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2007年8月9日
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関空第2滑走路を活用できるか…

 2007年8月2日、関西国際空港に第2滑走路がオープンした。(1)
 3,500m/4,000m滑走路を持つ、24時間空港が誕生することになる。収入に見合わない膨大な負債と便数の不足を指摘され続けてきたので、貨物の大便増で経営の建て直しをすると喧伝しているようだ。

 しかし、関空の場合、コスト上のメリットが薄いから、貨物空港としての発展は簡単ではなかろう。といって、首都圏とは違って、ビジネスクラス需要が増える状況にはないから、通常旅客便増は難しそうである。
 生き残るためには、ピーク時間帯の離発着数に大きな余裕が生まれた点を活用する以外にないのではなかろうか。
 成田には、人気時間帯の発着枠が無いので、日本への本格参入を考えてこなかった航空会社に本格的なビジネス展開を呼び込むチャンスがあるということ。
 言うまでもないが、海外のデイスカウント航空会社の話。

 欧米では、ディスカウント航空会社は珍しいものではない。グローバル経済化が進めば、こうしたビジネスが発展するのは自明だからである。
 もちろん、日本にも、国内便のディスカウントを標榜する企業はある。規制緩和ということで、マスコミ記事におけるシェアだけは高いが、産業構造を変えるインパクトを与える存在ではない。発着枠が取れないなど、仕組み上、戦略的な自由度を欠き、中途半端なコスト削減しかできないからである。
 こんな状態を放置しておきながら、日本の航空輸送業界の国際競争力向上を叫ぶのが、日本の政治の現実である。

 もともと、北米や欧州と違い、アジアではディスカウント便は少なかったから、それでも通用したのである。しかし、経済発展が続くから、アジアの航空便の状況も大きく変わることになろう。
 すでに、そんな変化を予感させる現象が南米で発生した。
 ディスカウント航空会社がシャトル便で活躍し始めたとたんに、Varigの国内線シェアが急落したのである。米ブラジル間の外交関係悪化に伴って、国際線でのシェアも落ち、どうにもならなくなってしまった。
 2007年に入り、ついにスターアライアンスから脱落。結局、3月に、ブラジル政府の意向もあり、ディスカウント航空会社GOLに買収されてしまった。(2)

 これを、南米の話と傍観していられる状況ではなかろう。

 もっとも、規制産業だから、変化は遅いが。
 ようやく、Jetstar Airways(QANTAS子会社)が関空からのオーストラリア便の本格的な就航に動いている程度でしかない。(3)しかし、もしも、旅客がディスカウントの嬉しさを実感し、ディスカウント路線に殺到したりすれば、市場は一変する可能性がない訳ではなかろう。
 そう感じるのは、Jetstar Airwaysとはディスカウント業界を切り拓いた企業ではなく、どちらかと言えば受身の企業だからである。Jetstar Airwaysの競合企業との、本格的な競争が持ち込まれれば、市場は活性化する筈である。
(昔なら、ディスカウント航空会社Virgin Blueを退出させるべく、QANTASが運賃競争を仕掛けることができたろうが、今や、そんな体力はない。別会社Jetstar Airwaysを設立して戦うしかないのである。)

 航空便といっても、鉄道と同じく公共交通の一つで特別なものではない。一般乗客にとっては、価格上昇につながるような高度なサービス競争など迷惑千万。
 一般乗客のニーズに的確に応える企業に、大きなチャンスがあるのは当たり前。

 なかでも、Ryanair(5)の欧州での成功は特筆ものだろう。おそらく至るところで分析されている筈。しかし、そんな話については、日本ではさっぱり見かけない。

 ちなみに、素人でも、ちょっと考えるだけで、コストダウン展開方法などいくらでも並べることができる。(雇用に係わることは含めていない。)
 こんなことを、現実に、どこまで進めているのかは調べていないが、Ryanairは真面目に進めているのではないか。
 ・運送効率が良い機種に統一し、安価購入を図るとともに、メインテナンスコストを抑える。
 ・発着のアイドル時間を削減し、機材利用効率を高める。
 ・販売をインターネットに限定し、営業費用を抑える。
 ・定着用のマイレージサービス/バルク販売割引/企画旅行といった方針と合わない販促費用は無くす。
 ・宣伝はインターネットの口コミに期待し、マス広告費用をカットする。
 ・チケット発行や座席指定等の無くても済むものは廃止し、運営コストを削減する。
 ・荷物重量測定を個人別とし、厳格に適用することで、荷重オーバーに対しては課金する。
 ・飛び込み客依存を避けるため、出発直前の代金は大手と同一とする。
 ・顧客を一般旅行客とし、エコノミークラスだけに絞り面倒な業務を無くす。
 ・他社との接続サービスや便変更は止め、これに係わる間接費用をカットする。
 ・すべて売り切りとし、払い戻しや変更を行わないことで、キャッシュコントロールを高める。
 ・乗客への業務内容を吟味し、付帯サービスコストを抑える。
   (食事/AV/新聞雑誌/アメニティ等の無料提供廃止)
 ・安い使用料ですむ飛行場を使う。(遊んでいそうな周辺飛行場の利用)
 ・燃料価格ヘッジのカバー率を高める。
 ・超ディスカウント切符の宣伝効果による徹底した集客策で、乗客率向上を図る。
 ・見込み薄と判明した路線は即時撤廃し、設定した収益率(ハードルレート)を確保する。
 ・低コスト運営に反しない収益機会は徹底的に活用する。
   - 優先搭乗代金
   - 機内食・飲料販売
   - 機内物品販売
   - 機内誌の広告収入
   - 機内誌の通信販売

 ともかく徹底的なコストダウンを図れば、相当なことができるのは間違いない。
 ただ、こんな方策が奏功するのは、国境を越えた効率的な動きができるから。
 残念ながら、日本も含めたアジア地区ではこれができない。オープン化を避け続け、個別の二国間航空協定しかないからである。
 この体制が続く限り、航空会社のネットワークが小さすぎ、グローバル競争できる状況にはない。(6)
 日本の場合は、それ以前の状態の企業もある。
 そんな航空会社に海外から観光客を運んでもらって観光業振興につながるものだろうか。

 --- 参照 ---
(1) http://www.kiac.co.jp/2nd/target/index.html
(2) “Brazil's Gol to buy rival Varig” BBC [2007.3.28] http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/6505207.stm
(3) http://www.jetstar.com/jp/index.html
(4) http://www.virginblue.com.au/
(5) http://www.ryanair.com/site/EN/
(6) 高橋広治: 「東アジア航空市場とローコストキヤリアの将来像」 PRI Review 22号 [2006年]
  http://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/pri_review_22.pdf
(飛行機のイラスト) (C) Free-Icon http://free-icon.org/index.html


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