■■■■■ 2012.1.7 ■■■■■

 お勧めする気は無いが、翻訳本を一冊ご紹介

昨年11月末に、エリック・フェルテン著(白川貴子訳)「忠誠心、このやっかいな美徳」(早川書房)が発刊された。原書は4月らしいから、邦訳本はほんの一寸遅れての発売ということになる。
ウエブに読後感でも載ることを期待していたのだが、待てどくらせど。

書籍分類としては、哲学・思想かも。そうなると、その分野に興味ある人にとっては場違いな本だろう。目もかけられないといったところだろうか。
そう思うのは、著者が知る人ぞ知るWSJのコラムニストだから。ご存知ない方に説明するなら、ライフスタイル関係の話がお得意な有名人としておこうか。

さて、この本の内容だが、アマゾンの説明を読むと、以下のような特徴をウリにしていそう。
 ・「忠誠心とはなにか」を問う書。
 ・ハーバード大学でロールズとシェリングの薫陶を受けた名門紙のジャーナリストの著作。
 ・”哲学の新スタンダード”がキャッチフレーズ。
 ・さまざまなエピソードや名言が登場。---プラトンからタイガー・ウッズまで、トロイア戦争から9・11まで、古今東西の哲学、文学、映画、音楽にセレブの逸話等々。
 ・様々な視点から解剖。---友情、恋愛と結婚、ビジネスとリーダーシップ、政治、愛国心など。
 ・対立する思想や実例をふんだんに紹介。

ただ、出版社は、ソーシャル・ネットワークでの忠誠心で話題書にしたいようである。それは、どんなものかな。日本では、その手の人達が喜ぶような本ではなさそうだが。
なにせ、結論めいたコメントや主張を書かないところに、この本の良さがあるからだ。

ちなみに、小生が特に気に入った箇所は2つ。
 (1) ゲーム理論における裏切りの意味付け---囚人問題の解説にはいい加減うんざりだが、こちらはエスプリが効いている。
 (2) パウエル国務長官の忠誠心---誰でもが真面目な人と思っていたが、実は、とんだ大ウソつき。しかし、その話は皆避け続けて来たのだ。

と言うことで、自分でものごとを考えてみたい人には面白そうというのが小生の評価。
従って、日本の新聞での一番人気、編集子のコラムがお好きな方にはお勧めできない。この本を読めば、それは断片を恣意的に取り上げたものでしかないことに気付く筈。じっくりと物事を考えたいなら、その手のお話を読みたくなる訳がないのである。

(参考) "The Trials of Devotion Critics of patriotism overstate the extent to which it is rooted in claims of superiority. An excerpt from Eric Felten's 'Loyalty: The Vexing Virtue'" WSJ April 20, 2011


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