■■■■■ 2012.2.2 ■■■■■

 日本企業のTV造りはついに転機を迎えたようだ

事業環境激変で、日本のTVメーカーは極度の事業不振に陥ったとされている。しかし、なるべくしてと言えなくもなさそう。というのは、 そのうち自分で首を絞めることになるのは明らかな政策を政府に要求してきたからだ。その手のツケは必ず回ってくるもの。必然は偶然を媒介として発生するといったところ。

思うに、消費者相手の商売なのに、業界一丸となって政府に頼ろうとする姿勢がすでに時代遅れなのでは。
お隣の国の躍進企業は、お国まるがかえだったから、そうもしたくなるだろうが、日本は発展途上国ではないのだから。ちなみに、あちらでは、輸出対象国の社会に完全に溶け込んだ生活をさせられる社員がいて、どのような製品を開発すれば売れるか考え抜く役目を果たすのだとか。日本ブランドだけで売ろうとの姿勢ではとても勝てまい。
と言うか、そもそも、日本市場で日本企業全社が食べていける状態を政府に作ってもらい、それを経営基盤にして、グローバルな競争力を強化しようとの目論見は無理筋なのでは。
ともかく歪んだ国内産業が出来上がってしまったから、これからが大変だ。短期的には嬉しい施策だったのは間違いないが、この先、その副作用をもろに被ることになるからだ。
・ニーズと無関係な高価格化追求と参入障壁作り
  廉価ニーズを無視
  公共放送視聴に不要な筈のカード搭載義務付け
  量販店を高価格品キャンペーンに誘導
  売り場獲得競争のための品揃えと新製品ラッシュ
・政治的措置による需要の先取り
  国民総出的な強引さで、デジタル化を実現
  アナログCATVも機器買い替え誘導
  エコポイントなる直接補助金制度


当然ながら、2011年の夏を越せば、TVの国内市場は一気に縮小する。そうなれば、経営基盤どころではなくなるのは自明。
先日量販店に行ったら、TV売り場は閑散としていた。そこでの目玉商品のインチ価格がほぼ1,000円。40インチクラスがこの小売価格なのだから、これで工場利益が出せたら奇跡。一方、その横で、インチ価格5,000円の製品が売られている。精細度や画像のキレが見た目ですぐ判別できる訳でもないのに、余りの大差。一体、どうなっているのだろう。
この調子だと、早晩、量販店も廉価ニーズを掘り起こしにかかるのでは。それを防ぐためにはマーケティング費用をさらにばら撒く必要があり、日本企業はますます儲からなくなるのではないか。

せっかく、優秀なエンジニアや研究者を育てながら、どうして、こんな路線を選択するのか理解に苦しむところだ。
違う道を選べばチャンスはあっただろうに。
個別に眺め、勝手なコメントをつけてみようか。

(1) パナソニック
プラズマ大型画面TVは液晶TVに勝てるだけの潜在的力があった筈。自力発光だから画面は美しいし、コスト的には優位に立てる可能性は高かった。しかし、残念ながら、その特長を活かせなかったのである。
しかも、戦略展開を考えることが難しかった訳ではない。何が成功のポイントかを探ることは、容易だったのである。それはパイオニアの事業があったから。化学会社の力を活用し、専用の大規模ラインを作り、美しい大画面TVの大量生産をいち早く狙ったのだが上手くいかず。
そう、問題は価格。
それなら、ここを徹底的に磨けばよいのである。そして、ソニーがCDに賭けたように、大胆な先行的大型工場投資を敢行すれば、・・・。だが、どう見ても、投資が遅すぎた。液晶TVに大場面市場を開いてもらってから、腰をすえてじわじわコスト削減では間に合わない。
健全な大赤字事業で、インチ当たり価格でとてつもなく安価に見える商品を上市し、何はともあれ、大型画面TV市場を自力でしゃにむに拡大し、大量生産によるコストダウンと市場拡大の好循環の弾み車を、自分から回す必要があった。
液晶TVの動勢に合わせていたのでは、プラズマは主流にはなれず。せっかくの特長も理解されずに終わりかねまい。
もっとも、外野がこんなことを口で言うのは簡単だが、現実は厳しいものがあろう。この企業の一番の強みは、原価計算を組み込んだモノ作り。各事業は確実に収益を捻り出さねばならない訳で、不確かな予測で健全な赤字と称する事業展開ができる訳がないからだ。山師のような商売や、エンタテインメントソフトの巨大会社の運営には凝りている筈だし。その点では、ブレずに進んでいそう。もしそうだとすれば、緊張感をバネにして飛躍実現という経験則が成り立つかも。

