スティーブ・ジョブズ伝説が未だにそこここで語られている。ここ日本でさえ。
そんな流れが、iPhone for Steveの売り上げ好調を支えているようにも思える。
ただ、指摘されている成功理由には違和感を覚えることが少なくない。
人となりを全く知らないから、そんな見方もあるのかと眺めていたのだが、ピンと来た記事に出会った。
ジョブズ氏の面接を受けてアップルに入り、アイフォーン日本語入力機能の開発に携わった技術者(現在は大学教授)のご指摘である。
「アイデアを実現するために、技術者を集めたところがジョブズ氏の功績だと思う。・・・筋の良い人材や技術を見つけて、デザインする力が優れていたのではないか。」
「一般的に言われていることと少し違う考え」だそうだが、ドンピシャでは。
Apple II時代からの伝統ではないかと思うが、"優秀な"技術者の琴線をくすぐる商品を世に出すのがビジネスの基本パターン。高度な技術を嬉しがり、それが組み込まれていると弄りたくなる人達には最適の玩具でもある。そうしたリードユーザーが核となる市場を作り上げたということ。玩具を現実の仕事や生活シーンで活用するように仕上げるのは購入者側。
そんなタイプの商品を作れるのは、いうまでもないが、"ピカ一"技術者達からなる開発チーム。開発技術者自体がユーザーでもあるから、自分達自身がマーケッターも兼ねていることになる。この強みが生かせる市場なら、抜群の強さを発揮できるのは自明。
「ポストスクリプト」と「マウス」の組み合わせはその典型と言えそう。なんとかして自分の思うような美しい印刷物を作りたいと考えている"先端"で働く人達をターゲットにした瞬間、成功は約束されたようなもの。チームによる磨き上げをベースにして、リーダーの判断による無駄な部分の大胆な切捨てさえできれば、価格と実用性の絶妙なバランスは自然体で実現できる筈だからだ。
Windows陣営はこれとは好対照な世界。
こういっては何だが、主要な想定利用者は"先端"ではあるまい。それこそ、プログラム開発者や利用方法考案者は、エンジニアである必要さえ無かったとは言えまいか。コンピュータの基本的素養が皆無でも、学習し努力すれば十二分に活用できるようにしたことが成功の秘訣では。
要するに、Windows系を支えるエンジニアはピンキリ。それ故に裾野が広がったとは言えまいか。
ちなみに、誇り高きAppleファンがWindowsを毛嫌いする理由の大元はここら辺りにありそう。
(ref.)
「ジョブズ氏を語る:「技術の選択眼、確かだった」増井俊之・慶応義塾大教授」 毎日新聞 2011年10月26日