■■■■■ 2011.10.6 ■■■■■

 暴力団排除条例をどう見るか

状況がさっぱりわからないにもかかわらず、周囲の反応を見ながら、うけそうなコメントを発するというのが、日本の言論の特徴だが、暴力団排除条例に反撥する類の意見はその極みと言ってもよさそう。

特に目立つのが、初等テキストに載っているような話で暴力団を擁護する意見。

締め付けを厳しくしすぎると、厄介そのものというだけの話。コカイン取締りを徹底すると、中毒者はドラッグ入手のために手段を選ばなくなり凶悪犯罪が発生しかねないから、適度にしておけというようなストーリー。 日本の硬直した学校教育ではこの手の論理を教えないようだが、ほぼ常識であり、これを援用して、暴力団は必要悪と語りたがる訳だ。まあ、人の顔がわからない巨大ヤクザ組織を任侠の世界と解釈する暴力団愛好家や恐喝まがいの脅しをお得意とする人は少なくない社会ならではの現象というだけのことだが。
しかし、この手の意見は、自分は暴力団に接触していないと思い込んでいる、狭い社会で生きている人達には大いに受けるので、結構流行る言説だ。どうなろうと自分の身には関係なさそうだから、リベラルな感覚で社会を見て発言している気分になり、大いに嬉しいのだろう。

しかし、そんな論議をしていてもよかった時代は終わったのでは。
麻薬・覚醒剤、賭博、売春・ポルノといった限られた領域での、古典的な違法行為だけならよかったかも知れぬが、今はそうはいくまい。
と言うと、誤解を招くか。
今や、この3大領域にしても、暴力団の存在が違法行為の一般社会拡散を防いでいる状況とは思えない。逆である。海外のプロの組織が蔓延っている上、アマチュアまで手を出すようになっている。それこそシナジー効果で市場急拡大中。限定市場で互いに争う必要など無きに等しく、皆、大いに潤っていると見るべきだろう。
ここまでくれば、警察の力では抑えきれないのは明らか。
そもそも、この3大領域にしても、対処のポイントは全く違いそうだし、今の陣容で対応しきれるとは思えない。早晩、海外の状況と同じになるしかなかろう。もっとも日本の場合は、巨大組織なので、手がつけられなくなれば、海外よりひどい状況になる可能性が高かろう。
こんなことは、当にわかっていたこと。警察にすべてをまかす、今までのやり方を変えるしかないのである。しかし、誰も動かないから条例制定しかなかったと見るのが正当なところ。
簡単に言えば、警察の仕事と見なされていた分野を大幅に民間にまかせろと言うこと。他に打つ手は無い。

例えば、風俗業態で言えば、暴力団に依頼していた業務を、誰かが事業として立ち上げて欲しいということ。治安悪化を防ぐなら、防犯巡回やトラブル対処の要員を雇用するしかないのである。暴力団の構成員の数と生活レベルを見れば明らかのように、地域住民や小規模事業者の大同団結だけでなんとか対抗できるレベルをすでに通りこしている。
ところが、そんな話をすると、警察OBの天下り先確保の政策は許せぬと語る人が必ず登場してくる。そんな瑣末なことはどうでもよい話。
まあ、見方によっては、地回りヤクザの正業化を図れということでもあるから、これが上手くいけば治安悪化の流れは弱くなるかも知れない。期待はしているが、法的支援が無いから、それにどれだけ実効性あるかはやって見ないとよくわからないところがある。

だが、一番の問題はそんなことではなさそう。
この条例の肝は、一般の企業や個人が、暴力団への利益供与を禁じた点にあるからだ。これを徹底しないと、どうにもならなくなるところまで来てしまったということのようだ。
昔から、風俗業、興行・芸能界、建設・土木業界では暴力団とは持ちつ持たれつの関係があったのは日本の常識。それが簡単に切れるとはとうてい思えない。しかし、そうも言っていられなくなったのは間違いなかろう。
ただ、そんな体質にどっぷり浸かって生きている人達は未だに少なくないから、一般の人も、それに気付かないままでいるのだと思われる。

特に問題と思われるのが金融分野。

表面には出ないが、消費者金融利率上限規制のお蔭で、ヤミ金融が流行っているのは間違いない。高利貸利用なくして経営が成り立たない事業者は五万といるのはよく知られたことだが、事業が存続しているのだから、そんな機能がヤミで広範に提供されている筈。この問題は大きい。単なるアングラマネーで済まないからである。
お得意の恐喝を駆使して、企業のっとりが進んでいると見るべきである。要するに、経済の基幹分野に反社会的勢力が侵食してしまったのである。
当たり前だが、反社会的組織が牛耳る企業が存在すれば、その周囲からまともな競争は消滅していく。経済活動は大きく捻じ曲げられてしまう。
すでに建設・土木業界では相当侵食済みのようだが、残念ながら、大半の行政組織はその暴力にに対抗できる力は持っていないと思われる。なにせ、この業界は労務・地上げ・権利関係、地域問題といったトラブル解決だけでなく、新規参入阻止の機能を全面的に反社会的組織に依存し続けてきたと思われるからだ。そうだとすれば、政治家が無縁ということも考えにくい。大事なのだ。
表に出る恐喝は氷山の一角で、大半は泣き寝入と見た方がよかろう。

こんな状況だとすれば、最初の一歩は、企業内の膿を出すこと。これは社内の人間しかできない。しかし、社内だけで動けるとも思えない。なんらかの仕掛けが必要なのは明らか。上場企業なら、やり方はいくらでもあろう。
もっとも、未だになんの動きもないようである。日本企業は経営感覚が鈍くなっていそうだから、もしかすると、暴力団は必要悪と考えている人だらけかも。


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