枠にはめて考えてしまうのだ。
 太い枝や幹では、四つん這いが当然。
 だが、撓る細い枝もある。そんなところは避けるというなら、そもそも木から降りることも無い。そんな芸当に挑戦する方が、降りるより確実にありそうな話。
 そんな細枝では、四つん這いで移動するなど無理筋。直立し、そばの枝を手で持ってバランスをとりながら移動するのが自然体だ。

 この観点で類人猿を観察すると、オラウータンがそんな行動をとっているというのである。
 従って、“われわれの祖先達がどのように四足歩行から二足歩行へと移行していったのかの説明は必要ない”のだ。(2)

 言われてみれば、赤ん坊もハイハイを止めは足で歩きはじめる際は、どこかにつかまり立つところからだ。ゴリラ型歩きなど見たことがない。

 そういえば、“日本で唯一の独立系霊長類学者”と称する専門家も、直立二足歩行の起源を提起している。(3)

 こちらの論理は明快。
 住む環境は食糧入手状況を規定する。霊長類の手と歯の形状は、食餌形態に合わせた形状と機能発揮ができるようになっている。従って、両者の関係をみれば起源がわかってくるというもの。

 面白いが、この論理は、知りたいことから離れてしまう。

 と言うのは、ヒトの特徴は何でも食べる点。ニッチ的な食の世界に甘んじなかったから発展したように見えるから、この説はどうもしっくりこないのである。
 それに、初めから過食症ぎみだったのではないか。たいていの動物は、特別な条件下でなければ、過食などしないが、ヒトは違う。流石に満腹では食べられないが、食糧貯蔵で対応したのである。
 こんな食習慣を持つ哺乳類はいないと思う。
 もっとも、例外がある。この習慣が伝染した、ヒトのペット。

 ヒトの特殊性は食だけではない。
 同種殺害を結構行う。
 種の危機到来の場合を除けば、滅多なことでは殺害を行わないのが常識だと思うが、それが通用しない。ヒトの歴史は、同種の大量殺戮で埋まっている。

 しかも、ヒトは1種。にもかかわらず、動物の頂点に立ち繁栄しているように映る。
 一般に、種が多い生物は繁栄しており、種が少ないのは、生きた化石動物とか、絶滅危惧種。
 いかにも不思議ではないか。

 どうしてこうなるのか、思わず専門家にたずねたくなる。
 例えば、天敵がいなくなると、種内での殺害が始まるものか、とかいろいろ疑問が湧くからだ。
 そして、究極の質問。
 “ヒトはさらに進化するのか?”

 残念ながら、現在の学問レベルはこれに答えることができる水準にはなさそうだ。

 --- 参照 ---
(1) Meave Leakey & Alan Walker: 「アナム猿人が語る直立二足歩行の起源」日経サイエンス 1997年
  http://www.nikkei-bookdirect.com/science/page/magazine/9709/anamensis.html
(2) S.K.S. Thorpe, R.L.Holder, R.H.Crompton: “Origin of Human Bipedalism As an Adaptation for Locomotion on Flexible Branches”
  Science 316(5829) 2007年6月  http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/316/5829/1328
  [日本語] http://www.aaas.org/news/releases/2007/media/0531bipedal_jp.pdf
(3) 島泰三: 「親指はなぜ太いのか −直立二足歩行の起源に迫る−」 中公新書 2003年


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