■■■■■ 2011.2.28 ■■■■■

 日本の電子書籍産業はどうなるのだろうか。

--- 日本の2010年が、電子書籍元年だったとは思えない。 ---
 2010年は「電子書籍元年」という触れ込みだった。結局どうだったかといえば・・・。

 米国は市場が成長期に入り始めたようである。New York Times "Best Sellers"での分類は、ハードカバー、ペーパーバック、Eブックの3種類になり、事実上本の一角を占めるまでに至った。
 とりあえず並べたのとは違うのはFICTIONの順位を見れば一目瞭然。ベストセラーの総合ランク1位は「TICK TOCK」で、2位が「ALONE」。前者はハードカバーでも1位だが、後者では5位にも入っていない。とくれば、ご想像がつくように、前者は電子書籍では2位で、後者が1位なのである。[@2011.2.27]ついに、ここまで来た訳。

 これに比べると、日本の場合は、掛け声だけと言ってよいのでは。
 なんといっても、Kindleが日本で上市されなかったことが大きい。日本語表示リーダーを1時間ほどかけて比較する機会があったが、Kindleなら十分使えるという感じがしていたのに残念至極。しかも簡易ブラウザが使えるとなれば、ニュースも読めるのだから魅力十分。
 一方、小生にとっては、Kindle以外ですぐ手に入るリーダー機器は、正直のところどれも今一歩。それぞれ、いかにもお家の事情で仕様が決まったというところか。それで市場が立ち上がるのか、はなはだ疑問。
 ちょっと眺めてみよううか。

--- iPadの凄さとは価格である。従来型読書用には不向き。 ---
 まず、光る液晶画面のiPad。人気があるようだ。
 だが、この画面では、長時間集中してモノクロ書籍を読む気にはならない。そして、問題が重さ。持ちながら長時間読むのはつらい。座って足の上に置き手で支える方法になろう。これを考えると、読書としてなら、パーソナル用より、ビジネス用に向いている感じがする。
 しかし、iPadに魅力が無いという訳ではない。様々なサイトの視聴用なら、キーボード無しのシンプルな機器が欲しくなるのは当たり前だからだ。しかも、これだけ洗練された機能を持ち、画面の大きさも十分ありながら、廉価ときている。つい手が伸びそうになる。
 問題はフラッシュが動かないことだけ。今や、フラッシュ無しでは何も見れないサイトもあるから、とても使う気にはなれない。しかし、カラー本や動画等の機能を付加した新ジャンルの「本」を読みたいとなると、購入することになるかも。
 このレベルの価格で、日本の家電メーカーが洗練された商品を上市できるとは思えず、待っている意味は薄いからでもある。(Appleは準直販体制だし、1モデル大量生産方式。日本での価格競争相手は、秋葉原で売られている仕様不明の無保証製品だけかも。)

--- GALAPAGOSのコンセプトはよくわからず。 ---
 同じく液晶の小型機器でGALAPAGOSがある。量販店で数分触っただけで仕様のほどは良く知らない。インテリジェント読書端末といった印象を受けたが、興味は湧かなかった。
 と言うのは、かつて、インターネット接続フルカラー液晶PDA(ザウルスの上位機種。確か定価で10万円強だったか。)で書類を読んでいたことがあり、あいも変らぬコンセプトに映ったからである。実際どうなのかはよくわからないが。
 そうなるのは、直販体制だからでもある。量販店に展示されているから一瞥はするものの、面倒だから、購入検討対象から外しているのである。従って、メディアタブレットとスマートフォンとの違いも気になったが、聞く気もおきず。

--- 通信機能無きSONY Readerの仕様は、日本社会に合わせたということか。 ---
 液晶でなく、電子ペーパー表示の上、ほとんど文庫本と同じなのが、SONY Reader。ページめくりが本より楽になるから、思わず買いたくなるところだが、問題がある。Wifiが無いからだ。今や、どこでも無線接続は当たり前の時代にこの仕様とはカッカリ。これでは手が伸びない。
 おそらく、本好き用なのだろう。
 例えば、漱石全集のような厚くて重い本は本棚飾りには最適だが、読みにくいことこの上なし。しかし、漱石好きは少なくない。そうなると、青空文庫のテキストを編纂してReaderで読むのは悪くない方法。本の置き場にこまる濫読主義者も嬉しいリーダーに違いなかろう。
 しかし、残念ながら、小生はその層には合てはまらないのである。それにしても、このような製品が登場してしまうのはさみしい限り。

