トップ頁へ>>> YOKOSO! JAPAN

観光業を考える 2005年6月1日
「観光業を考える」の目次へ>>>
 


金閣から学ぶ…

 観光業から教訓を学ぶなら、先ずは京都の名所を眺めるとよい。

 新幹線を使う人が多いから、京都につくとすぐに目に付く東寺(1)の五重塔はよく知られている。観光旅行だと、塔を見つけたとたん、到着した嬉しさが湧いて来る。
 ところが、実際に東寺を拝観した人には滅多にお目にかかったことがない。駅から歩いても15分位なのに。

 しかも、歴史あるお寺なのだ。
 応仁の乱で京都中心部の寺院建築が焼失したなかで、羅生門の横にあったこのお寺は焼失を免れたからだ。
 そのため、国宝は80品目もあるそうだ。これ程所有している寺はないのではなかろうか。空海が切り拓いた密教のコンセプト(2)を、生で、一気に拝観できるのである。

 もっと人気がでてもよさそうなものだが、京都見物の話題にも余り登場してこない。

 実に不思議である。

 それでは、どこが一番の名所かといえば、金閣寺ではないだろうか。

 筆者にしても、金閣寺は、中学校と高校の修学旅行を含め、覚えているだけで5回も拝観している。一方、東寺は行ったことがある程度。修学旅行のコースにも入っていなかった。
 こんなデータを示すと、金閣に興味があり、東寺には無関心と見なされかねまい。
 実は、逆である。

 金閣にはたいして興味が無い。
 世界文化遺産(2)に登録されており、余りに有名なので、お付き合いで拝観しているにすぎない。
 とは言うものの、美しいから、行けば楽しいのではあるが。

 これは、相国寺さんの優れた観光振興の結果だと思う。

 宗教活動を盛り上げるために、どのように観光を位置づけるべきか、徹底的に考え抜いていていなければ、こんなことはできないだろう。
 思想のイノベーションと呼んでもよいのではないかとさえ考えている。

 ちょっと大げさに感じるかもしれないが、振り返って考えてみれば、相国寺さんの独創性は際立っている。

 一寸、眺めてみよう。

 よく知られるように、金閣「寺」とは通称だ。
 もともとは、室町幕府3代将軍 足利義満の山荘だった。(3)
 それが相国寺に属すことになり、「鹿苑寺」との名前が付く。
  (義満の戒名の「鹿苑院殿・・・」から)

 金閣は寺院用建造物ではなかったのである。その建物が、どういう訳か、舎利殿だ。

 舎利殿とは釈迦の骨を祀る建物であり、遊興用の離れ建築が該当するとは思えないが、仏舎利を収めた工芸品を部屋に安置することで、宗教上意義ある建物に変えた訳だ。

 大胆な用途変更にも驚かされるが、建物のデザイン自体も異様である。
 1階は貴族の伝統を引き継ぐ寝殿造、2階は新興勢力の武家造、3階は禅宗仏殿造だ。バランスがとれていると褒める人が多いが、どう見たところで雑炊様式である。
 しかも、権力者による正真正銘の成金趣味が貫かれている。黄金の内張りなら、まだわからぬこともないが、外壁を総金箔張りにした“金ピカ”品だ。格調ある建物とは言い難い。

 普通なら、禅寺では、古色蒼然とした建物と静寂な雰囲気をウリにするものだが、金閣は全く逆である。
 木々の緑に囲まれ、青空を写しこんだ池に、金色に輝く建物が映る姿の美しさがウリなのである。
 (相国寺は京都五山に列せられた臨済宗の禅寺である。)

 建物だけでなく、庭の方も凄い。

 庭園が特別史跡及び特別名勝指定地だという点を指しているのではない。そのコンセプトの話である。
 船遊びができるような船着場があるし、島にはとんでもない名称がついている。「葦原島」だ。そして、畠山石などの奇岩名石がゴロゴロしている。
 つまり、義満は、大名に献上させた素晴らしい石を愛でながら、金色に輝く建物が映る鏡のよう池で、平安貴族流の舟遊びをしていたのである。島を眺めて日本を支配している歓びにひたったのだろう。
 余りに生臭く、世俗臭ぷんぷんの庭である。

 宴会好きで、権力欲の権化のような道楽者の趣味としか言いようがない。出家の精神などどこ吹く風である。

 相国寺は、このような風情の建物や庭を、禅の精神に融合させようとしたのである。

 常識を越えた発想ではあるまいか。

 このお寺は、こうした柔軟な発想を今も持ち続けているようだ。

 というのは、よく考えれば、「鹿苑寺」は室町時代を彷彿させる古刹とは言い難いのである。
 金閣は1950年に徒弟の放火で消失したからである。(4)
 今見ている建物は、1955年建造の復元物にすぎない。しかも、現在の伽藍配置に再整備されたのは、江戸時代初期にすぎない。庭にしても、植栽が400年も続いているとは思えまい。
 拝観したところで、国宝は一つもない。

 「鹿苑寺」は、古い建築物や一級美術品を所有していることで、名所としての地位を築いている訳ではないのだ。知恵で価値を構築しているといえよう。

 実は、金閣だけでなく、同じく相国寺系の、銀閣も極めてユニークなお寺である。
    続き → 「銀閣から学ぶ 」 (2005年6月2日)

 --- 参照 ---
(1) 正式名称は教王護国寺
  http://www.touji-ennichi.com/info/tohji_j.htm
(2) 羯磨曼荼羅 http://www.touji-ennichi.com/info/koudo_j1.htm
(3) 京都一帯に散在する17ヶ所が指定された. [1994年]
  神社は上加茂神社, 下鴨神社, 宇治上神社.
  お寺は京都盆地の中心に位置する東寺, 西本願寺から, 東山の清水寺, 銀閣に
  御室の仁和寺, 龍安寺, 金閣が加わり
  栂尾山の高山寺, 嵐山の天龍寺, 松尾の苔寺, 比叡山の延暦寺, 伏見の醍醐寺, 宇治の平等院と続く.
  さらに二条城が含まれる.
  http://www.pref.kyoto.jp/intro/trad/isan/isan.html
(4) http://www.shokoku-ji.or.jp/kinkakuji/guide/index.html
(5) 川端龍子画「金閣炎上」第22回青龍社展出品作 1950年
  (漆黒の闇の松林の山に囲まれた金閣の赤い焔というモチーフにはインパクトがある.)
  http://www.momat.go.jp/search/records.php?sakka=AKA036&sakuhin=002312


 「観光業を考える」の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2005 RandDManagement.com