■■■■■ 2011.10.19 ■■■■■

 ご隠居さん話を聞かされて

暦の上では秋真っ盛りの頃だと言うのに、夏さながらの日が続いたのにはまいった。先日は、屋外で泳いだほど。気温と日照状況から見れば、驚く話ではないと思うが、そんなことをする人は稀かも。
そんな気分になったのは、見知らぬ人と話していて、ふと、ご隠居さん感覚に陥ったから。

ご存知かも知れないが、安藤広重は13歳の時、父が隠居したので、火消同心職を継ぐ。その本人も26歳で家督を祖父方の嫡子に譲ったのである。武家だから、幕府の方針に合わせて若くして隠居の身分になったという訳でもない。
青物問屋の長男として生まれた伊藤若冲は、父の死去で23歳で跡目相続。家業に全く興味がなく、丹波に隠棲したりして、三千人からなる小売業者は迷惑したそうだ。その後、40歳で正式隠居。そんな滅茶苦茶な勝手が通ったのが江戸時代。

権力者で見れは、もっと昔からそんな制度があった。
上皇あるいは法皇という身分は明らかに隠居。ただ、実権を持ち続けることが多く、摩訶不思議な仕組み。後継者争いを防げるし、正規の組織から離れ、取り巻きで政治を取り仕切れるから便利そのものではあるが。そんなこともあって多用されたのだろうが、ご隠居さん風情を醸す上皇も存在したから面白い。

天野祐吉氏は、「原始、隠居は遊びの達人でした。若いモンの憧れの的でした。が、いまやこの国では、隠居は絶滅種です。」と語る。
しかし、本当にそんなタイプの人は激減しているのだろうか。
マスプロ化しているメディアの世界から見ているからそう映るだけでは。
・・・実は、そんな気分にさせられた、秋の夏日だったのである。

だが、隠居精神は失われつつあるのは間違いなさそう。

と考えてしまったのは、「ご隠居さんであるべき人達が、大学の先生になりたがる。こまったもの。」との一言を聞かされたから。
日本では、大学卒業生を抜擢して力を発揮させる場はほとんどない。そんな学生に、仕事を止めた人が矢鱈教えたがるのは大笑いだという主旨だったのだろうが、確かに一理ある。
もっとも、その方が指摘したかったのは、そんな人の講義を有り難がって聴く学生も学生だということでは。想像にすぎぬが。
大学で必要なのは、こうしたご隠居さんの人生論ではないかという気にさせられた。

(ref.) 天野祐吉編:「隠居大学 よく遊びよく遊べ」 朝日新聞出版 2011年6月30日


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