日本には、中京・浜松地域や関西家電産業といった例外を除けば、首都圏以外にまともな産業技術集積地は無い。
にもかかわらず、この無二の集積地に立地する中核企業の研究開発拠点のアウトプットが、質・量ともに低下一途。しかも、こうした拠点を裏から支えてきた中小企業群が経営的に苦しい状況に陥っている。つまり、日本の産業技術立国体制にほころびが生じているということ。
ところが、未だに、脱首都圏の産業政策が続いたまま。こまったもの。
もちろん、一極集中はリスクが高いから、理屈ではそれは悪いことではない。しかし、実践的には、この流れは意味が薄いどころか、日本の技術力弱体化を促進させていると言わざるを得ない。
ともかく、未だに、学術研究機関等を絡めた、地方での産業集積政策(テクノポリス等)が続いている。延々続けているにもかかわらず、国際的に意味ある集積地など何一つ生まれていないにもかかわらず、未だにご執心なのだ。しかも、ミクロの成功例を喧伝したりして、大失敗を認めようともしない。マクロで見れば、最大の産業集積地たる首都圏の強化のための投資の源資を切り詰め、地方に回し続けているということ。こんなことを続ければ、日本全体の生産性が落ちる一方なのは当たり前。言うまでもないが、学者は別だが、こうなることなど当初から予想されていた話。
東北地方で考えて見ればわかるのではなかろうか。
東北の強みは、首都圏から、ヒトもモノも半日で到達できる点。その利点から、数々の大手企業の関連企業の工場が稼動している。どう見たところで、他に、特段の魅力がある訳ではない。と言うより、魅力的とは言い難い。
海外に比べれば、工場のイニシャル・コストもランニング・コストも驚くほど高い。もちろん、勤労意欲もたいしたことはない。
大手企業グループに属する工場のコア従業員層の状況を見れば、この地域がどう見られているかは一目瞭然。
ほとんんどが単身赴任の出向者である。この人達が現地に根を下ろすことは稀。これでは、この地域のエンジニアの層は薄いと考えざる得まい。まあ、それだからこそ、生産に関する情報が海外の競合に流出しにくいから、嬉しいと言えないこともないが。
自動車産業にしても、その業態からみて、この地域で、従業員一人当たりの付加価値生産額が増えているとはとうてい思えない。知的生産の方向へと産業が歩を進めている兆しは全くないと言ってよかろう。これがまぎれも無い現実。
ただ、そんな状態を、逆に、社会的な風土としての強みとしてとらえることもできるかも。現地での下請けの中小・零細企業の対応のよさは、特筆ものだからだ。主要顧客が決まっており、普通は、地域外顧客開発もしないのだから、特定の発注元の満足度向上に全力をあげることになる。当然ながら、顧客対応姿勢は格別。顧客対応に全身全霊を捧げるから、組織一丸となって動くので、しっかりした経営の企業と勘違いするのだ。圧倒的な顧客対応力というのは、確かに間違いではない。
ところが、これが一番の問題なのである。他地区状況と比較するベンチマーク作業が欠落しているからだ。この状態では、どのようなスキル向上を図ればよいか、経営判断もできまい。これは強みと言うより、弱み。
と言うのは、首都圏から来た経営者ではないからでもある。生産管理(QCD)の実体験を欠くため、その経営スキルが無いのだ。それても上手に運営できるのは、発注元が下請け・孫請けの実情を理解しており、それに合わせた運営と指導を行っているから。
早い話、海外と競争できる技術力が期待できるのは、大手企業の現地法人的工場だけ。ここだけは、グローバルに見て、生産技術で卓越している。だから、全体で見ると、技術力があるように見えるのだ。
この状態だと、現地の下請け企業の海外移転は困難と言わざるを得まい。又、発注元からすれば、下請け企業がサブアセンブリ事業へと上流展開してくれたり、末端部品の革新的生産体制実現を作ることを期待したいが、これもかなわぬ夢では。
この地域での、スピンアウト優良企業誕生は例外事象と見た方が当たっていると思う。新規事業誕生は稀と言えまいか。
モノもヒトも運ぶのに時間を要する首都圏から遠く離れた地域の方が、新しい展開を自ら進めなければ食えなくなりかねないから必死だろうが、ここは受動態的対応で「お客様は神様」路線でも当座食べることができるからでもある。
こんな状況を鑑みると、今のままこうした体制を続けていてよいか、そろそろ思案のしどころでは。
今、急ぐべきは、首都圏の再構築では。
グローバルなJITの進展で物流施設の役割が変わりつつあるから、これをチャンスとしてとらえることもできよう。大規模倉庫や配送設備が不要化しているし、そこに、マザー工場やリードタイムが短い少量多品種商品製造施設をあててもよいのだ。異常に生産性が低い日本の小売業も、モノ作りと絡ませれば、首都圏ならではの変身の可能性もあるのではないか。技術が集積しているうちに、その強みを活かすべきでは。
ともかく、研究所や開発センターを首都圏へと呼び込むこと。そうすれば、まがりなりにもベンチャーキャピタルが動いているから、新しい動きが生まれるかも。ここなら、その気になれば、胡散臭い動きを避けることも可能だからだ。
そうそう、言うまでもないが、首都圏ではエネルギー問題などどうということはない。東京ガス等の地域発電業者に任せればよいだけのことだからだ。この手の発電は、エネルギー効率が極めて高い。その動きを促進させる合理的な仕組みさえ作りさえすれば、即稼動だ。首都圏だけの、特別立法で十分だから簡単そのもの。そうした動きを葬りさって来た政治家を抑えればよいだけのこと。実は、そちらは簡単ではないのだが。