■■■■■ 2012.1.20 ■■■■■

 富士フィルムが話題に

オリンパスの醜聞報道はようやく下火に。まあ、とてつもなく儲かりそうな事業がありながらいつまでも借金だらけで、オカシナ企業と感じない人は少なくなかった筈。と言っても、経営実態が表にでることなどあり得まいというのが常識的な見方だったのでは。まあ、内部告発から始まったのでよかったと言えそう。

そもそも胃癌だらけの日本で、胃カメラ事業の基盤を作って世界に雄飛した訳である。医者の世界でのビジネスだから、一筋縄でいく訳もなく、純技術だけで事業の大発展ということはありえそうにないビジネスである。厄介な問題に出くわしても、それをなんとか克服してきたに違いないのである。だが、当事者以外に、そんなビジネス実態が知れることなどあり得まい。そんな文化を引きずっていそうだとは、口にはださなくても、皆考えていたことでは。

従って、競争力が持続できそうなら、どうせ実態はわからないのだから、余計な詮索をよそうというのが、外部の人達の一般的な見方だったとはいえまいか。そうした慣性力は強く、この先もそうそう簡単に変わるものでもないかも。そうなると、日本の企業文化への批判が強まる一方かも知れぬ。

そう考えていたら、正反対の流れが生まれたようだ。
経営に優れている日本企業もあるじゃないか、という指摘。と言えばご想像がつくと思うが、富士フィルムである。ご存知のように商品の宣伝は派手だが、ビジネスに直接関係無い分野ではできる限り目立たぬように動いていると言われ続けてきた会社だ。プロのインベスター好みの地味な企業とでも言ったらよいかも。それが一躍花形扱い化。本来なら、もっと早くに注目を浴びてしかるべきだったが。

そう、そうなったのは、コダックがついにチャプター11に突入したせい。両雄の状況は、余りに対照的。こうなると、メディアもとりあげざるを得ない。
ただ、色々読んでいると、なんとなく違和感を感じる記述に出会ったりするもの。
それがなんとなく気になる。ちょっと書いておくか。

富士フィルムで特筆すべき点はやはり、組織的に緊張感が満ち溢れている点だろう。世界に冠たる巨大企業との競争に負けないように日々頭を使って考えていたに違いなかろうし、一昔前から写真フィルムはそのうちなくなるとされていたから、代替領域への参入は至上命題だった。その新規事業にしても、とりあえず唾をつけるとか、それなりにといった生ぬるい姿勢ではなかった。すべて必死に事業に育てあげたのである。磁気テープしかり、磁気ディスクしかり、光学ディスクしかり、である。流石に、フラッシュメモリまでは手を出さなかったようだが。しかも、デジタルカメラ市場でも健闘しているのだ。パナソニック、ソニーと並ぶ地位を確保していると言うのだから、その底力恐るべし。安易なOEM調達に頼りすぎて、結局のところ力を失っててしまったコダックとは正反対に映る。
そうそう、オリンパスのデジカメ事業だが、赤字だ。この事業は企業アイデンティティであり、広告塔の役割も果たしているから、売却することはなく存続とされていたが、しばらくゴタゴタが続く訳で、はたしてどうなるのだろうか。外野から見れば、医療分野に積極的に踏み出している富士フィルムによる梃入れが一番無難な選択と言いたくなるところだが。

もっとも、インベスターからみれば、富士フィルムの企業価値という点では、目立つのはなんといっても富士ゼロックス。親会社として75%の株を所有しており、これだけでも十分魅力的である。と言っても、よく知られているように、口出さずのスピンアロングの経営だ。立派なもの。
もっとも、そんな姿勢も歴史を考えると当然か。富士フィルム自身がもともと大日本セルロイド(現:ダイセル)のスピンオフなのだから。スピンインはナシで出発したからこそ、頑張り通すことができたとの教訓がありそう。
そのパートナーのゼロックスだが、コダックの城下町ロチェスター発祥のベンチャー。そこは大学を中心とした光学技術のメッカだったのである。数々の日本企業がお世話になった地である。

ところで、このフィルム材料のセルロイドだが、ニトロセルロースと樟脳から作られる。その樟脳は楠から抽出した物質で、日本と台湾の特産品だった。そこから膨大な利益が生まれたのである。当時の財閥は、それを原資にして、様々な産業分野に進出した訳だ。言うまでもなく、そのなかには、今も活躍している大企業が数多く含まれている。日本企業の場合、これがことのほか重要。長い年月にわたって、社員が連綿と繋がっているから、単なる年表表記以上の意味があるからだ。つまり、それぞれ、独自の企業文化を育んできたのである。その文化を生かせるか否かは、一重に経営幹部の肩にかかっており、しっかりとした方向付けができて、組織に緊張感が漲れば、一丸となって動くことで知恵が生まれ、世界に冠たる企業になれるという訳だ。言葉は簡単だが、実行は難しい。アートの世界に近かろう。
ただ、日本企業には、企業文化を定着させやすい風土があるのは確か。その気になりさえすれば、人材を揃えているのだから、飛躍のチャンスはいくらでもあるということ。

(参照)
「富士フイルム、もはやフィルム・メーカーではない=古森社長」 WSJ日本語 2012年 1月 20日
"Fujifilm Chose to Change Focus CEO Says Firm, Kodak Saw Digital Age Coming, 'The question was, what to do about it.'" WSJ JANUARY 20. 2012
"Kodak pays for missing digital moment" FT January 19, 2012
"Could bankruptcy filing spell the end for Kodak, photo innovator overtaken by new technology?" Washington Post "Kodak Files for Bankruptcy as Digital Era Spells End to Film" Bloomberg Jan 20, 2012
"Kodak Bankruptcy May Shed Photography, Bet on Digital Printing" Businessweek January 20, 2012
"The last Kodak moment? Kodak is at death’s door; Fujifilm, its old rival, is thriving. Why? " The Economist Jan 14th 2012


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