■■■■■ 2010.12.7 ■■■■■

 “世界一でなければ駄目なのですか?”考

 中国開発のスパコンが世界最高速となったという報道が駆け巡ったが、あっという間に静かになった。
 まあ、この手の競争がコンピュータ技術進歩という点で、どれだけ意味があるのか疑問に思う人も少なくないから当然では。
 しかし、日本のスパコンプロジェクトはどんな状態になっているのか、気になる人も少なくないようで、ここでも中国に先を越されるのかと気が気でない人達は、大騒ぎを続けたいようだ。

 そうそう、この日本の国策プロジェクトだが、事業評価議論で一躍脚光を浴びた。超有名になったため、今もって話題になったりする。と言っても、真剣に進めている人達にはまことに申し訳ないが、お笑いネタが多い。
 と言うと、間違う人がいるかも。軍配は素人の方にあがるのだ。そんなことを言うと、頭に血が上ったりする先生続出かな。

 これだけで、日本には、いかに視野が狭い人か多いかよくわかる。質問の意味さえ理解できないので、カンカンになる訳だ。その怒りまくる姿が余に大人気ないということか、科学者は“世界一”を目指すものと、いまさら素人に懇切丁寧に説明し始める人も登場。勘違い派も結構多いのである。
 そもそも、“世界一”を目指さない科学者がいるものかね。素人の発言の“世界一でなければ駄目なのですか?”という話は、それとは全く関係ないぜ。これでは議論もなにもあったものではなかろう。
 ビジネスマンも、余計なことを言えば損するから黙っているのだろうが、これにもこまったもの。

 例えば、再び、ベクトル型で世界最高速を狙っていたらどうなるか考えればわかるのでは。誰でもが、“世界一でなければ駄目なのですか?”と聞くのでは。要するに、ベクトル型の巨大システムで、スカラー型と“世界最高処理速度”で競争する意義がはたしてあるのかとの質問。

 投資額は膨大で、消費電力は凄まじく、施設といえば超巨大なお城のようなものになる。多分、冷却技術では世界最高レベルを達成することができるだろうが、そんなものを追求するために世界一を目指す訳ではあるまい。

 話は跳ぶが、そういう意味では、“地球シュミレーター”という名前は秀逸。まさに、そんな用途にこそ合うシステムだからだ。従って、常識的には、ベクトル型の場合、そうした特殊な利用法開発にこそ意義がある。単純な“世界最高処理速度”実現に注力するなどヒト・カネの無駄遣い。従って、ベクトル型に対してなら、“世界一でなければ駄目なのですか?”という質問は当を得たもの。

 ともあれ、“地球シュミレーター”を運用すれば、その膨大な電力料金の重さを実感させられたに違いない。次世代作りを放棄するだろうとは、誰もが思っていたこと。
 ところが、放棄と思いきや、ベクトル・スカラー融合型で世界最高処理速度を狙うとの方針が打ち出された。これには仰天。(0,0)→(0,100)という力と、(0,0)→(100,0)という直角方向の力を合わせれば、(0,0)→(100,100)になるとの、空想話にしか思えないからだ。
 特徴が正反対な、水と油のようなシステムを合体して、一体何を実現したいのかさっぱりわからぬということでもある。
 こんな仕組みで、“世界一”を狙う意義を滔々と述べるつもりだったのだろうが、見てみたかった気がしないでもない。

 ただ、この融合型の研究者は少数精鋭で残しておいて欲しいもの。異端の科学は必要である。もちろん目立たない領域で、“世界一”を狙ってもらう訳だ。言うまでもないが、巨大施設で“世界一”の高速処理を狙わずとも、いくらでも“世界一”の道はある筈。

 さて、それでは、“世界一”の高速処理を狙う現行プロジェクトにどれだけの意義があるのか考えてみようか。
 コンセプトはこんなところか。・・・「10ペタ(「京」)フロップス級のスーパーコンピュータ」を世界で一番早く実用化させる。
 そうなれば、まあ素人でも想像がつきそうな範疇のものになる。
   ・汎用スカラプロセッサによる超並列システム=標準的なプログラミング環境
   ・汎用CPU=SPARC64系
     「世界最速級」 (C) 理化学研究所

 最高処理速度実現といえば聞こえがよいが、単純な巨大化競争ある。そこで世界一になることに、素人なら、疑問を感じて当然ではないか。ドンドコ巨大化がコンピュータ全体の進歩に大きく貢献するというのは、自明ではないと思うが。少なくとも、どこに革新性があるのか全く見えない。・・・“世界一でなければ駄目なのですか?”とは、それを指摘していると思うが。

 例えば、「CPUのワット当たりでの最高性能+高効率水冷方式」での技術進歩を、巨大化システム建造で進めるのが妥当といえるだろうか。例えば、水冷システムで考えれば、コンパクト化されたスパコン用に、超巨大システムの設計技術が使えるとは思えない。技術的には、コンパクト化向けの技術の方が余程重要に思うがどうかね。

 そして、何より重要な点がある。“高信頼性システムの実現”だ。
 ここでの技術展開が妥当なものといえるのか、十分吟味する必要があろう。
 などと言うのでは、曖昧か。世界一を目指すと、どうしてもハード的に高信頼性を実現する技術を入れたくなる。おそらく、この面での技術進歩は相当なものになろう。だが、それを進歩と呼ぶべきものかはなんとも言い難いものがある。

 小生は、“故障したCPUをシステムから切り離してシステム全体のダウンを回避する機能”の高度化で、先端をいかない限りコンピュータ産業で生き残れないと見ている。しかし、「京」プロジェクトがその流れに乗るとは限らないということ。と言うのは、世界一の最高処理速度を実現するために、ハードでの品質向上を図る設計を持ち込むからだ。“世界一でなければ駄目なのですか?”という思いは避けられない。・・・どうしても、世界に冠たるISDN交換機の開発がダブってくるからだ。
 そういえば、おわかりだろう。

 商用の超巨大サーバーを考えたらどうかね。そこで使う機器は超安価品。当然ながら、単品で見れば、故障率は世界最高。だがそれでよいのである。言うまでもないが、このシステムも“世界一”を狙っているのだ。
 もちろん、設備投資額で見た処理のコストパフォーマンスでは完璧なナンバー1。そして、もっと重要なことは、世界一のダウン率を実現しつつあるということ。超安価品を使えるような技術開発が進んでいるのだ。

 この流れを見れば、素人の質問は実に鋭いと言わざるを得まい。・・・単純な超巨大化競争をしているだけにしか見えませんが、そこで“世界一でなければ駄目なのですか?”
 質問をしている素人の方に科学者魂がありそうに感じてしまうから不思議。と言っても、その感覚を理解できない人ばかり。

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