■■■■■ 2010.12.9 超日本語大研究 ■■■■■

 日本語初級会話は至極簡単

 日本語は、基本文字種だけで、漢字、カタカナ、ひらがなの3種ある。その上、ローマ字や英単語が混じるし、アラビア数字、記号や絵文字まで極く普通に通用するというトンデモ複雑言語。しかも、滅多矢鱈に文字種が多いだけでなく、漢字の読み方が複数。文章を見てどう読むべきかは文脈からしか判断できないことも多い。読み書き言語の複雑性では間違いなく世界一。
 しかし、こと会話になると全く別になるから面白い。

 調べた訳ではないから思い込みの可能性もないではないが、全く異質の単語からなる言語を習得する場合、これほど易しい言語も滅多になかろう。日本語学習は難しいものと思い込んでいらっしゃる方は、そんなことを言うと驚かれるかもしれぬが。
 まあ、そう考えるのも無理はない。挨拶からして、“お早う”と“今日は”と系統が異なるものが同居しているように、読み書きの複雑性が、言い回しにもでてくる訳だから。

 しかし、現実を冷静に眺めれば、それが思い込みに過ぎないことがわかる筈。

 小生の場合、それに気付いたのは、中華レストランでのこと。
 特段の勉強をした訳でもないという、来日僅かのウエイトレスをしている学生さんと、簡単な日本語会話ができたからである。日本語の場合、幾つかの用語を覚えさえすれば、覚えた単語をつなげるだけで会話はどうにかなりたってしまうのである。・・・これは凄い。古代から、この調子でのコミュニケーションが成り立っていたのではと、思わず考えさせられてしまった。

 と言うことで、気になったので、日本語会話のテキストを数冊立ち読みしてみた。ところが、そんな超初級会話が可能な教え方にはなっていないのである。他言語のテキスト構成と五十歩百歩というところ。世界の人の目から見て日本が魅力的に映るなら、日本語が世界標準になってもおかしくない位の感覚をおぼえたので、“簡単に使える日本語”的な内容に期待したが、当て外れだった。しっかりと、正しい日本語を学ぶにはそうならざるを得ないから当然かも知れぬが、残念至極。

 このウエイトレスも、おそらく“正調法”の語学教科書で学んでいると思うが、どう見ても、会話力がついたのは実地訓練から。そんなことは、語学取得では当たり前だが、日本語会話の場合はそれとは意味が違うのである。
 どう学ぶのか考えてみると、多分、こんなところではないか。

 【第1ステップ】
 先ずは、“どうぞ”の一言を使えるようになること。
 お客を迎えたら、この言葉で相手の機先を制すことが肝心。場を設定し、会話仲間であることを知らしめる効果がある。もしかすると、もともと日本語会話でもこうした一言は最重要かも。・・・ネイティブは代替単語を色々ともっているから、状況に合わせて選ぶことになる。もしも、この一言を逃してしまうと、日本人同士でも円滑なコミュニケーションになかなか入れないということになるのでは。
 表現力抜群の相手が、考えたり、行動を起こさない前に、一言発し、相手に自分の発言をじっくり聞かせる雰囲気を作るスキルと言ってもよいだろう。
 最初の一言が上手くいえたら、続けることで駄目押し。
 なんとなく場に入れてもらった感がでたら、相手がのんびりしている頃合を見計らって、お茶でも“どうぞ”といく。もちろん、“どうぞ おちゃです”としてもよい。
 ここらができるようになれば、ネイティブのマニュアル黒服組より接客レベルは上と言えないこともない。

 続いて、【第2ステップ】。
 ここでは2つの言葉を使えるようにするだけ。
 “おねがいします”と“すみません”だ。
 前者は、希望しているのか、要求しているのか意味は定かではないが、ともかく発言しておくとなんとなく会話らしくなる。潤滑油のようなものかも。
 ただ、“おねがいします”だけしか使わないのは駄目で、必ず、対のように“すみません”も乱発しておく必要がある。こちらの用語は、本来は、謝る場合に使うべきだが、そのような使用は稀。貴方を煩わすのは申し訳ないという程度の意味で使うのが普通。実に曖昧な表現だが、だからこそ重要な言葉なのである。
 会話の場作りの上で、絶大な効果を発揮することになるのだ。そうそう、この効果を高めるため、少々長いが“ありがとうございます”を、たまに使うとよい。

 こうして、場の雰囲気作りのコツさえ身につければ、日本語会話は楽。聞き手が話し手の表情や素振りから、言いたいことを察そうと努力してくれるからだ。もちろん誤解される可能性もあるが、それなりに意思の疎通は可能になる。(主語無しの文章では会話が成り立たない世界で暮らしている人達には、この辺りがわからない可能性が高い。)

 ついでだから、【第2ステップのオマケ】。
 それは、曲者用語“どうも。”
 これが使えるようになれば、日本語会話の達人への道はひらけたと言ってよいのでは。なにせ、ネイティブですら、“どうもすみません”の省略語なのか、“どうもありがとう”なのか、“どうも”わからんといったところ。従って、“どうも”うまくいえない時に使うという手が使えるのだ。
 ・・・これこそ日本語会話の極意。“どうも”の一言を耳にした瞬間、相手はどういう意味か考える必要に迫られ、頭が自動的に反応するのだ。話す相手が何を感じており、何をしたいのか、探り始める訳だ。場合によっては、次の言葉が発せられる前に、それを予想して発言してくれたりする。

 ただ、こうして会話の場が作れても、肝心の、伝えたい中味を表現する技量がなければ、会話は成り立たない。ところがそのための便利な言葉がある。
 これが、【第3ステップ】。
 ネイティブは余り使わないが、テキストに掲載される基本文型に含まれる単語を多用すればよいのだ。“です”と“ですか?”である。
 もっとも、前者はどうでもよい。重要なのは、疑問型の方。
 例えば、こうなる。

 “紹興酒、Hot、ですか?”

 これで会話が立派に成り立つのだ。“medium or rare”と同じような乱暴な表現に思ってしまいがちだが、日本語の場合は、これで会話の基本文体で、省略している訳ではない。ここが重要。
 後は、接尾語“の”を学んでおくだけ。この文章なら、“Hot-の、紹興酒、ですか?”となる。ただ、“の”を付けると、“古い-の、紹興酒、ですか?”のように、日本語としておかしな表現になる場合も少なくないが、それでも確実に意味は通じる。超初心者なら、そんなことを気にすべきでない。

 おわかりだと思うが、この先は、名詞、動詞、形容詞の区別を考えず、ただただ単語を丸暗記するとよい。必要そうな単語をせっせと頭にぶち込むのだ。この作業だけで、会話はなんとかなる。主語や述語といった文体など気にしないことだ。もちろん、冒頭に書いたように、日本語の単語である必要もないのである。話す相手が知っていそうなら、英語だろうがフランス語だろうがなんでもござれ。

 長い文章でも、この調子で単語を繋げると、なんとかなるのが日本語。相手が疑問を感じれば、確認してくれるから会話が成り立つのである。もし、相手の言葉が理解できなかったら、すかさず、“すみません”といえばよい。従って、“わかりません”は覚えておく必要がある。
 これは実に便利な言語世界だ。コミュニケーションバリアはえらく低い。一端会話が成立してしまえば、そのスキルの磨き込みは時間との勝負でしかないからだ。

 ご想像がつくと思うが、【第4ステップ】はテニヲハ。
 だが、それを学ばなくても、場の雰囲気さえ作ることができれば会話は成り立つ。

 驚くべき融通性がある言語と言えよう。

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