題名の「心の視力」("The Mind's Eye")が、なんとなくオカルト本的なので気が乗らなかったが、手にとってみた。「レナードの朝」の著者だから読んで見る気になっただけ。
ところが、始めたら止まらず、一気に読了。ただ、引き込まれてしまったというより、奇妙な納得感が生まれ、嬉しくなったから。
概念的把握の本質を改めて見せてもらった感じがしたのである。ヘレンケラー女史がWATERを理解した瞬間を思い出したといったところ。
ただ、障害例をどう読むかにもよるが。
例えば、・・・
・楽譜が読めなくなる。
しかし、暗譜で素晴らしい演奏ができる。
(ピアニストである。)
・文章が読めなくなる。
しかし、会話で素晴らしいコミュニケーション能力を発揮できる。
(作家である。)
・顔を個体として認識できなくなる。
しかし、精神神経科医師として活躍できる。
(この本の著者である。)
これを踏まえて、逆の例へと進む。立体視の復活から、盲目でありながら情景が浮かぶ人まで。
要は、認知とは概念による感覚情報突合せ活動ということ。概念を失えば、感覚器官が正常でもどうにもならない。
このことは、視覚的なイメージあっての、概念とも言える訳だ。
そして、この概念形成活動こそが、創造であり、想像と言うこと。この辺りがヒトの本質のような気がする。
従って、概念形成能力が低いと、見ている世界は狭くて単調なものになりかねない。まあ、常識的な話だが。
訳者があとがきに引用した、失明してしまった方の言葉がソレをいみじくも語ってくれている。・・・
「私が質問すると、目の見える人はそれまで見ていなかったものを見る。目が見える人には何も見えていないことが多い」。
(書籍) オリヴァー・サックス(大田直子役):「心の視力」 早川書房 2011年11月