■■■■■ 2010.12.8 ■■■■■

 WikiLeaks突如登場の意味を想像してみた

 WikiLeaksで米国の外交公電情報が知れ渡り、世界中で大騒ぎ。と言っても、まあそんなところだろうと見なされていたことが、生の言葉で裏づけられただけ。驚くような話があるということでもない。ほとんどが、あ〜、やっぱり思った通りだったねといったところ。秘密が曝露されたからといって、たいした実害があるとは思えない。
 とは言え、各国政治家には公言できない建前上の主張があったり、面子の類があるから、わかっていてもリークされるとこまることは少なくない。米国外交としては大問題なのは確かだ。まあ、国務長官が謝って回る以外に手はない訳だ。あとは時間で解決するしかないが、当面は、裏表なき外交を進めることになるのだろうか。
 もっとも、実害ゼロとも言い難い情報も含まれている。テロの標的にされかねない弱点についての話が公開されたというから、これだけは、米国にとって大打撃なのかも。

 それはともかく、情報量の凄まじさにはただただ驚くばかり。原文を眺めたことはないから、どこまで本当かは知らぬが、報道されている数字が正しいなら、とても素人が眺めて見るレベルではない。
 そんなこともあり、もっぱらメディアの分析に頼るしかない訳だが、これがピンキリ。伝言ゲームさながらの“ニュース”さえあるほど。
 そのなかで、熱心に内容を整理分析して報道しているのは、英国Guardian。
 一方、ゴタゴタ揉めているのは、NewYorkTimesらしい。事前情報を得て、米国政府と協議したということらしいが、事の真相はよくわからぬ。

 ただ、面白いことに、情報ソースは一人の米軍兵士とされている。どこまで本当の話かは、なんとも。
     D.Leigh: “How 250,000 US embassy cables were leaked” Guardian [2010.11.28]

 一般に、この手の話にはご用心である。情報範囲が広すぎるし、裏の取りようがないものも少なくないからだ。ガセ情報を流されたりすると、どれが真実かさっぱりわからず手の打ちようがあるまい。
 それに、これだけ大量の情報を一挙に検討できる組織と言えば、常識的には情報機関だ。どんな組織か知らぬが、その財源ともども、どうなっているか気になるところだ。なにせ、当初の目論みは“長期投獄や死刑となるような国に対抗する”筈と聞くが、よりもよって米国のつまらぬ秘密を暴くというのだから、一体、その目的はなんなのか。
 と言っても、素人に、実情がわかるわけがない。ただ、もし情報機関が関係しているとしたら、英・仏・露しかなさそうだ。そう考えて見ると、これはひょっとすると欧州が米国に仕掛けた情報戦争かも知れぬと想像したり・・・。

 実は、そんな風に見たくなってしまうのは、ついに11月末のリスボン首脳会議で、NATOが大変貌をとげたからである。
 反露の東欧が、EU全体としてのロシアとの協調路線是認に踏み切ったのだ。これは、伝統的なソ連(ロシア)の軍事的脅威からの欧州防衛というNATOのレゾンデートルが霧消することを意味する。
 逆に言えば、米国を盟主とする強固な軍事同盟は10年をかけて解消していくとの合意が形成されたことになる。欧州と米国の蜜月状態が終わり、考え方の違いが表面化してくる可能性が高い。
   ・米国のイラン侵攻方針は誤り(英国新政権による批判)
   ・アフガン戦争は大失敗(軍事同盟誇示は負の効果)
   ・欧州に軍事費削減停止圧力をかける米国政府への不快感(米国は勝手に軍事費削減)
   ・米国との同盟は原理主義者によるテロ標的化回避不能
   ・イスラムとの共存には無原則なイスラエル支持の是正が不可欠
 つまり、ロシアとの軍事的対立を消滅させ、大欧州経済圏樹立に動くということ。

 ただ、それは簡単ではない。当座、ユーロの防衛という大問題を抱えているからだ。
 不良債権問題を先送りしながら、経済成長を続けることで対処していくということしかできないが、これはそう簡単なことではなさそうである。ともかく、経済規模が巨大なスペインが破綻しないように注力すると共に、アイルランドの銀行破綻が欧州全域に波及しないよう、全力投球するしかない。
 ユーロ圏外ではあるが、英国についても破綻のリスクは低いとは言い難いから、欧州全域でなんとか支えていくしかない。まあ、それだけでなく、PIIGS、STUPIDと問題山積なのである。
 そのため、欧州各国は財政再建を進めると共に、不良債権処理の費用分担を工夫する道を探るしかない。従って、経済成長を確固たるものにすべく、ロシア市場や中国の資金や市場も当てにしたいところ。

 ところが、この経済運営方針は、米国と相反することになりかねない。G20で早速、その違いが露呈したように、米国の“QE2”など、欧州にとっては是認しがたいものに違いあるまい。
 しかも、それだけではない。欧州から見れば、米国政府は、ユーロ債権危機を煽って一儲けを狙う投機筋の動きを黙認しているように映るから、不快なことこの上なし。米国との対立が激しくなるのは致し方あるまい。
 それこそ、オバマ政権は、ユーロを分解させ、基軸通貨ドルの地位を守ろうとしているとみなすかも。
 そうなれば、まさしく、米との金融戦争。

 実際、2010年12月、Bloomberg Hedge Fundsで“The world is in the early stages of a currency war”と語る人がでた。
 温家宝首相を青ざめさせるような、通貨戦争が始まったというのである。
     C.Saraiva+K.Hays: “China Is `Scared' of U.S. Monetary Policy, Rogoff, Rickards Say”
          Bloomberg [2010.12.3]
 時あたかも、Nowotny ECB政策委員会メンバー(オーストリア中銀総裁:大手銀行CEO出身)も次のような発言をしたそうだ。
  “a split of the euro area would be bad for all sides in Europe
    ・・・The only winner would be the dollar, and Europe would lose,”
     Z.Schneeweiss: “Nowotny Says Euro Split Only Good for Dollar, Bad For Europe”
          Bloomberg [2010.12.5]

 オバマ大統領は理想論的演説は得意だが、現実主義者であり、政治思想を感じる人は少ない。このことは、政治で名を残そうという観点だけの野心家と見なされる可能性が高い。一端、齟齬が生まれると、リーダーシップを発揮して対立解消に導くのは難しそうな気がする。
 このままいけば、米国はよってたかって没落させられる運命かも。

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