■■■■■ 2010.12.14 ■■■■■

 ついに、Point of No Returnか

 NY Timesによれば、オバマ政権はイスラエル-パレスチナ和平交渉仲介方針を大転換した模様。(E.BRONNER:“Why the U.S. Ended Push for Israeli Building Freeze”[2010.12.8])入植凍結を求めても埒があかないということであっけなく仲介断念。
 この影響を少し考えてみようか。

 先ず、【イスラエル連立政権】。政権に参加している少数宗教勢力が、力を失ったオバマ政権の指示に従うことは期待できまい。無理に首相が采配をふるったりすれば政権瓦解間違いなし。
 もちろん、パレスチナ自治政府にとっては、入植凍結が直接交渉再開の前提条件。ここで妥協姿勢を見せれば、権力を失いかねないから、一歩も引けまい。
 これでは、米国も手の打ちようがあるまい。
 それに、たとえ入植問題を棚上げすることができたとしても、国境、水資源、難民、エルサレムの扱いと、どれ一つとっても妥協点模索が難いものばかりで、進展が期待できるという訳でもない。新たな和平交渉策もない訳で、あとはなるようにしかならない。

 こうなると、先ず最初に動揺するのは、【パレスチナ自治政府】か。
 穏健な和平交渉代表役を努めることで、援助資金を集めてきたからこそできた政権維持。交渉が頓挫すれば基盤が崩れてしまう。交渉再開見込み薄となれば、何のための政府かということになり、弱体化は避けられまい。
 自治政府としてはアラブ連盟やEUにすがるしかなろうが、この状態では両者とも何もできまい。アラブ諸国首脳に至っては、WikiLeaksにイスラエルとの関係を曝露されかねないから、しばしは様子見となろう。(他の国々が自治政府承認で、和平直接交渉の後押しをしても、当の自治政府の権力基盤が揺らいでしまえば何の価値もない。)
 遠からず、西岸地区からイスラエルからのゲリラ攻撃が再開され、これに呼応してイスラエル国内でのテロが発生するということでもある。どうにも抑えがきかなくなる可能性大である。こうなれば、イスラエル政権は強硬派に支配され、軍事救国内閣樹立に進むしかなかろう。核保有国であり、原理主義者が力を持ったりしかねず危険極まりない話だ。

 当事者のイスラエルとパレスチン自治政府の不安定さは厄介な問題だが、周囲に目を広げれば、それに留まらないことがわかる。
 イスラエルのお隣の【レバノン】が矢鱈きな臭いのだ。
 前首相暗殺犯人同定発表間近ということで、政治状況が不安定化ているのである。11月28日には、ヒズボラの政治指導者が、内部で“Israel could wage new war on Lebanon”と演説。(Frande24-AFP)これは、イスラエル攻撃の準備は整ったとの話と受け取られている。
 一方、イスラエル首相は、ヒズボラによるクーデターが発生すると発言しているそうで、それを阻止すべくレバノン介入というシナリオができているということかも。
 なにせ、レバノン政府関係者が“Lebanon is in crisis because of the expected indictment of the Special Tribunal for Lebanon.”ともらす位なのだ。内戦を避けるべく、イラン大統領訪問に応え、“Lebanese PM Hariri on ‘historic’ visit to Iran”を実現したが奏功するかは不透明。(Jordan Times-AFP)アラブの外交は一筋縄ではいかないのだから

 そういう意味では、お隣【エジプト】も今後どう動くか不透明。野党勢力の徹底的な駆逐作戦が推進されており、国会選挙でも大勝利だが、それが磐石の基盤を意味するとも言えないらしい。親米国として振舞うことで経済支援を得て独裁政権維持に成功してきたが、独裁者世代交代期に入り、それが難しくなってきたという見方も少なくないのである。
 そういわれれば、変化の兆候はある。イランへの姿勢が不可思議なのである。もともと、エジプトは反イランのフセイン政権を支援してきた国である。イスラエルともそれなりの外交が可能な状態だ。にもかかわらず、反米イランとの友好関係樹立の方向を模索しているように映るが、これはどういうことかよくわからない。親米一色ではこの先政権が持たないということだろうか。あるいは、アラブの盟主の地位をサウジに完全に奪われかねないという危惧の念からかも。こんな判断をしたと見るしかなさそうである。
   ・国内のイスラム主義化傾向を止めることは無理
     (親米・親イスラエル的に映らない方向へ転換か)
   ・NPTは実質上崩壊
     (イラン、サウジの保有国化を前提とした外交に転換か)
   ・サウジの軍備増強路線(パキスタンにも秋波)への対抗が必要
     (シーア派問題でのサウジ-イラン対立激化に乗じた親イラン化模索か)

