■■■■■ 2012.1.5 ■■■■■

 年末のエコノミスト北朝鮮特集の論説が気になった

2011年末、The Economistに、"North Korea after Kim Jong Il: We need to talk about Kim - Regime change in the worst country on earth should be planned for, not just hoped for"というタイトルの論説が掲載された。
この手の主張は、欧米流の発想で眺めれば、驚くようなものではないが、どう考えるかネ。

特に注意を払うべきは、この論考のコーダ部分。引用しておこう。
"The regrettable truth is that not just China but also America (fearful of another global crisis), South Korea (fearful of the costs of adopting a country that seems alien to many young Koreans) and Japan (fearful of a united Korea) have propped up a murderous regime. But the Kims cannot survive for ever. The sooner a dialogue begins about how to replace them, the better-not just for the stability of the region, but also for North Korea’s forgotten and downtrodden people."

要するに、どうせ崩壊せざるを得ない悪辣な独裁政権だから、混乱を怖れてただただ現状維持を図る態度をそろそろ変える必要があるゾ、との主張。
そんなものかな。

考えるに当たっては、アラブの状況を眺めておくのもわるくなかろう。

冷徹な独裁者カダフィが消され、それに伴い、数多くの支持部族員が殲滅されたと思われるが、そんなことでリビアが安定することなどありえまい。原油産出のカネの配分を巡って、部族対立が深まる上に、イスラム宗教政治化が進むからだ。
隣国のエジプトやチュニジアにしても、独裁者が倒れれば、統治可能なのは軍隊のみであり、西欧的な民主政治へ進むことなどおよそ考えられない。軍政の下でまともな普通選挙を行えば、宗教政治化が進むだけである。そんなことはアルジェリアで経験済みでよく知れれた話。言うまでもないが、宗教政治とは、宗教指導者が裁断を下す制度を取り入れることを意味する。選ばれた代議員と元首が成文法に従って統治する仕組みとは本質的に相容れない代物なのは明らか。世俗的な自由は制限される方向に舵を切るだけのこと。およそ、民主化とは縁遠い流れである。
それだけならまだしも、カリスマ的宗教独裁者が全域を支配できない状態だと、宗教セクト間の抗争は避けられない。しかも、それが武装した部族間対立と重なるから大事。
独裁政権の秩序が崩壊し、武器が国境を越えて自由に流通しているから、小規模内乱なら何時勃発してもおかしくない。殉教を厭わない兵士は無尽蔵に近いからでもある。そんな動きが、野火のようにアラブ全域に広がる危険性も否定できないのが現実。
そんなことになったのでは、たまったものではなかろう。

悪辣な独裁政権を倒すという理想論を振り撒く人たちは、おそらく、このような結末を迎えてもかまわないと考えているのだ。早い話、民主政治はどうせできない地域と見なしている訳。内部で互いに争いあって自滅してもらうのが最善ということではないか。

そんな調子で朝鮮半島辺りも扱おうというのが、この手の主張とは言えまいか。

ここはバルカン半島と同じで、歴史的に安定しかねる場所。日本史を学べばすぐにわかる筈。神話的記述の時代から、倭国は半島の奥まで出兵していたのだ。大陸の王朝による支配が半島全域に及ぶことを怖れたのは明らか。それも当然。日本人といっても、血族的には、半島の上層階級の避難民との混血でもあるからだ。来訪した人達は、北部、南の3地方、済州島に分裂して、覇権抗争だらけの半島を脱出し、日本でようやく安住の地を見つけたということ。従って、抗争だらけの半島文化を嫌う風土が日本に出来上がって当然。遣隋使の時代になっても、半島経由を避け、危険な海路での大陸との交流を選んだ位だ。
要するに、半島とは、大昔から、周囲の国々の角逐の場であり、隷属安定か、絶え間なき内部抗争の地だったということ。

李朝も独立国ではなかった。琉球のように離島ではないから、貿易のための二枚舌外交はできず、完全隷属しかとりようがなかったと言えよう。日本支配を避ければ、中国王朝の支配に落ち込むだけの話。
日清戦争や日露戦争にしても、それは植民地化時代の戦争ではあるが、日本から見れば、半島を大陸側巨大国家の支配下におかれたのではこまるという発想があったのは間違いあるまい。半島の意向を尊重するなどという発想は周囲のどの国にもないのである。
現代の中国共産党にしても、半島北側への米軍進駐だけは絶対に容認できまい。その地域は、中国の影響下の緩衝地帯でなければこまるのである。そこで下手に民族運動でも勃興したりすれば、東北部の朝鮮族や清帝国の満州族が独立志向を見せかねないからでもある。これは中華帝国全体構造にかかわる問題となってしまうから、ないがしろにできない。北朝鮮は、中国にとっても腫れ物のようなものと言えそう。これでは、実利を取れ、どもかく当座安定さえしてくれれば結構という方針以上は出しようがあるまい。金王朝内部や支配層にどの国もツテが全く無いのだから、たとえ中国でも、リビアのように新政権樹立を図ることは無理なのである。

そんな状況を考えれば、周囲の国々からしてみれば、半島が分断国家のまま静かに落ち着いてくれることが一番となるのは致し方あるまい。北朝鮮の地方に住む人々が餓死していくのは悲惨ではあるが、下手に手出しをした結果、半島の大戦乱勃発となればさらなる大惨事なのだから。それだけはご勘弁ということ。
金成日独裁政権は、それを読んで着々と軍備を増強し、体制を強化してきた訳である。

まあ、そんな見方をしているからアカンという意見もあろう。平和実現の考え方は色々である。


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