■■■■■ 2011.9.16 ■■■■■

 日本での電子書籍化はまた挫折

量販店に「GALAPAGOS」コーナーを設置し、そこで、専属の宣伝員が"雑誌感覚で使って下さい"と懇切丁寧に説明してくれたりして、ずいぶん力を入れるものと驚かされた覚えがある。それが販売終了だそうである。

まあ、今の書籍市場の状況を考えれば致し方あるまい。
本屋の店頭は、同じようなタイトルで中味の薄い本だらけ。流石に、そこには人が集まるようだが、まともそうな本の方にはお客さんはさっぱり。コンビニなどに流れているというが、そこで売れているものは特定のものと雑誌。
大地震後、本離れの傾向が強まっている感じがする。
いよいよ来るところまで来たのではないか。

ただ、これは環境が悪くなったというより、出版業界自らが選んだ道である。

企画勝負でなく、ただただ新本を連発して棚取り競争をしてきたからだ。それで経営が成り立つならわかるが、常識で考えれば没落しかないのでは。
問題は、こうした非常識な企業がいると、生き延びるために競争相手も同じことをせざるを得なくなる点。同じような出版物で食べているから、いかんともしがたい。
お陰で、下手な鉄砲も数打てば式が続く。本を出すだけで嬉しい人は少なくないから書き手は無尽蔵で、運転資金が続く限りこの流れは止まらない。悪本、良本を駆逐となる訳だ。
それに輪をかけているのが、インターネットの普及。
瑣末な情報を独占して、それをタネに小出しで本を書いているだけの執筆者や、わかりきった内容のご高説を垂れる御仁だらけということが、次第にわかってきて、そんな人の書いた本を読む気がしなくなってきた訳である。
要するに、あまりに質の低い本の連発で、皆、ほとほと飽きてきたということ。

本来なら、電子書籍化で、より多種多様な本を生み出す工夫が生まれてしかるべき。余り儲からないが良質な本を多数出版することになる訳だ。そのなかから、猛烈に売れる本も登場という流れができると市場は伸びるもの。皆、新しい素晴らしい本を期待するようになるからである。
現状はその逆。マーケティング巧者による企画本市場は伸びるが、残りは低迷一途。当然ながら、ヒット狙い本ばかりでは興味を失う顧客が増える。一時の大当たりもあろうが、市場全体は人口減少より早いスピードで縮小一途となろう。

そんな市場を前提にすれば、日本で電子書籍リーダーが売れる可能性は極めて低いと言わざるを得まい。売るには、そうした出版文化を変革するものでなくては無理なのではあるまいか。
そういう意味では、失礼ながら、「GALAPAGOS」は予想通り販売中止といったところ。

もっとも、書籍リーダーではなく、マルチメディア対応をウリとしていたようだ。しかし、それはそれでもっと難しかろう。本は読みづらい機器ということになりかねないからだ。
実際、雑誌や本の使い勝手とは程遠い商品である。読書用の場合、要件としては画面の広さと重さがあげられる。7インチレベルはどうしても欲しいから、10インチなら結構だが、コレ重さが765g。常識的には落下防止用ストラップなどといった、持ち易さの工夫も必要だと思うが、そんな気配はない。手に持って、本を読み切る用途としてありえるかはなはだ疑問。

美しい画像や動画を見れるという点では素晴らしい製品かも知れぬが、その行為と読書を並立する意味があるかはよく考えるべきでは。一般雑誌や本を読んでいる人に、それがどれだけ嬉しいものかという点で。
一寸、料理本のレシピを見るとかいう用途もあるが、小生はテレビとラジオの合体のように映る。書籍リーダーはやはり本を楽に読めることが第一条件だと思うが。
もっとも、その手の専用機器開発は日本企業が一番の苦手分野。役に立とうが立つまいが機能をゴテゴテつけたり、新しいことが色々できる新製品を出さないと人々が注目してくれないからだ。新製品ラッシュのなかで、顧客が色々と遊んで、人気機能が決まっていくのが普通。次々と機能を付加してモデルチェンジしていかないとさっぱり売れない市場なのである。
そのお陰で、普通のオジサンが使いたいような単なる携帯電話は、価格的にも、日本企業は出せない状況にある。この鉄則に従ってしまうと、日本企業にとっては書籍リーダー開発は難しかろう。書籍や書類を物理的にバラしPDF化をする人の数はそれなりのレベルに達しているから、安価な電子書籍ビューワー市場はありえそうだが、残念ながらそれを切り開こうと考える日本企業は登場しそうにない。

それに、電子書店での本の品揃えへの気配りすぎというのも実はマイナスなのでは。書籍フォーマットが決まっていない状況では、主流になるには、品揃えが決定的な意味があるが、乱立となれば、多数派優位などといえないからだ。
もっとも、ここら辺りは現状認識で見方が割れる。小生は、日本は標準つくりに失敗したと見る。コミック、カタログや書類系、英文、古典もの、等々、全く別なものが使われている。実際、青空文庫も様々な形で読める。
この状態だと、特定の規格の電子書籍だけの大規模品揃えの電子書店が存在しても、それに飛びつく人がでるとは考えにくい。

この辺りは、顧客を大雑把にとらえているとわかりにくいかも。
日本の書籍購入者の大半は、書店での本選び好き。読書好きな訳ではない。書店は品揃えもさることながら、陳列が勝負。それを期待して人々が入ってくるからだ。従って、電子書店で重要なのはレビューや口こみ情報との絡み合い。機器がこれを取り持つものなら魅力的だろうが、逆に映れば魅力半減では。

こうして考えてみると、イノベーティブな出版社とそれに応える電子書籍リーダーのメーカーが登場するまで、日本の出版市場の再興はなさそうな気がしてくる。

(ref.)
シャープ株式会社 "メディアタブレット「GALAPAGOS」5.5型/10.8型販売終了について" 2011年9月15日
http://www.sharp.co.jp/corporate/info/announce/110915-a.html


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