 こうして視野を拡大していくと、世界の動きが繋がっていることに気付く。
 ゴタゴタの発端は【イラン】のアハマディネジャド大統領誕生と言えなくもないのである。当時、先進国では全く注目されていなかった人物が当選した訳で、多くの人の読みは完璧に外れたのである。今も同じ調子で眺めていなければよいが。
 ともかく、この政権のビジョンは明確。中東域に君臨し、世界の大国としての地位を獲得すること。それだけである。従って、宗教的な反米軍事独裁体制の強化一途。
 もともと、反イスラエルであった訳でもなさそうで、非アラブ国として中東に君臨するためには、そこを突くのが一番ということだろう。周囲の親米政権を転覆させ、イラン傘下の国々にしていくにはそれこそが決め手と踏んだのだと思われる。過激な姿勢をとることで、親米政権国家内の過激な反政府勢力を取り込もうということでもあろう。
 その観点では、パレスチナやレバノンの反政権勢力はイランにとっては虎の子であり、支援は徹底したものになろう。それが、中東全域の親米政府対抗武装勢力への強いメッセージになるからである。パレスチナ和平交渉の頓挫も大歓迎だろう。
 このような方針で動くのであるから、表立った外交では、北朝鮮の手法を真似ることになるのは当然と言えよう。大国主義のイランにとっては、王朝的で小国でしかない軍事独裁政権に興味はなかろうが、実利上で大いに参考になるといったところ。役に立つから徹底利用という姿勢では。
 こう考えると、たとえ、先進国が石油禁輸による経済制裁に踏み切ったところで、この政権が揺らぐことはなさそうだ。孤立を恐れるどころか、敵対することこそがイラクの力を世界に誇示できるまたとない機会と考えるだけのこと。
 先進国はすでに投資回避に動いているから経済低迷に見舞われており、若年層失業者も膨大だろうし、先進国の技術が使えないから原油生産も先細る一方なのもわかっていよう。しかし、国内の政権基盤はこうしたことで弱体化するどころか、逆に強化されている可能性の方が高い。ここを読み違えると間違う。
 反政権勢力は米国の手先と見なされかねない訳で、強硬な反米思想をうたわない勢力はいなくなっている筈だからだ。そうした雰囲気が醸し出されれば、軍事力誇示を賛美する国粋主義的な体制強化が進むしかない。
 要するに、核武装化邁進と地域における存在感拡大を国民に見せていれば、政権維持可能ということ。核武装化が実現できれば、現大統領はご用済みとも言える。

 ついでながら、【北朝鮮】だが、イランにとっては実に利用しがいがある国である。もともとは、対イラク戦争での支援からの交流というのが表向き。
 実態から言えば、既存大国に対抗できる軍事強国化路線を追求する国々のネットワークメンバーである、パキスタン、南アフリカ、北朝鮮、リビア、スーダン、等との交流を深めるなかで、北朝鮮がミサイル技術も持っているので一番利用し易かったというだけだろう。産経新聞が、両国は核弾頭登ミサイル(テポドン)の共同開発を進めていると報道したことがあるが、まあ、それが現在の実態と見てよさそうである。今のままなら遠からず、イランも核ミサイルを所有することになる訳である。
 まあ、それに留まるまい。中東と東アジアの二箇所で同時に戦乱の火蓋を切り落とす能力は米国にはなかろうと見ているだろうから、軍事的緊張創出を交互に作り出す動きは止まることはない。
 米国はそれを看過するだろうか。米国が動きそうにないと見たら、イスラエルや韓国は、はたして静観できるだろうか。

 ともあれ、パレスチナ和平交渉が頓挫して、平穏な状況が続くとは考えにくい。ロシアや中国は、放置しお茶を濁すやり方で行くつもりのようだが、もうどうにもならないのではないか。ついに行きつくところまで来た感じがする。どこかで、何かがおこるに違いない。
 全てが連動しているのは間違いなく、些細なことかが大事に繋がる可能性は極めて高い。

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