 以前の失敗を教訓化すれば、そうなってしまうのかも。
 電子ペーパーの読み易さは明らか。しかし、それを使おうとはしないのが、日本の自称"読書家"。前回の大失敗の原因としては、出版社が普及抑制姿勢で臨んだことが大きく響いたのは確かだが、"読書家"がリーダーを購入しようとしなかったことも大きい。そうなったのは、自宅にコレクションとして本を並べることが嬉しい人が大半だったからである可能性が高い。ダウンロード型購入が嫌われたということ。それは音楽を見ればわかる。なにせ、"一般大衆"でも、ケータイのお気軽ダウンロードバージョンは浸透したが、パソコンのCD代替バージョンのダウンロードにはなかなか手を出さないのである。
 そうそう、IT関連の人達も、当時、ほとんど手を出さなかった。日本のこの層は流行で食べているが、見かけとは違い、大半は保守的なのだそうである。当時、発売されたばかりの電子ペーパーリーダーをいち早く使い始めた、IT産業で駆け抜けてきた"合理主義者"から教えてもらった話。この機器は日本では売れないから、早く購入しておいた方がよいと言われたのを思い出す。
 それに付け加えて、もう一つ。紙だらけで、重い鞄を持ち運ぶ特殊階層の存在も指摘しておくべきだろう。・・・論文コピーと近刊の学会誌数冊、ノートとレポート用紙。さらに、専門分野の分厚いハードカバー本。それに雑用関係の薄い書類。即時処理しないので、これが束となっている。場合によっては、これにパソコンまで。さらに、突然の雨を考えて、折り畳傘。まだまだあるのだが、これだけでとてつもない重量に達している。これを毎日数時間かけて歩いて運ぶ人達が大勢いるのだ。
 これを電子化してリーダーで読めばよさそうに思うのは、素人考え。この階層の人々にとっては、これこそがステータスシンボルなのである。"重い、重い"というのは悲鳴ではなく、嬉しさの表現と見るべきなのである。
 こんなところが日本の現実。通信機能無しの機器が登場して当然である。残念なことだが、致し方ない。

 そう言えば、通信機能がつく電子ペーパーリーダー「biblio Leaf」も上市されている。ただ、宣伝を見る限り、指定購入ルート以外では使えそうもない単機能の特殊デバイス。新機軸のサービスがあるなら別だが、この手のリーダーが期待されているのとは思えぬが。

--- 日本における電子書籍の一番の問題は規格だと思う。 ---
 こうして眺めて見ると、日本の一番の問題は、以前に試みて全く売れなかった独自の書籍規格を出版業界が守り続けていることではないか。英語で他の規格が標準化してしまえば、互換性なき規格を普及させるには余程の利点が無い限り無理筋だろう。多少のメリットで並存もありえないではないが、それは日本語リーダーの魅力を損ねることになりかねない。
 この状況だと、日本は電子書籍化の波に乗れない可能性が高い。新ジャンルの書籍が流行始めたらアウトではないか。
 まあ、トラップ状態のようだからどうにもならないのだろう。

 その根源はどうもAdobe InDesighにありそう。一見、このフォーマットによる書籍データ化が完了しているから、フォーマット変換で電子書籍化が進むと軽く考えていたが、それは夢でしかないようである。ePubへの書き換えは、XHTMLのタグ形式になるような論理的プログラム変換だけでは、ページレイアウト調整ができないので、どうにもならないということ。校訂に膨大な力仕事が必要になるから、ePub化とは、今迄のデータをお釈迦にするのと変わらないのだろう。これは厄介な話である。
 ("中間ファイル"の標準化話が持ち上がる理由はそこら辺りにあるということか。)

 こうしてざっと眺めると、なんとなく日本の将来が見えてきた感じがする。
 ・・・中途半端なリーダー機器しか上市されていないことが、かえって、一部の企業に、電子出版の覇者となるチャンスを与えているからだ。そんな企業が動き始めれば、出版業界大変動かも。

<<< 附記 >>>
  ePub用としてよく紹介されるソフト(日本での利用実態はよくわからない。)
   ・テキスト形式をePubに。
     Text2ePub v0.9 (C) No. 722 
   ・連番画像をePubに。
     ChainLP v0.37-8 (C) No. 722 
     電子書籍自炊処理班プランA+B (C) D-Climbs  ,
   ・WYSIWYG editor: html等のファイルをePubにできる。
     sigil (open source) [UTF-16] 
   ・メタデータ編集でePubに。
     メディアブックパブリッシャー (C) SeasideSoft 
     FUSEe β (C) FUSE Network 
   ・本らしくする管理ソフト。
     calibre (C) Kovid Goyal 

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