■■■■■ 2011.2.15 ■■■■■

 米国の中東政策大転換か。

 ムバラク大統領がついに辞任。
 オバマ政権は、政権空白の危険性をさっぱりわかっとらんといった調子で、総選挙まで椅子に留まるつもりとの演説を行ったが、タンタウィ副首相兼国防相に引導を渡されたということのようだ。官邸周囲をデモ隊で取り囲まれる状況になれば、逃亡するか、"名誉"を保った辞任のどちらかを選ぶ以外に手はなかろう。
 おそらく、ムバラク体制を長期に渡って支えてきた、副大統領のスレイマン元総合情報庁長官(陸軍中将)も表舞台から消えることになるのだろう。

 そんな状況だから、メディアの取り上げ方は、エジプトに民主革命の嵐といったところだが、結果論で言えば、軍部による静かなクーデター。

 全体像がわかりにくいことおびただしいが、アルジャジーラを見ていると、感覚的にどういうものかは想像がつく。気付いた点を並べてみようか。

 先ず、運動に参加した"民衆"の特徴。
  ・若い層が圧倒的に多い。(人口動態上当たり前だが。)
  ・貧民層でなく、教育レベルが高そうな人がかなりの割合で含まれていそう。
  ・大挙して参加している筈の"ムスリム同胞団"色はほとんど感じられない。
     -宗教色無し。(世俗政治的な運動として参加した。)
     -主導権奪取の動きを全く見せず。(慈善活動団体のまま。)
  ・政治運動のリーダーは登場せずに終わった。(野党生まれず。)
  ・ムバラク打倒一本槍の運動でしかなかった。
     -軍への賞賛/信頼感表明や兵隊との連帯的様子の映像多し。
     -エジプトとしての誇りの強調。(国旗だらけ。)
     -インタビュー肉声では、反米の声は皆無。

 これをどう見るか。

 軍事独裁政権打倒運動にもかかわらず、軍部を賞賛するしかないという、不思議な運動である。当然ながら、軍にはムバラク派も存在している筈。しかし、軍全体としてはムバラク一族による独裁に終止符をうつべきという流れはできあがっていたということだろう。そうでなければ、ムバラク一族直轄の治安警察が大衆運動の芽を徹底的に摘むことができた筈。すべての政治運動を弾圧してきたにもかかわらず、今回だけ失敗したのは、軍がその動きを阻止した以外に考えにくかろう。
 治安警察が動けないのだから、ムバラク大統領は辞任する以外に道は無いのだが、当人はそれを拒否し続けていた訳である。従って、大統領支持派による襲撃、警察の放任による治安悪化、ガスパイプ破壊テロ等々は、辞任に追い込むための、一手と見ることもできそうだ。
 よく知られているように、軍のエリートは米軍と一体化しており、こうした動きはオバマ政権の意向を踏まえてのものと考えるべきだろう。

 軍事政権が民主化のために権力を握るというのも訳がわからぬが、"ムスリム同胞団"的な議員集団を除けば、野党組織は存在しないのだから、ムバラク政権に代わり政権を担当する組織など皆無。
 常識的には、このまま推移して総選挙に流れ込めば、"ムスリム同胞団"が主流派となるしかなかろう。政治活動は弾圧され続けてきたから、"慈善活動団体"となっているが、本質的にはアラブ民族主義的なスンニ派宗教政治団体である。ガザのハマスと同根なのはよく知られている。当然ながら、根っからの反米勢力である。従って、ムバラク辞任とは親米政権体制終焉を意味する可能性もある。
 しかし、オバマ政権は、早くから、ムバラク政権を見限っていた。

 このことは、米国が中東における親米独裁政権を捨てる決意をしたとも言えそう。
 もしそうなら、一大政策転換である。

 理由なく、政策転換が進む筈はない。イラク侵攻と同じで、中東地区の民主化という理想論で動くことも考えにくい。イラクのアナロジーなら、以下の3つの視点が重要かも。
   ・中東全域を見た安定性(パワーバランス)
   ・原油の市場原理取引システムの維持(資源の政治的武器化阻止)
   ・グローバル経済の流れの阻害国の排除(ドル経済霍乱者抹殺)

 そうなると、以下のような見方をしているということかな。
   ・イスラム圏でも経済発展の余力を生かせる筈だ。
     ムバラク政権では経済的に沈没していくのではないか。
        インドネシア----2億4,297万人・28才 GDP成長率6%
        マレーシア------2,827万人・27才 GDP成長率7.1%
     イラク以下の成長率では無能な為政者と見なすしかあるまい。
      (若くて人口増加中の国なのだから高成長を狙うべき。)
        イラク-----2,967万人・21才 GDP成長率5.5%
        エジプト---8,047万人・24才 GDP成長率5.3%
   ・トルコ、イランへの拮抗勢力としての地域大国の役割を果たして欲しい。
     ペルシアと屹立するアラブ大国があると地域の収まりがよい。
        トルコ-----7,780万人・28才 GDP成長率7.3%
        イラン-----7,692万人・26才 GDP成長率3%
     フセインなきあと、シーア派に対抗するスンニ派大国が必要。
     イスラム大同団結型の反米運動化を阻止する
   ・独裁政治への敵意で生まれた反米テロ集団を孤立化させる必要がある。
     親米を謳う独裁政権の残虐な国内弾圧がテロの温床でもある。
        サウジアラビア------2,573万人・25才 GDP成長率3.8%
        イエメン------2,350万人・18才 GDP成長率5.2%
     アルカイダの資金源はどうみてもサウジアラビアのリッチ層。
     実行部隊の中核は、逃亡エジプト族とイエメン部族なのでは。
   ・トルコ型「宗教的政党+世俗政治護持軍部」モデルが成り立つかも。
     "ムスリム同胞団"の資金源は海外に脱出した成功ビジネスマンでは。
     "ムスリム同胞団"の単独政権は難しそうである。
     アラブの盟主としての非原理主義宗教勢力が生まれる余地がある。

 要するに、中東も経済発展地域にしようということでは。チュニジアやヨルダンのような国々に魅力はなくなりつつあるのかも。
        チュニジア------1,059万人・30才 GDP成長率3.4%
        ヨルダン------641万人・22才 GDP成長率3.2%

 ティーパーティが生まれた位であり、米国は変わり始めるのかも知れぬ。その第一歩が、中東政策の変更か。要するに、中東地域安定のために、自国の貴重な資源を無駄につぎ込むべきでないということ。覇権国として世界に君臨するシナリオが描けるなら、サウジアラビアの独裁政権を切り捨てかねまい。

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