(2) ソニー
ソニーはトリニトロン方式ブラウン管TVで一世風靡。明るさを強めると、圧倒的に美しく見える製品だった。しかし、そこから先のフラットパネルTVへの展開が遅れたとされている。
しかし、フラットパネルTVでは独自色が出せなかったのだから、それも致し方なかろう。独自技術で力が発揮できそうにない上に投資が嵩む液晶パネル製造を放棄したのは、この企業にとっては当然の選択だったと思われる。問題は、それを続けられなくなった点。ここらが躓きのもとでは。
もう一つは、子供がウキウキするようなエンタテインメントデジタル製品を作るというビジョンを発信していながら、インターネット社会などどこふく風だった点。 外から見れば、ブランドだけで食べる事業へと邁進したとしか思えない。それは、GEブランドのシエア同様の地位に陥ってしまうことを意味する。超美麗画面の高級品発売でブランド価値を高める施策でそれを防ぐのは無理。逆に、信号処理技術で一歩先を行く感を打ち消した効果が大きかったのでは。
もともと、日本企業にしては、戦略的に動くことで、優れているとされていたが、これらを見ると真逆に映りかねまい。実に不思議。
本来は、ネット時代の画期的TVコンセプトをいち早く提起し、新しいエンタテインメント文化を作り出せる、まさに絶好なポジションにいたからなおさらだ。ところが、実際は、TV放送とディスクメディアの旧来文化の伝統を続けることしか眼中になかったようである。
早くこの体質を変え、斬新なエンタテインメント文化を生み出して欲しいもの。

(3) シャープ
大阪万博に参加しなかった企業だが、その風土は保たれているのだろうか。そう感じさせられたのは「堺コンプレックス」を巡る動き。亀山型を広めようとの国策的雰囲気が生まれたから。思わず応援したくなるが、シャープの収益性にどれだけ貢献し、リスクは誰がかぶるのか気になるところ。
それに、技術の流れも腑に落ちぬ点があった。
いかに優れたパネルだろうが、半導体の威力で、画像の美麗さではそうそう大きな差があるとも言えない時代である。従って、液晶TV事業は半導体開発能力と、そのコストマネジメントが重要となる。そうなると、パネルを内製しても競争力向上に大きく貢献するとも言えない筈。
ところが、報道を見ると、さらなる美しい画像を提供できるパネル作りに精を出すための巨大コンプレックスという流れがありそうに映る。宣伝もありそうだから、そのまま受け取る訳にはいかないが、ココがなんとなくしっくりこないのである。と言うか、気がかりなのだ。コンプレックス化によるコスト削減は当然視されがちだが、アセンブル事業の場合、スキルを溜め込んでいないと、簡単に実現できるものではないからだ。
もちろん、「亀山工場製」で、驚くような収益性を実現していればよいが、そのようには見えなかった。コスト競争力があるなら、世界で圧倒的なシェアを獲得する動きがあってしかるべきだと思うが、そんな馬力は感じさせなかった。
にもかかわらずの巨大コンプレックスへの邁進。
それなら、新世代のより大きなガラス基板の投入だけでなく、画期的な製造工程短縮の仕組みか、新しいタイプの液晶への転換目論見でもあるのかと思っていたのだが、どうもそうではなかったようだ。
業界トップ企業との相対シェアを考えれば、こうしたシナリオなき動きは極めてハイリスクな挑戦。損失を被るのは致し方あるまい。そんなことは覚悟の上というのが、この企業の文化と言えそう。

外野の雑音は耳障りだろうからこの辺りで止めにしよう。


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