■■■■■ 2011.1.17 ■■■■■

 ついに不条理政治が始まった

 新内閣発足直前の経済財政担当相の発言は面白かった。「ただ一言申し上げれば、人生というのは不条理だな」と語ったからである。流石、野末陳平の直弟子。突き刺さる言葉だ。
 言うまでもないが、このポストを追い出されのだが、その新任者はこともあろうに同一選挙区(東京1区)で戦った自民党の対立候補。小選挙区制度の意義帳消しのトンデモ策。民主主義どころの話ではなかろう。
 ついに、「不条理内閣」の誕生とあいなった訳だ。

 政治的動物たる首相の本領発揮と言えよう。政策目標とは、一日でも長く首相を続けることで、それ以外にはなにもないのだから当然の一手。
 要するに、「消費税増税とTPPを実現したければ、首相を支持せよ」というメッセージを発することで、椅子にしがみつこうという姑息な手法。

 まあ、政治屋としては一流ということだが、今の時代、そんな人を宰相にしておくほど危険なことはない。そのことに鈍感な人だらけなのは驚くべきこと。「歴史は繰り返す」という言葉を思い出しておくべきではないか。
 無定見の首相がいれかわり立ち代わり状態で、政治が迷走。ついには国家の破滅に至ったのは大昔のことではないのである。
 経済の生命線死守という話も当時と同じようなものだし、シナリオ無き外交や無責任な内政もそっくり。その結果、政治に対する信頼感は地に落ち、悲惨な道を歩まされたのだが、同じ轍を踏まされるのかも。
 そうそう、特筆すべきは、マスコミの姿勢。こちらも当時と同じようなもの。

 それはともかく、海江田発言は結構本質をついているところが秀逸。
 そう思ったのは、実は、この不条理の指摘だけではない。2010年年末に、「年収1,500万円が金持ちかというと金持ちではない。まだまだ中間所得者だ。」と語った点。ポロっと不用意に発言しただけのようだが、こちらも実に面白かった。
 マスコミは揃って、そんな高額の給与所得者は全体の1.2%にすぎないと騒いだからである。まあ統計情報で見ればその通りだし、年収300〜500万円の給与所得者から見れば、とてつもなく「リッチ」に映るのは間違いあるまい。しかし、日本の実態はどうなっているのか考えて見る必要があろう。

 東京1区は多様な地域からなるが、ざっくり見て、この地域で単なる年収1,500万円ではお金持ちとは言い難いのは確か。間違えてはこまるが、高額所得者が多い地域だからという意味でそう考えるのではない。
 お金持ちの給与所得者とはどういう人達か考えれば、そう言わざるをえないからだ。

 逆で考えればわかり易いだろう。年収100万円以下の層は、貧困に喘いでいると見てよいか。
 もちろん、そういった状態の人も少なからず存在する。しかし、たまに仕事をするだけか、年金のみという人達もこの層に該当する。貧困とはほど遠いだけではなく、その方々と、年収1,500万円の層の生活レベルはたいして変わらなく見えることも少なくない。見方によっては逆転。それが現実。
 そんなことを知っていれば、独楽鼠のように年がら年中働いている年収1,500万円の給与所得者をお金持ちとは言いたくなくなる。

 さらに言えば、ほとんど仕事らしい仕事をしていなくても、自動的に年収500万円の給与所得を得ている人も少なくないと言われている。たいていは、経営者の家族である。そして、その経営者にしても、給与所得者で1,500万円以下だったりすることも少なくない。言うまでもないが、その生活実態は年収5,000万円レベルだったりする訳である。ただ、そういう人は目立つことはないし、マスコミに取り上げられることもない。

 ご存知だと思うが、日本のお金持ちは、たいてい財産管理会社を設立している。利益はそこに溜め込まれ、個人所得で高額な税金を支払わないで済むように工夫されている。税務署もそんなことは百も承知だが、課税すべく頑張れば頑張るほど、節税策指南を商売とするプロがさらに頭を働かせるというのが実態。

 従って、収入が透明化されている、資産なき年収1,500万円の給与所得者を「まだまだ中間所得者」と呼ぶのは、この地区で考えれば至極妥当。税金と保険料を差し引かれ、住居費用を払えば、一般のサラリーマンとそれほど大きな違いはない。なにせ、この地域では、地方で2,000万円弱の極く普通の新築家屋に相当する仕様で、7,000万円〜1億円といったところなのだから。もちろんマンションである。土地を購入できるようなお金持ちではないのだ。

 おわかりだと思うが、収入の数字で、生活実態を理解するのは結構難しいのである。
 例えば、この選挙区の交通至便な坪300万円の地区に低所得者向けの公共住宅がある。この辺りのマンションでは考えられぬほどの広い庭があり、車が通らない広い中央道路まで。そこには出張販売車もやってくる実に便利な住居。当たり前だが、この地区は宅配業者も時間駐車料金を払わされているのだが、ここは治外法権なのである。
 そして、住民所有とおぼしき高級外車が車庫がわりの庭に置かれていたりする。
 常識ではこれを「不条理」と呼ぶ。しかし、手をつけることはできない。

 本当なのか確かめていないが、低所得な家庭の児童・生徒に補助金を配布する制度にしても、「不条理」そのものと言う人がいる。該当者が4割を超えている都市があるという。
 そして、そんな地域では、家族経営企業は失業保険や不況対策雇用補助金の徹底的活用が進んでいるのだとも。もらえるものは何でももらおうというだけのこと。

 もっとも、それは驚くような話ではないという。
 この国では、生活保護受給者は困窮者とは限らないそうだ。名目だけの、老人単身世帯や母子家庭さえ存在すると耳にしたことがある。
 それだけではない。身を粉にして働いている親がいても、その家庭の可処分所得が生活保護世帯に達しなかったりするのは珍しくないという。いかにも日本らしい制度といえよう。
 従って、生活保護世帯の子供は、生活保護からの脱出より、持続を図ることになる。家族を護ろうと真剣に考えるなら、当然の姿勢と言わざるを得まい。
 だが、その程度は「不条理」と言っても実はたいしたものではない。
 日本では、毎年餓死者がでているからだ。生活保護制度はなんの力にもなっていないということ。

 これだけ述べればおわかりだと思うが、今や、不条理が公然とまかり通る社会になりつつあるということ。このまま進めば、皆、私利私欲で動くことになろう。
 そんな時の政治の不条理化。まさに最悪。この風潮を止めるどころか、加速させることになるからである。

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