■■■■■ 2012.3.15 ■■■■■

 温家宝首相、流石

中国の温首相の記者会見が国営テレビで生中継されたそうだ。
「現在の重慶市の党委員会と政府は反省し、事件から教訓をくみ取らなければならない」と述べたという。異例の発言というだけでなく、その中味も極めて厳しいもの。

当然のことながら、重慶市共産党委員会書記は解任。後任は副首相が兼務。

日本のメディアはただただ権力闘争と語るだけ。これでは、思想や政策でどのような対立があるのか、さっぱりわからない。そんな話は、大衆紙路線には不要ということかネ。わかっていそうな人のコメントを一言づつ、いくつか紹介してくれるだけですむ話だが。それほど重要でないと見たのか、あるいは、不親切なだけか、それとも、なんらかの意図があるのか、さっぱりわからぬが。

まあ、この状態で素人的に気にかかったなら、温首相の生の言葉を読むしかない。でも、それだけでも、かなりのことがわかる。・・・「わが党は多くの歴史的問題を解決してきたものの、改革開放の実行後も、文化大革命や封建制の誤りは完全には除去されていない」

なるほど。そういうことか。
コレ、歴史観あってこその発言。現状を冷静に見るとこういうことと指摘してくれた訳である。
久方ぶりに、政治家に感心させられた。

重慶とは、四川盆地にある広大な直轄都市。蒋介石の中国国民党が南京から疎開した首都で、日本軍による無差別爆撃を受けた地。中国にとっては、要衝の地である。だが、なによりも重要なことは、道教の聖地であること。

話は飛ぶが、毛沢東語録を眺めたことがある人ならわかると思うが、コレ、断片的なスローガン集。とうてい思想書と呼べるようなものではない。
実は、そこが鍵である。
老子を道教の神にして、そのよくわからない文章を経典化した時代を、毛沢東が見習ったのは間違いないだろう。なにせ、道教的風土掘り起こしのために、「批孔」から出発した位だ。そして、「毛沢東思想万歳」に至る。ともあれ、語録なる教典を確立しさえすれば、いとも簡単に、排他的な宗教的勢力を組織化することができる。後は、その力で一気に革命に持ち込むだけ。

道教とは中国民衆の意識そのもの。その琴線に触れるように、煽動を続けることで、反対勢力を殲滅していく訳である。スターリンがソビエトで用いた手法の中国版である。

残念ながら、高校の世界史教育では、道教の宗教戦争臭は消されており、単に「黄巾の乱」という名称しか習わない。社会不満が高じて、大きな反乱勃発というイメージしか残らないのである。しかし、それは、明らかに「漢」帝国打倒の宗教革命運動だった。おそらく、宗教勢力による権力打倒の動きとしては、中国歴史上空前絶後。鎮圧されたと習うが、権力奪取に至らなかっただけ。結局のところ、とてつもなく巨大だった「漢」帝国が滅びてしまうのだから。

毎年のプロムスを視聴すれば、今もって、「イングランドに神の国イエルサレムを!」の思想が生き続けていることがよくわかるが、中国にしたところで、理想の帝国が再来するとの道教的民衆思想が連綿と生き続けているのは間違いないのである。

現代では、道教的なものとしては、気功が有名。それを眺めていれば、そこから革命運動につながるようにはとうてい見えないかも。しかし、それは日本的見方。中国では、そういう訳にはいかないのである。重慶では、「打黒」運動から出発した訳だが、それは民衆煽動型であり、その先がどこにつながるかはわかりきった話。蜀の時代の感覚が消えている訳ではない。それが広大な大陸国家の宿命。

小生は、台湾で、道教のお寺に孫悟空が祀られているのを見て、その心情が少しわかった気になった。民衆は、現世で大きな問題に直面すると、直感的に、問題の根源は「天」に背いている為政者にあると見る訳で、それを突破するには、先ずは、偉大な英雄の下で悪人を倒す必要ありと考えるのだと思う。紅衛兵を見ればわかるように、一度火がついたら、それは止まらない。
日本には、そんな動きを、「造反有理」として、賞賛する知識人が少なくなかった。日本の「知」のレベルはその程度のものと知っておいた方がよかろう。

(追記: 素人が、こんなことを平然と書いているのは、・・・)
道教にさして興味がある訳ではないにもかかわらず、上記のような意見を述べているのは、高校の漢文の教師の一言が頭にささっているから。
実は、小生が一番嫌いな教師だった。教科書でなく、印刷が悪い副読本を使うし、教育の中心は、文章をペンで清書させること。実にくだらん。 しかし、そのお陰で、目から鱗の一言をもらったのである。小生にとっては、それだけで、漢文の授業は価値があった。
実は、余りに不愉快な教育内容なので、どうして影響力が薄い道教の老荘の文章を清書する必要があるのか、個人的に質問してみたのである。
すると、予想される答が返ってこなかった。土着の反中央勢力が老子を祭り上げて宗教化したのが道教かも知れないというのだ。老子の思想は孔子の裏面にすぎないとも言えるから、片方だけ学んでもわからない。注意しろとのこと。・・・結局、どちらもまともに学ばなかったが。

(ロイター記事)
「中国の温首相、重慶市の薄熙来氏を強く非難」  2012年 03月 14日
「WRAPUP2: 中国全人代閉幕、温首相が最後の会見で経済・政治改革の加速を表明」 2012年 03月 14日
「情報BOX:温家宝中国首相の発言要旨」 2012年 03月 14日
「薄熙来氏、重慶市共産党委員会書記職を解任される=新華社」2012年 03月 15日


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