■■■■■ 2011.2.24 ■■■■■

 「本当の政治記事」が生まれないのは何故か。

 今迄読んだ覚えがないのだが、たまたま、DIAMOND onlineの"週間上杉隆"コラムを読んだ。
   「日本の政治報道を退屈にしたのは誰か
     ――政治記者のみなさん、そろそろ本当の政治記事を書きませんか?」
     上杉隆[ジャーナリスト] 2011年2月18日 (C) DIAMOND
 多分、多くの人は"その通り"と拍手するのだろうが、小生は違和感を覚えたので書き留めておくことにした。

 日本のメディアの「政局記事」を例にとり、これは通信社が流す"ストレートニュース"でしかなく、記者が深層を書く新聞記事ではないというのである。欧米では、記者署名があってこその"新聞記事"だが、日本だけがそうなっていないとも。
 "何ら深みはないし、膝を打つような分析もない"し、"なにより読んでいてまったく面白くもなんともない"。これを、そろそろ変えたらという訳。

 うーむ。なんとも言い難し。

   ---その1---
 先ず、署名の話。
 日本の場合、署名がある記事は質が担保されているという訳ではなさそうである。基本的な認識が間違っていたり、明らかに見当違いの話が書かれていたりして驚いたことがある。署名記事にするのは当然のことだが、質を高める手段と考えるのはよした方がよい。
 業界人なら、理想論でなく、現状を直視すべきでは。
 取材するなら少しは調べたらよさそうに思うが、そんなことさえ面倒臭がる「記者」が目立つはご存知の筈。要するに、ピンキリ状態なのでは。下手をすれば、キリ記者だらけになってしまうのではないか。
 日本の場合、"本当の政治記事"を書くことを推奨するどころではないのでは。

   ---その2---
 従って、"ストレートニュース"の方が本質を知らせてくれたりする。それが、日本の特徴である。
 通信社のインタビューをお読みになってみたら如何。
   「インタビュー:予算案・特例公債法案の成立、国債格下げ要因に=自民・林氏」
     ロイターニュース 吉川裕子 梶本哲史 2011年2月21日 (C) Reuters

 この情報、記事より質が高いと思わないかね。それはインタビューという生情報だったからではない。インタビューワーに聴きたいことがあり、的確な質問をすることにより、意味ある情報に仕上がっていると思われるからだ。
 ちなみに、新聞記者がどんな質問をする人達か、記者会見録をご覧になるとよかろう。
 ピンキリの世界であることがわかろう。
 およそ、時間の無駄としか思えないものだらけ。聴きたいことが無いのだと思われる。と言うか、意味の薄い質問をすることで時間を潰し、公開場面で情報を出させないように図っているのだと思われる。"朝から晩まで政治家を追いかけ"、せっかく得た情報の価値をゼロにされたくないのかも。"政治記者は大変"なのだ。

   ---その3---
 ここまでで、言いたいことがなんとなくおわかりかな。
 新聞社あるいは記者が、報道に当たって、なんらかの政治潮流に肩入れするのは別にどうということはない。重要なのは、それをはっきり示すこと。
 しかし、日本の場合は、それが中途半端になってしまう。
 新聞社といってもコングロマリット企業であり、様々な事業を抱えているからだ。確固たる主張を打ち出すといっても自ずと限界があろう。ビジネス上、矛盾を引き起こしかねない主張は出来る訳がないのである。
 と来れば、無難なのは上っ面の政局話しかなかろう。下手に、深みある分析は危険極まりない。読者が喜んでくれるなら、政局情報の垂れ流し報道に安住するのは必然なのでは。

   ---その4---
 だが、小生は、そんなことより、日本のメディアの一番の問題は、反論を恣意的に扱って落し込めようとする姿勢にあると思う。ここは、海外とは大きく違う。
 例えば、日銀にインフレを煽る主張に賛成したいとなると、その主張に沿った情報ばかり取り上げる。そして、お眼鏡にかなった論者に、"デフレが不況というのは、子供でもわかる"といった罵倒交じりの低俗な排他的な表現を多用させる。半ば意図的。
 質の悪いことおびただしい。
 今時、小学生でも"スタフグレーション"という言葉を知っている訳だ。インフレが経済好況にどうしてつながるのかといった当たり前の疑問に応える構成にせず、情緒に訴える報道に振る訳である。皮肉やジョーク絡みの記事は喜ばれるが、この手の書き方は欧米では滅多に目にしない。はっきり言って異様。

 読者が知りたいのは、その主張に沿って政策が展開されると、実際にはどんな施策が打たれるのかとか、その結果どんな副作用をもたらす可能性があるかだ。ご想像がつくと思うが、その手の話はほとんど登場しない。この主張に賛成している記者にはそんなことには全く興味がないからであろう。
 政局情報垂れ流し報道とよく似たパターン。
 欧米メディアでは、必ず質の高い反論が掲載されており、読む方は議論のポイントがよくわかる。主張の正当性を裏付けるには、質の高い反論を並べて比較することは必須と考えているのだろう。日本の姿勢とは真逆。
 日本の新聞は大衆紙なのだから致し方あるまいといえば身も蓋もないが。

   ---その5---
 こうして考えてみると、"政治記者たちがすべて「通信記者」だから", "無味乾燥の退屈な「政局報道」ばかりが蔓延る"というのは妥当な見方と言えるかはなはだ疑問。"何ら深みはないし、膝を打つような分析もない"のは、欧米とは記者の立ち位置が違うからと考えた方がよいのでは。
 日本の記者には政治家あるいは政治屋が沢山含まれている結果なのでは。

 それではこの状況を変えるにはどうしたらよいか。小生は自明だと思うが。
 それは何だと聞くような方には、情報垂れ流しの政局話を読み続けることをお勧めしたい。

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