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2008年5月19日
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熱海が変わる…

 2008年5月の連休は熱海で温泉につかってすごしたが、この地が大きく変わりつつある印象を受けた。
 などと言うと、イベントとして、阿波踊り大会と花火大会が開催され“復活 熱海元気ですよ”の旗がなびいているということを指していると間違われそうだ。

 確かに、これはこれで、元気そのもの。NPO法人化して、幅広く「経済活性化事業」を推進するらしい。観光協会のしがらみから外れて動こうということだろうか。(1)
(阿波踊りと花火だけでなく、盆踊り、コンサート、プロレス、クリスマスイルミネーション、餅つきまで。しかも、「半玉制度の復活と育成 熱海芸妓の紹介」も。)
 当然ながら、これ以外にも神社の例大祭等がある。来宮神社の夏祭、「こがし祭り山車コンクール」は驚くほどの盛り上がりだ。湯前神社の秋祭には芸者さんが集まるし、今宮神社は神輿が盛ん。ただ、地域外の人を呼ぼうとの意識は薄そうである。
 このほかにも行事は色々あって、イベントだらけの街である。

 問題は、それで地域経済が活性化するものか、という点だろう。
 踊りの大会にしても、昔は「街道祭り」(2)が開催されていたのである。お金がかかる上、伊豆の幹線道路が止まるので止めたのかも知れぬが、模様替えしただけともいえる。
 それに合わせ、花火をぶつけて集客を図ったということなのだろう。すり鉢状の地形なので、、音の迫力は流石である。しかも、風の町だから、煙で花火が隠れることもないようだし。それに、港の波避け堤防が打ち上げ場なので、見せ場が作れることも大きそうだ。
 今までは、日曜の夜の、宿泊客確保策と思っていたのだが、考え方をかえ、思い切った投資に踏み切ったようである。

 外野席から眺めていると、もう少し熱海らしさを追求したらよさそうに思うが、新機軸はそうそう簡単には見つからないということだろう。
 まあ、芸者さんが観光宣伝したり、坂道の歩道の手入れとか、ヨットハーバーを清潔に保つといった小まめな努力を積み重ねて、印象を良くしていくしかないのだろう。

 そうした結果なのか、わからないが、お客さんはかなり戻ってきているようだし、起業も見かける。国道沿いには、アウトレット商業ビルが建築中だし、高級旅館の開業も。
 もともと、小さい街の割に、お菓子屋さんは多いし、何軒ものイタリアンレストランも成り立っているのだから、近場の気晴らし温泉場として、首都圏から集客できる力はある筈だ。それを活用しなかった、保守的な事業家が多かったということだろう。

 しかし、これは観光業の視点から見た熱海。
 熱海には、もう一つの顔がある。マンションと別荘の町でもある。歓楽街の意向とは相反する考え方を持つ人達が大勢いるのだ。
 どうも、この層が大きく変わりつつあるようだ。東海道線より海側に、100戸レベルのマンションが次々と登場し始めるからである。山側は人気薄で移ってくる人もいるそうだ。
 つまり、今までとは状況が変わってきたということ。

 つい、余計な話を色々としてしまったが、そろそろ、この連休に実感させられた「大変化」の話を始めよう。
 と言っても、たいした話ではない。駅前アーケード商店街の地場食品スーパーが閉店しただけのこと。寿司店になるという。
 もともとは、肉卸だったと聞くが、この店の一番の特徴は地元の野菜を店頭に並べて販売していた点。それこそヤオハン創業時代を彷彿させるような商売の仕方だった。
 この手の商売が熱海では難しくなったということ。

 地場有機野菜を扱っている八百屋もあることはあるのだが、閑散としており、地場品販売は風前の灯火に近い。(まあ、この店に限らず、市中央の商店会はテナント募集中が乱立状態ではあるが。)
 地場品が欲しければ、ダイエー系の総合スーパーの棚ということになる。しかし、様相はかなり違うのである。珍しい野菜や、半端モノは無い。全く面白みに欠ける。
 それに、この棚から収益があがっているのかも疑問である。
 そう思うのは、地場品などのんびり売っていられない位、競争が激しいからだ。
 歩いて1分内の距離に、イオン系総合スーパーがある上、向かいには、水産品卸が経営する小規模食品スーパーが野菜を扱っている。おまけに、その隙を狙って、数坪の“区内町御用達”を任ずる八百屋が開店した。
 だが、競争といっても、商品自体は大同小異。
 固定費がかかる地域だから、毛色が変わった商品の商売は難しいということだろう。

 この現象は野菜に限ったものではない。
 2007年に魚卸商の小売スーパーが閉店したのである。スーパーといっても、地場魚介類はパットに入れ並べただけ、野菜や果物は箱のまま山積み、という陳列方法で販売していたのだ。
 珍しい魚介類や半端モノも多く、覗くだけでも楽しい店だった。
 手数がかかる割りに儲からない小売りを止め、もともとの卸に徹する訳である。
 小売と飲食店経営に力を入れている別な魚卸商も、店舗販売の商品構成を大きく変え始めた。「魚」小売りからの転換を図っているのである。こちらは、下流商売がお得意なので、刺身とテイクアウト寿司に注力しているのだ。この連休は、お店で酒とオリーブオイルの量り売りを始めたから驚いた。
 おかげで、朝採り魚は、総合スーパーの地場魚コーナーでしか入手できなくなってきた。

 長々と書いてきたが、スーパー陳列に不向きな地場品は安直に入手できなくなったということ。
 これからは、小さな苺・蜜柑、揃っていない葉野菜、山で獲れたものには出会えそうにない。目の色が全く違う小魚、見慣れない魚介類も店頭から消えていくに違いない。
 扱っている料理屋を探して食べるしかなくなるということだろうか。

 そんなことをつい考えてしまったのは、熱海の住人から、天城の猪と鹿のバーベキューをご馳走になったから。もちろんお店で手に入るようなものではない。
 地場品や、地域の独自性こそが観光資源と喧伝されて久しいが、実態は全く逆なのである。

 --- 参照 ---
(1) 復活 熱海元気ですよ(NPO法人申請中) ATAMIX イベント http://www.atamigenki.com/gaiyou.html
(2) あたみ街道まつり・熱海市  Hello Navi 静岡県
   [2003年] http://kankou.pref.shizuoka.jp/press/detail.asp?id=281
   [2004年最終回] http://kankou.pref.shizuoka.jp/press/detail.asp?id=483
(熱海の全景) (C) ソルマーレ http://www.solmare.com/cbox_jp/index.htm


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