「米国には博士号を持ってる清掃作業員が5000人いる」という、なんとも陰鬱になる記事タイトルがGoogleニュースリンクに掲載されていた。
GIZMODEの邦訳だが、モトネタはChronicle of Higher Education。これがなかなか参考になる。本文ではなく、投稿コメントの方。興味ある方はご覧あれ。
≫ Richard Vedder: “Why Did 17 Million Students Go to College?” [October 20, 2010]
就いている職業の一覧表を眺めたが、小生は日本よりまともな選択との印象をもった。食べるためではあるが、なんとなく自分なりのライフスタイルを追求していそうな感じがしたからである。
日本経済が輝いていた1980年代、米国ではNASAを解雇された博士のタクシードライバーはいくらでもいたようだが、集団でワイガヤするような職場は耐え難いし、自分のスキルを生かせない職などまっぴら御免ということもあるからそうなると聞いたことがある。その気持ち、なんとなくわかる気がする。
清掃作業員というと驚くが、運動になるし、難しいことを忘れて体を動かすのも悪くないと考える人もいそうである。
日本の場合は、職業選択は相当違ってくるのではなかろうか。清掃作業員など、プライドが許すまい。
“博士号取得を目指す理工系大学院生26歳♂”の方が、企業でインターンとして勤務し始めた経験談を書いておられたが、まあ、いかにもこれぞ日本という感じがする・・・。
・上司には(出勤が)「多少遅れても怒らないよ」と言って頂いてます。
・発言権を穫るには自分から喋らなくてはなりません。
・何を聞いても突き放さずに教えてくれる人たちばかりです。
------お客様扱いされているのでなければよいが。
・きわめて順調に会社に馴染んでいっています。
・やるべきことに集中出来る環境にあると言えます。
------両者に誤解がなければよいが。何故、そう思うかって・・・。
・そこまでのことはこの業務には要らないよと突っ込まれます。
------“やるべきこと”を勘違いしていなければよいが。
小生は、これをみていて心配になってきた。専門性が合致しているのならよいが、そうでなければどうなるか、悪い方向に想像が膨らむのである。
そう考えてしまうのは、この制度を真剣に利用している企業は全体のほんの一部と見ているからだ。就職したいなら、そういう企業を選ばないと駄目では。
ちなみに、以下のように4種類で考えるとよいかも。
・本気でインターン制度を定着すべく頑張っている企業
・本当のところは興味は薄いが、真面目におつきあいする企業
・採用する気は無いが、一応はお預かりはする企業
・現場がアルバイトとして使っている企業
平均的には、多分、大学側がそこまで言うのだから、仕組みに参加しておこう程度の姿勢なのでは。企業の担当者は、費用対効果を社内で“客観的証拠”をあげて説明することになるが、補助金が無い状態で費用に見合った価値が十分あると自信を持っていえる人は滅多にいまい。アンケートでもとれば、「新卒と違って無駄な仕事ばかりしているし、使いづらい」と言われかねないのだから。
この人は頭が切れると周囲に感じさせない限り、インターン期間が終われば“ご苦労様でした。”になりかねないということ。しかし、それはよかったと言うべきかも。採用されても、周囲の人との競争にならず居辛くなる可能性大だからである。
両者の間にはこの辺りで感覚のギャップがありそうだ。
博士のインターン制度は、大卒・修士コース修了予定の人を呼ぶ、青田刈り臭さ紛々のサマーインターン制度とは訳が違う。単に一緒に職場で過ごして仲良くなったというだけで、博士コースの人を終身雇用を前提として採用に踏み切る企業は滅多にないと思う。
なにせ、職場には、自分の業務の意味を考え、できる限り効率的に働いて、企業への貢献度をアピールすべく真剣勝負の日々を過ごしている人だらけ。採用するということは、その輪のなかに入って同じように働いてもらうことを意味する。インターン期間中にそれができる人であると認めてもらえるかが勝負だと思うが。普通は、お客様扱いなら、勝負の土俵にも上がっていないことを意味する。
おそらく、そんなことを言われれば当人はビックリ仰天ではないか。
送り出す大学の担当者は、たいていは真面目そのものだから、どうしてもこうなる。先の企業リストからいえば、本気に制度を進めようというタイプで話をするからだ。しかし、そんな企業は一部でしかないのでは。たまたま当たる人もいるが、実に幸運な方である。大学の担当者の説明を聞いて、そんな全体像がわかることはなかろう。
小生はこういう誤解を生み出しかねない制度はデメリットが多すぎると思う。真剣に取り組みたい企業だけが勝手に行うようにしないと、問題は深刻化するのではないか。
だいたい、留学生でもないのに、企業人がどういう生活を送っているのか知ろうともしないできた人に企業が手取り足取り教えてあげて、採用するものか考えればわかる筈。社会の一般常識とは、就職先を自分で探し、行きたいと思うところになんとかして潜りこむべく頑張るもの。それが大人のすることである。そんな気概が微塵も感じられない人に企業が期待を寄せるとは思えまい。
そもそも、企業で、事業を大きく発展させてきた人なら、必要な人材は自分で探し出し、惚れ込めば万難を排して引っぱってくるもの。それこそ、大学の助手だろうが、引き抜く方法を考えるのが当たり前。インターンにしても、役に立ちそうな人材かも知れないとピンときたら、お目付け役に非公式に接触評価させるに違いないのである。言うまでもないが、欲しければ即座に青田刈り。企業社会とはそういうもの。
まあ、外部から見ればこうなる。
だが、大学関係者から見ても、ポスドク就職難解決のために“現在取り組んでいる政策的なものは、余りうまくいっていない”と映っているようだ。もちろん、その一番の理由もわかっている。早い話、ポスドクだろうが、企業が欲しい分野の人材はそんな制度の有無にかかわらず就職できるということ。
≫ 「ポスドク問題解決できるのか?」 大学化学系教員の方のblog [2010-07-09]
それなら、それを踏まえて動けばよいのだが、しがらみだらけだし、一律主義を貫こうとするから、そうそう簡単にことは運ばないのである。