■■■ 動物の見所 2013.12.23 ■■■

   2013年新種の話

「新種」だが、ボジョレや清酒の「新酒」の漢字誤変換ではない。あくまでも「動物の見所」の話。
この1年間、ニュースになった新種のなかで、アッと驚くようなものはどれかというだけのこと。一種の年末話である。

順当なところは、南米のアライグマ系「Olinguito」かナ。
なにせWSJ日本語版に写真入りで掲載されたのだから。
スミソニアン博物館の威力だと思うが、「アメリカ大陸で新種の肉食ほ乳類が発見されたのは35年ぶり」だからセンセーショナルといえなくもない。
しかし、新種と言っても、今迄はオリンゴとして扱われていたのを別種と認定したにすぎない。従って、素人にしてみれば、ホホーそうかネ程度の感興。南米における分岐のシナリオがより詳しく想像できるということなのだろうか。どもかく、さっぱり面白くないのである。
とは言え、オリンゴという動物に馴染みは全く無いので、その写真を見ると惹き付けられるのは確か。いかにも、悪戯好きの顔で、魅力的なのだ。

と言うことで、小生は、"パイレーツ"Ant[Cardiocondyla pirata]をあげたい。翻訳すれば海賊蟻となろうか。

海賊だから、ソリャ一体どのような生態のアリなのかと興味を呼ぶが、そういう意味では、どうということもない。その特徴は1点を除けば驚くようなものではない。
 ・フィリピンの薄暗い熱帯雨林中に棲息
 ・体は全体に半透明(一部だけ縞状黄褐色)
 ・黒い眼帯のような眼
要するに、この「眼帯」デザインが凄いというだけにすぎない。

なにせ、光が注さない場所である。もともと、視力などあっても無くても、たいした意味はなさそう。にもかかわらず眼帯とくる。なんで。
人間なら、そこに海賊がいるゼ。早く逃げねばなにをされるか分からんゾとなるが、まさか蟻喰いの昆虫がコリャ異様な姿だと恐れるとも思えないし。

アリには様々な輩がいるので、なにが現れても驚きではないが、眼帯蟻となると、どんな生態なのか興味津々である。

そうそう、アリと言えば、働きアリよりも、働きアリの労働にただ乗りする、働かないアリの生存率の方が高いとの研究結果が出たというニュースもあった。ヒト社会における「公共財ジレンマ」をアリ社会で検討した訳である。
小生は、ヒト以外の動物の生活を分析して、それをヒトに当て嵌める手の解説は、論理性を欠いていると見る。現象論でしかなく、Whyと言うか、何故そうなっているかという本質論なしで、似ている点をあげつらっているからだ。面白ネタにはなるが、それ以上ではなかろう。
ただ、この論文に限ってはそれとは一風変わったところがある。働かないアリは遺伝的に異なる系統であることを発見したというのだ。ギクッ。
業務を選ぶのは「能力」に合わせた「個性」的な選択だと思っていたが、それは遺伝的素養に左右されるということもあるという類推が働く訳である。

どうも蟻に拘ってしまうが、そうなるのは、多摩動物公園昆虫館の展示を見たせいも大きい。

なんといっても、葉切蟻社会の階級-分業制度の完成度を眼前に見せつけられると、思わず唸らざるを得ない。その職種、思った以上に細分化されているのは明らかだからだ。一見の価値というか、じっくり眺める価値がある。・・・その感覚から言えば、小生は「働かないアリ」という概念は間違っていると考えるのだが。
例えば、ハキリアリにも兵隊アリが存在する筈で、彼らは展示キャビネットの巣では年中ボーとすごすだけ。なにもすることはないのだから、本来は「働かないアリ」に該当する筈だが、そう考える人はいまい。兵隊アリの役割を知っているからである。
そこらのアリでも同じことが言えよう。地上で餌集めをしているのは、全体の1割以下なのは自明である。外は危険なのだから。それに、地中にいれば何時も穴掘りばかりしている訳もあるまい。重労働に注目してしまえば、ほとんどの蟻が働いていないことになってしまう。それでは軽作業者も含めようとなるが、様々な役割があり、それがわからないと労働しているのか否かなど判断のつきようがあるまい。
従って、勝手に「働かないアリ」と見なしてよいか、はなはだ疑問である。

そう言ってもわからない方もおられよう。それは、蜜壷蟻を見たことがないからである。(是非、常設展示して欲しい。)
この一族には、「働かない」ことが仕事の職種がある。一日中天井からブル下がっていて、ただただ餌をもらうだけ。命名でおわかりのように、その腹はビー玉のように膨れあがっている。なんと、蜜の貯蔵役なのだ。・・・呆然というか、絶句。美食家にとっては垂涎モノかも知れぬが。
社会性動物の社会では、ヒトには「働かないアリ」に見えても、なんらかの役割を果たしている可能性の方が高いということ。ヒトのように、サボっている訳ではない。
もっとも、ヒトにしても、同じことかも。観光地から外れたバリ島を徘徊すると、男達は、賭け事や道楽三昧の、「仕事せず」の生活で過ごしているように映る。ほぼ一日中ダラダラしているかのよう。だが、尋ねてみると、男でないと無理な力仕事が必要な時期があり、それに備えているのだそうな。

それにしても、アリ族社会の多様性は凄いものがある。なにせ、戦争まで仕掛けるらしいから。敵からの防衛にしても、自爆テロ要員を持つ集団も。
【用心棒】 そこらのアリンコ[テントウムシ防御]
【遊牧業】 ミツバアリ[アリノタカラカイガラムシを餌場に運搬]
【農業+醗酵食品製造業】 ハキリアリ(→ 2013.5.14)
【ベビーシッター】 クロオオアリ[クロシジミチョウ幼虫]
【奴隷狩】 サムライアリ
【乗っ取り稼業】 トゲアリ[クロオオアリ一家の女王地位簒奪]
【年中野営で隊列進撃型集団狩猟】 グンタイアリ

(source)
新種の肉食ほ乳類「Olinguito」http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887323639704579015362627333506.html#slide/1
Cardiocondyla pirata sp. n. ─ a new Philippine ant with enigmatic pigmentation pattern (Hymenoptera, Formicidae) Bernhard Seifert, Sabine Frohschammer ZooKeys 301: 13?24, doi: 10.3897 http://www.pensoft.net/J_FILES/1/articles/4913/4913-G-1-layout.html
「働かないアリは長生き 琉大・辻教授ら研究チーム発見」 2013年9月18日 琉球新報 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-212621-storytopic-1.html
(代表的"蟻本")
レイ・ノース/Ray North[斎藤慎一郎 訳]: 「アリと人間 (ワイルドライフ・ブックス) 」 晶文社 2000・・・推奨する。題名は「アリ族」にして欲しかった。
「ありとあらゆるアリの話」講談社 1998・・・技術評論社よりタイトルを変更して加筆版 2008


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